おまけ・そのころのギンガさん4
「ヴィータちゃん、ごめんなさい。機嫌なおしてくださいですー」
そっぽを向いてむくれているヴィータに向かって、リインがぺこりと頭を下げつつ言った。
それでもヴィータの気分は直らないらしく、ぷりぷりと怒っているのが表情から明らかに窺える。
はやての苺大福を盗み食いした犯人扱いされて遊ばれて、スターズ分隊副隊長は結構ご立腹の
ようであった。普段は妹あつかいしているリインに弄られたということもあって、その度合いはか
なり高いらしい。
「ったく! と、と、とんでもないこと言いやがって。だだ、誰がはやてのを、かか、勝手に食べ」
(……ザフィーラ)
(心得た)
無言でシグナムが呼びかけるのに応じて、ザフィーラが念話を発信した。通信先はもちろん八神
はやて。内容は当然御注進だ。
主が絡むとけっこう薄情な守護騎士たちだった。というよりこれでもまだヴィータは隠し通せて
いると思っているようだが、その実完全にバレバレなのであった。
「ところで、なんだけど。ちょっといいかな」
そんな騒がしさの中、他の守護騎士四人に向かってシャマルが口を開いた。
「どうした」
「食堂がお休みになってて、なのはちゃんもフェイトちゃんも残念がってて……誰か知らない?」
「初耳だな。朝は開いていたように思うが」
言うまでもないが元凶はピポスバルである。
直接の原因を辿るなら、犯人はティアナと言うべきか。
キッチンに潜入したピポスバルを追撃し捕縛する際、ティアナはピポスバルの隠れた場所に数発
魔力の弾丸を使用していた。そのため厨房の一部が破損し荒れてしまい、シャリオが料理長を解放
した後も営業再開に時間がかかっていたのだ。
「……調べてみっか」
「私も行こう」
ヴィータが言い、シグナムが立ち上がる。
食堂の開店が滞ることなど、今まで一度もなかったからだ。機動六課の食堂長は大変に誠実かつ
勤勉な人柄で、しっかりと時間通りに店が動くのが普通だった。大事ではないかもしれないが、何
かトラブルがあったのかも知れない。
となると、調査をされて結果的にマズいのはシャリオである。
厨房が荒れているのが露見し、その原因の根源がシャリオであるということが分かれば、いくら
聞き込みとはいえシグナムもヴィータも、当然彼女に問おうと考えるだろう。そうなったらお終い
だ。何せ今シャリオがいる部屋には、同時に「ゲッチュ!」されたピポスバルが大量に転がってい
るのである。
「待て」
しかしその窮地を、結果的に救ったのはザフィーラの一声であった。
ドアの方へ向かい退室しようとしていた二人は足を止め、リインが不思議そうに問いかけた。
「どうしたですか?」
「……通信だ。主はやてからだ」
「はやてから?」
「ああ。食堂は後回しだ。出撃待機室に移動するらしい」
「ちょ、ちょっと待て。何て言ってたんだ?」
問いかけるヴィータに向かって、ザフィーラはこう答えた。
「『おもしろいモノがある』そうだ」
「面白いもの?」
「ああ。全員に見せたいから、レコーダーとカメラ持って集合、全速で集合だ――と」
かくして、八神はやて部隊長によるギンガ・ナカジマ包囲網は着々と準備が進められつつあった。
そして、当のギンガは何をしているかというと――
(あ、あうう、どうしよどうしよ、い、いきなり、そんな、『なのなの口調』のプロだなんて……
い、今のうちに、なのなのマスターしておかないとっ! 確かレッスン1の次がレッスン2で、
え、えっと、えっとっ! なの! なの! じゃなくて……なな、なー、なー、なー、なー……)
意味不明な予習の真っ最中であった。