そのころのギンガさん3
はやては混乱した。
六課オフィス案内ツアーに出発しようかと思ったら、後ろから呼び止められて唐突に意味不明の
発言である。
「なのなの禁止令」って一体何だ。
というかそんなもん誰から聞いた。
「あ、あの、ギンガ?」
「? はい?」
「あんな、その……な、何や? その、なのなの禁止って」
「え……ですから、オフィス内で『なのなの口調』が禁止されていると……」
はやては思った。何のこっちゃ。
「……誰がそないなことを?」
「シャーリーから、ですけど……あの、どうなさいました?」
ああなるほど、とはやては、ほんの少し得心した。
人をあまり疑わないナカジマ姉妹のことである。大方シャリオが、何かでからかって遊んでいる
のだろう。
しかし、それにしても分からない。「なのなの口調」とは一体なんぞや。
「ギンガ。ちょっとええか?」
「はい?」
「『なのなの口調』って……禁止して暫く聞いてへんから、忘れてもーて。聞かせてくれへん?」
「え? あ、はい……えと、練習中ですし、ちょっと恥ずかしいですけど……」
「へーきへーき、大丈夫や。せやからほら、たとえば……自己紹介っぽく、とか」
もちろん話を引き出すための嘘であるが、ギンガには気付いた様子はない。
こう見えても世間の波に揉まれ、用意の無い会話に慣れっこのはやてである。いと容易し。
「は……はじめましてなの、ギンガっていうの! 六課のお仕事も頑張るので、お願いします、な、なの!」
「――――ギンガ。ちょっと、会わせたい人がおるんや」
「え? ……えっと」
「『なのなの口調』のスペシャリスト、今機動六課におってな。ちょうど時間が空いてんねん」
「そっ、そうなんですかっ!? そんな人が……!」
そうしてギンガに背を向けたはやての顔には、邪悪な笑みが浮かんでいる。
懐に伸ばした手の中には既に、小型の携帯レコーダーが握られていた……。
(あのギンガが、こないな、こないな……こんなおもろいもん、記録せずにおられるかいな!
ああどうしよどうしよ、まずリインに映像撮らせてカメラにヴィータ、フェイトちゃんにも
見せたいし、ええとそれからそれからっ)
ギンガ・ナカジマの運命やいかに。
続く。