「や、やだっ、グリグリは、グリグリだけはやめふにゃあぁぁぁああっ!!?」
「ひんっ、ゆるして、ゆるし……い、いやぁっ、らめぇぇぇええ!!」
「ハッ! ティ、ティア、そのながねぎでなにを……ひ、ひあぁぁぁ……っ!!」

 シャリオ発案の計略にはまり、機動六課食堂・キッチンで捕まった、四人のピポスバルたち。
 縄で両手両足を縛られた彼女たちは、ティアナからきつーいお仕置きを受けている最中だった。

『あまりにも阿鼻叫喚なため実況できませんでしたなの』

 シャリオの通信。そんなに酷い事はしていないと思うのだが。グリグリしたりペンペンしたり、
料理用の食材をちょっと本来と違う用途に使ったりしただけで。
 それはともかく、ティアナは丁重に無視をして、残る一人のピポスバルに向き直った。

「さぁて、これで残りはアンタだけね?」
「あ…………あぅぅぅっ……」

 まさに絶体絶命である。
 詰め寄るティアナの背後から聞こえるのは、びいびい泣き叫ぶピポスバルたちの大合唱。同胞の
惨状が嫌が応にも恐れをかきたてる。目もうるうると涙目で、怯えているのは明白だった。

「目的と他の奴等の居場所、教えないと……ひどいわよ」
「だ……だめっ、…………そ、そんなのっ…………」

 このピポスバル、中々強情のようであった。だがかたかた震えているのは全く隠せていない。
 まったく仕方がないとばかりに、ティアナは一つため息を吐いて、今度は穏やかに話しかけた。

「安心しなさい。まぁスパゲッティの一皿や二皿、食べさせてあげるわよ」
「え……ほんと? ほんと?」

 「スパゲッティ」と聞いた途端、目を爛々と輝かせるのは食いしん坊であるがゆえか、はたまた
身の安全を感じたゆえか。
 しかし今のティアナが最も好きなことは、「たすかるかもー」とか思ってるヤツにノーと言って
やることなのであった。

「ええ。ただし、ぜんぶ鼻から食べさせるけど」
『よい子はマネしてはいけませんなの』
「ふぇぇぇえんっ、やだ、やだぁ〜〜〜っ!」

 結局五分と持たなかった。



 魔法少女リリカルなのはStrikerS外伝
 スバゲッチュ   第二話「風雲! スバル城」 Bパート



「シャーリーさん? 割とあっさり吐きました。残りは訓練スペースに行ったそうです」
「いたぁい……」
「きゅぅぅっ……」

 とどめとばかりに拳骨をお見舞いされ、ハチマキを巻いた頭にコブを作ったピポスバルの前で、
そのチビどもの口を割らせたティアナが通信ウィンドウを開き、シャリオに事実確認を求めた。
 散々な目に合わせたから、虚をついたとは考えにくい。しかし
一応念のためである。ティアナ自身が確認しに行っているうちに逃げられても困る。

『了解っ、調べてみるなの!』

 それを聞き付けたシャリオはモニターから離れて、画面の向こうでなにやら別のパネルを弄くり
はじめた。訓練場のカメラを確認しているのだろう。
 本来この時間の訓練スペースは、教導を行うなのはやフォワードたちが使用している事が多い。
しかし幸いなことに今は休憩時間に入っており(デバイスのトラブルで場を離れたティアナとスバル
にもその旨は伝えてあった)さらに午後の教練は休みであった。
 もしこの事態がバレていたら、「はずかしいしゃしん」とやらの存在が知られていたらと思うと
地獄で仏である。主にシャリオ的な意味で。

「さーて、あとは動機だけど」
「いや……いやぁっ…………」
「ひぇぇん……ごめんなさい、ごめんなさいっ……」

 サワヤカな笑みを浮かべると、恐怖に震える声が聞こえた。
 視線を投げやると目を涙に濡らしたピポスバルたちが、怯えきった表情でティアナを見ていた。

「ま、勘弁してあげましょっか。時間も無駄っぽいし」

 さすがに情というものがわいて、ティアナはそこで勘弁してやることにした。
 途端、感謝と喜びの眼差しがピポスバルたちから向けられて、なんだかちょっとこそばゆい。
 ので、ちょっと弄ってみたくなる。好意を素直に受け取れないのは、ひねくれものというべきか。

「でも、ホントに何でこんなことしたの。大人しくしてればよかったのに」
「う、そ、それは……」
「だ、だめだよっ、それをいったら!」
「……良からぬことを隠しているようね。やっぱりもうちょっと苛めておきましょっか」
「ふぇぇえっ!?」

 自分で言っててサドっ気があるような気がするティアナであった。

「でも、どうしよう。置いてくわけにもいかないし……」
『そんな時に役立つのが、その「ゲットアミ」なのっ! こんなこともあろうかと、なのっ!』

 呼ばれもしないのに通信ウインドウが展開、出てきたのはやっぱりシャリオだった。その顔面に
向かってティアナが問う。

「訓練場の方は、どうですか?」
『やっぱり、いるみたいなの。かなりの数が……もしかしたら残りは全員、そっちにいるかもなの』
「……」
『うぅ、そんな微妙な表情をしないで欲しいの……』

 真剣な顔をして報告するシャリオだが、「なのなの光線」のせいで変わってしまった「なのなの
口調」のせいで全く迫力がない。
 ティアナが「うさんくせぇ」と言わんばかりの顔をするのも仕方ない話である。

『それよりっ! ティアナ、そのアミを使うなのっ!』
「……これですか?」

 訝しげに見るティアナの視線の先には、キッチンを訪れる前にシャリオから渡されていた虫取り
アミのような長柄の物体であった。動くのにあまりに邪魔なうえ用途が全く分からなかったため、
背に差していたのを外しておいたのである。手にとって問いかける。

「全然役に立ちそうにないんですけど、これ」
『大丈夫なの! それは捕まえた物体を転送するスグレものなのっ!』
「へぇそうですか。ところで、料理長を抑えてるグリフィスさんはどうしたんですか?」
『さ、さぁ、ピポスバルを捕まえるなのっ!』
「誤魔化しましたね?」
『ピ、ピポスバルゲッチュなのっ!』

 ということは押し付けたまんまということか。まったくひどい話である。
 しかしともあれ可哀そうな話ではあるが、グリフィスが石鹸で殴られまくっているかということ
よりもも、今はとにかくこのピポスバルの処理が先決である。
 ティアナはゲットアミを手にとって、じりじりとピポスバルどもににじり寄る。もうお仕置きが
ないと踏んでいるのか、ちびどもの顔は「ふへぁ〜」としたゆるんだ顔に戻っていた。
 そこに向かって、ティアナがアミを振り下ろす。
 その瞬間、ティアナの口が勝手に開き、こう叫んだ!



「ゲッチュ!」



「……今のは?」
『捕まえるときのデフォルトなの! 勝手に喋らせるように設定してあるの!』
「……イヤなんですけど」
『ダメなのっ。くーっ、一度ナマで聞いてみたかったのっ!』
「イヤなんですけど」
『さぁ、今度は訓練場にレッツゴーなのっ! 早く残りも捕まえるなの、ティアナっ』

 どうしてこの人は、こうも余計なことばかりするのだろう。
 写真の件をなのはやフェイトに暴露してやろうか。ひそかにそう思うティアナだった。



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