同じフェイトの保護下にあるにもかかわらず、キャロとエリオには機動六課の立ち上げまで直接
の面識はほとんど皆無だった。
 キャロは自然保護活動に参加したり、とある人物の「召喚魔法が使えるなら、世界中の魔物と仲
良くなっておけばいいじゃない」という一言で連れまわされたりで、ひとところにいる時間がそれ
ほど長くなかった。エリオはエリオで管理局内の保護施設に収容されて以後、訓練校に入学して忙
しい毎日を送ってきた。
 同じ部隊に所属することが決定した後も、設立のその日までに知ったのは互いの顔と大まかな経
歴だけ。あとはそれぞれの持つ魔法技術を少々といったところだ。似たような立場にありながら、
個人的に連絡を取ることはなかったため、知り得た情報はその程度だった。
 それでも。召喚魔法を操り、竜と心を通わせるというキャロの話は、エリオの琴線に触れるもの
だった。
 出来ることなら竜の背に乗って、自分も空を飛んでみたいとエリオは思った。異常な体験を経た
彼が珍しく抱いた、子供らしい小さな憧れだった。

「じゃあ、まず、皆のデバイスから……キャロ、それは?」
「『破壊の鉄球』です、ロッテさん。今日から訓練だと思って、魔法で引っ張ってきました」
「目を覚ましなさい。それは質量兵器よ」
「なら召喚魔法で敵の頭上に落とします」
「贅沢な使い道ね」
「ストックが87個もあるんですよ。針玉ガジェットと鉄の鎖を合成しただけなので」

 本当に竜の力を使う必要があるのだろうかと、エリオは冷や汗をかいた。





「今日から相部屋ですね。よろしくお願いします、エリオくん」
「う、うん。よろしく、キャロさん」
「それで、こっちの寝てるのがフリードリヒ……あれ? そういえば、さん付けで呼ばれるのは初めてです」
「あ、そうなんだ。……どうしようか。変な感じかな?」
「んー……よくわからないので、エリオくんにお任せします」
「ええと、じゃあ……キャロ?」
「はい、エリオくん」

 あれ、とエリオは内心首をかしげた。装備と同じく考え方や行動もブッ飛んでいたらどうしよう
と、本当はかなり心配していたのだが。2人きりになるのはこれが初めてだったが、こうして話を
してみると意外なほど普通だ。

「あ。今、『なんでこんなに普通なんだろう』って思ってる」
「ええっ!?」

 驚きの声をあげるエリオを見て、キャロがグッとガッツポーズしたので5点くらい入った。

「当たりですか。やたっ」
「ど、どうしてわかっ……いいいや、そんなこと考えたりはっ」
「いいんです、さすがにお昼はやり過ぎでした。……あと安心してください。私が暴言を吐くのは、
 たったひとりだけです。今のところは」
「たったひとり……その人が嫌いなの?」
「嫌いじゃないですけど、いつかひれ伏させたいとは」

 それは嫌いとは言わないのか。ううむと唸るエリオに、キャロはきょとんと小首をかしげる。

「最近は世界中遊び尽くしたみたいで。そろそろ外出を控えるらしいので、それが期限ですね」
「あっ……それって、もしかして地球の人? なのはさんたちの幼なじみの」
「多分それです。もしかして、フェイトさんから?」
「うん。まだ本人には会ったことないけど、いつか見てみたいなって」
「そうですか。ポケモン探しが終わったら、八神家でずっとまったりするって言ってましたよ?」
「はやてさんとは、そういう仲なのかな?」
「いいえ、『死ぬまでこたつで茶を啜る仲』らしいです」

 一体どんな仲だ、とエリオは思いました。

「死ぬまでやってろ、と私も思いました」
「怖いよ!? ……ところでキャロ、どうして丁寧語なの?」
「その方が、あの人に対する罵詈雑言との落差が激しくなると思いまして」
「ばりぞうごん……」

 一体過去に何があったのだろうとエリオは心から思った。
 ただ、喧嘩するほど仲が良いという言葉もある。

「ふつうにしましょっか」
「あ、うん。その方がいい、かな」
「わかった。よろしくねっ、エリオくん」
「切り替えが早いね」
「それもよく言われる」

 ふつうに仲良くなれそうだ。ほっと安心するエリオだった。



(続く)

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「ザフィーラの黄金長方形走法により、キャロの破壊の鉄球に無限大のエネルギーが集まりうちゅうのほうそくがみだれる!」
「乱れているのはお前の思考だ」
「今日もいい具合に頭が悪いですね」




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