ティアナも見慣れた桃色の閃光が、圧倒的質量の魔力の砲弾が、悪魔の戦吼と共に戒めから解放
される。集束されたエネルギーが光の奔流となって地面を穿った。直下にいたスネークが呆然とす
るティアナの手を引くことができたのは、単に直感的に危険を察したからに過ぎない。
 しかし手を取り回避行動を取れたはいいものの、砲撃の威力はスネークの想像をはるかに上回っ
ていた。地と閃光が触れ合う瞬間、衝撃とともに爆発的な風が巻き起こり石の礫が二人の身体を打
つ。
 しかもそれが連続で飛んでくるのだ。
 ついさっきまで恐るべきスピードでピポスバルを捕獲してきた二人だが、今度は逆にものすごい
勢いでダメージが蓄積し、体力が消耗していった。

「お……俺は、まだ……夢と憧れの、アカネハウス11号を見るまでは……」
『しっかりしろスネーク! 会社は一緒だがゲームが違うぞ!』

 膝をつき肘を落とし、意味不明な発言をするスネーク。
 隣のティアナも、同じく息も絶え絶えで、とても先程までイケイケムードで「ゲッチュ!」を繰
り返していたのと同一人物とは考えられない疲れ方だ。
 このままでは全滅を免れない。
 スネークはそう判断し、禁忌と言うべき手段に出ようとしていた。

「質量兵器を使わざるを得ない」
「局員として逮捕せざるを得ない」

 が、真っ向から否定したのはティアナだった。

「やらなきゃやられると言わざるを得ない」
「犯罪者よりマシと割り切らざるを得ない」
「緊急避難を主張せざるを得ない」
「しかしバレたらクビを避けざるを得ない」

 だんと地面を踏みつけて、スネークが吼えティアナが唸る。

「そういうことを言っている状況じゃないぞっ!」
「それはこっちも同じですっ! 何をそんな自分だけ今さらっ」
「レイジングハート、カートリッジロードッ!」
「遮蔽物を探さざるを得ない」
「幻影作って逃げざるを得ない」

 チームワークどころの話では無く、生存すら危ういと言わざるを得ない。





 魔法少女リリカルなのはStrikerS外伝
 スバゲッチュ   第五話「ピポスバルの逆襲」 Aパート





『どうにかならんのかシャリオ君! このままだと二人ともただでは済まんぞ!』

 シャリオに向かって通信を飛ばし、キャンベル大佐は叫びを上げた。
 砲撃の威力、連射、弾速。魔法世界に精通していないキャンベルでも、自分が所属し率いた部隊
の戦力との比較により、今上空に居る魔導師のレベルを推し量ることはできる。
 経験豊富な彼の頭脳は即座に、あの白い魔導師は危険であるとの判断を下していた。
 はっきり言ってこれほどの敵が現れるとは、予想だにしていなかった。というより敵はピポスバ
ルだけではなかったのか? 仲間を新たに引き入れたというのか?

『…………』
『シャリオ君? ……返事をしろ! どうした!』

 そのキャンベルの声をそっちのけで、ただ茫然とモニターを見つめているのがシャリオである。
 高町なのはがティアナの前に立ちはだかった。
 その現実を見たシャリオの瞳は既に、絶望一色に染め上げられていた。
 なのはが今あの場所にいるということは、彼女の「はずかしいしゃしん」とやらを自分が所持し
ていた事実も、既に伝わっているとして九割方間違いはあるまい。
 つまりどうあがこうと、シャリオの命運はこの時点で尽きていると結論。

『……ぐ、ぐ』
『グ?』
『グーグル先生に、質問なの……それしか生き残れないの! 『なのはさん 抹殺法』で検索するの!』
『そんな具体的なモノが書いてあるはずあるか!!』

 危険思考に染まるシャリオを諌めるキャンベルだった。

『スネーク! ティアナ! 地対空では蹂躙されるだけだ、廃墟を探して避難しろ!』
「もうやってます……でもっ!」

 返事を投げてよこしたのは、逃げ惑うティアナ・ランスター。
 高町なのは登場の衝撃からはようやく回復したらしく、今はスネークと共にアクセルシューター
の弾幕から逃げるのに必死の形相をしている。
 そんな中、スネークが腰のホルダーから緑色の何かを取り出し、空のなのはに向かって勢いよく
投げつけた。
 なのはに当然、魔力の弾丸で迎撃されるが――。

「閃光弾を投げた! ビル内に飛び込めッ!」
「っ、了解!」

 桃色の弾丸が直撃すると、そこを中心に強烈な光が拡散した。
 視界を奪われた白い魔導師が目をこすり右往左往している間に、スネークとティアナは廃墟の中
に駆け込んだ。

「〜〜〜〜っ、に、逃がさないのっ! レイジングハート!」

 視力を取り戻した直後、上空にいた白き魔導師は探知魔法をかけて追撃を試みるも、

「あれ……あれ!? な、なんで!?」

どういう訳か、近くに魔力反応が全くない。近辺に潜んでいることは間違いないのに、敵影は全く
検出されないのである。

「……段ボールが役に立つとは思いませんでした」
「どうだい、凄いだろう」

 それもそのはず、廃ビルに逃げ込んだティアナたちは、シャリオ特製の強化段ボール(ジャミン
グ機能完備の隠密仕様・二人用)を被っていたからである!

(……たかが段ボールに、こんな機能付けるとか)

 バカじゃなかろうか。
 とは言わない。
 今この瞬間生きながらえているのは、間違いなくこの箱のお陰なのだから。

「せまいです」
「我慢だ。とりあえず……少し様子を見よう。あの弾幕で、こちらの体力も減っている」

 ひそひそと話して、終わると息をひそめる。周囲の音を警戒してそこから、なのはの現在地を可
能な限り推測する。

「行った……か。それにしても、あれは誰だ? ティアナの知り合いなんだろう」
「……高町なのは教導官。私の……先生です」
「……どうしてそれが敵にまわるんだ……」
「わかりません……本当に、どうして……」
『その点だが。聞け、スネーク。ティアナ』

 二人が深刻な表情をしていると、ミニウインドウからキャンベルが顔を出した。

『あれが本物だとは限らないぞ』
「……どういうことです? 魔法で変身しているにしても、あそこまで精巧なモノは……」

 バリアジャケットはそっくりだし、使用する魔法も本物と変わらない。
 姿形の真似なら確かに出来よう。魔法で変装することは事実可能だし、その気になればティアナ
だってできる。
 しかしこのレベルの魔法の複製は、どう考えてもその領域を超越している。だからこそシャリオ
はあそこまで焦っているのだし、自分も戸惑っているのだ。

『確かにな……だが相手はピポどもだ。この城を作るだけの技術は、少なくともある』
「それは、そうですけど」
『加えて言うが、奴らに与する理由はあるか? 君の先生は、個人的な事情で教え子を裏切るのか?』

 それだけは絶対にない、と言い切れる。

「しかし。いえ、でも」
「大佐、ティアナ」

 そこで、話を黙って聞いていたスネークが口を挟んだ。

「その件に関して、気が付いたことがある。どちらか、映像を……いや、音声を貰えないか」
「音声……ですか? 生憎、記録は」
『なら私のを使うのっ! すぐそっちに転送するの!』

 意外と立ち直りの早いシャリオだった。
 「まだバレてないかも!」と、希望を見出しただけなのだが。

「……やっぱりそうか。大佐、その推論、当たりの可能性が高いぞ」

 スネークが言うと、シャリオの顔が驚愕に染まった。

「なるほど。確かに、そうかも知れません」

 ティアナが続くとシャリオはさらに驚き、スネークは感心したように唸った。新兵と聞いていたが、
なかなかどうしていい眼を持っている。

『どっ、どういうことなの!?』
「あるべき音声が聞こえないんです。魔法を使う際、絶対に聞こえる音が」
『音だと?』

 ティアナの言葉は、スネークが引き継いだ。

「デバイスの声が無い」

 そういうことだった。
 レイジングハートがなのはに返すべき、電子音が全く無い。
 モニターの向こうの二人が息を飲んだ。確かに、確かにそうだ!

「しかしだ。大佐、シャーリー」

 「もう偽物なんか怖くないぜヒャッホーイ」とばかりに浮かれはじめたシャリオと、安心して一
つ息を吐いたキャンベルは、その声に疑問の眼差しを向けた。

「問題はこの先だ。むしろここからの問題は、絶対にひっくり返らない」
「……でしょうね。城全体の制御はあちら側。こっちからじゃ手出しできませんし」

 どういうことだ、とキャンベルが言う。
 ティアナは諦念染みた声で、こう答えた。

「変装って分かっていても、相手の力は変わらない。対策できないってことです」





「もうッ! 出て来ないなら、辺り一帯薙ぎ払うのっ! ディバイィィィン……」

 どうしましょう、これ。

「バスタァァァァァァッ!!!」

 どうにもならんな、これ。



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