終了の合図とともにティアナは地面にへたりこんだ。スバルは大の字に倒れてしまい、エリオも
槍をつっかえ棒にして立つのがやっとといったところだ。よく見るとかたかたと膝が笑っている。

「あたし相手に15分耐えたのは誉めてやるぜ」

 そんなヴィータの声も耳に入らない。離れた位置ではなのはとグレアムが何やら話しているが、
それもすぐにティアナの頭からは消えた。
 本格的に訓練を開始する前に企画された、1対4の模擬戦闘。今後の訓練計画を立てるにあたり、
観客もなのはとグレアム、リーゼ・リイン姉妹という豪華な顔ぶれだ。
 いい所を見せるはずだったのに。格上相手とはいえ4人がかりでかかって、ここまでこてんぱん
にされるとは。

「あたしたちは普段から目を馴らしてるからな。それにしても、お前ら思ったよりやるな」

 そんなふうにヴィータが言ってくれたのがせめてもの救いだろう。しかしそれも気休めにしかな
らない。

「ただしキャロ。お前は駄目だ」
「どうしてですか、ヴィータさん?」
「ひとりでフリードリヒに乗って突撃してんじゃねーよ」
「そういう戦い方しか知らないんですよ。あと、フリーファイトでそんなことを言われましても」
「昔よく『あいつは敵陣に放り込むしか使い道がっていうか自分から飛び込んでくよね』って言われたな。あの時のままじゃんか」
「今のヴィータさんの一言で、私の蘇ったトラウマががおーと吠えてひひーんと嘶きました」

 やたら元気な生き物を飼っているらしい。
 いやいやそんなことは問題ない。一体どんな鍛え方をしたのか知らないが、けろりとしているの
はどういうことか。

「リインさんにふっ飛ばされ慣れてますから」
「鉄球かまえて突っ込んでは鉄球ごと蹴っ飛ばされるのが日課だったな。そういえば」
「途中から蹴り方にも凝り性が出てきて、様々な回転をかけられたのは今でも悔しいです」

 様子を見に来たリインフォースが「サッカーたのしい……」とつぶやいていた。
 その顔を見ながら、ティアナは強く目を光らせる。
 数年前に設置された、「はぐりん道場」と「リイン道場」。うち片方は現在休業中らしいが、な
るほどキャロがその経験者だというなら、あのバカみたいな体力も納得だ。
 それぞれの道場で繰り広げられる、常軌を逸すると言われる戦闘訓練。まとめて「メタル狩り」
と呼ばれる荒行において、主に狩られるのは挑戦者側である。最後までやり通せば比較的短期間で
戦力の増強が見込めると言われているが、成功例はごく限られているらしい。
 詠唱時間ゼロで飛んでくる儀式魔法。そして神速の格闘術に、圧倒的な防御力。道場主の人智を
超えた能力の数々を前に、大抵は3日で諦めるとのことだ。
 だがティアナは、それをやり通す気でいた。

「はぐりん道場? ああ、アレな……一応、6課内にも準備するつもりやけど」
「ほ、本当ですかっ!?」
「うん。ただあっちは休業中やし、リインの方になると思うわ。週1くらいで参加すると思う」
「やっ、やります! やらせてください、ぜひ!」

 はやてとはそんな会話を、スカウトを受けた時に交わしていた。道場卒業者の名を覚えていたこ
とを心から幸運に思った。
 折角つかんだチャンスだ。どんな辛い試練が待っていても乗り越えて見せる。そうして、兄の無
念を晴らすのだと、ティアナは強く心に誓っていた。

「お前は集団戦闘を勉強しろ……マイペースなとこはアイツに似やがって」
「あの人に似るだなんて心外です。これは元凶を絶ち、私のアイデンティティーを確立しないと」
「その前にチーム戦法を確立させてやるから覚悟しとけ。一から叩き込んでやる」
「もうねむいです」
「ぶっとばすぞ」

 お前らあとはなのはの指示に従えよー、と言うヴィータに、キャロは無言でずるずると引きずら
れていく。それにしてもリイン道場とやらは、強くなる代わりに図太い性格にされてしまうのかと、
ティアナは少々不安になった。






「ティアナさん、ティアナさんっ」

 だからそのキャロが宿舎の部屋を訪ねて来た時は、驚きもしたし強張りもした。

「どうしたのよ。こんな夜更け……でもないか。案外まだ早かったわね」
「よかったです。一瞬『子供は寝る時間よベイビー』って言われるかと思いました」
「チャイルドなのかベイビーなのかはっきりしなさい」

 ティアナは苦笑いし、キャロはそれもそうかとばかりに、感心した調子でぽんと手を打つ。
 そんなことをしていると、ルームメイトのスバルがひょっこり顔を出した。

「あれっ、キャロ。どしたの? ひょっとして、ひとりで寝れなかったり?」
「一時期とある人に連れられて異形の魑魅魍魎どもに囲まれて寝たことがあるので、実はひとりで寝るのは好きなんです」
「ああ……うん……きゃ、キャロ、苦労してるんだね……わ、私はこれで」
「……とーん、とーん、という足音に振りかえると、そこには米まみれの銀髪の青年が!」
「うわわわぁっ! そ、そういうのいらないぃっ!」
「今の話のどこに怖い要素があるのよ」

 スバルは飛び込んだ布団から顔を出し、「あれ?」と首を傾げた。そうしてやっとティアナの言
葉を理解し、恥ずかしそうな顔をしたまま布団の中に消えていった。
 訓練校時代からスバルには振り回され通しだが、それをも上回るジョーカーがいたらしい。

「苦手なんですね、スバルさん」
「モノによるんじゃない? それより、用は?」
「ああ、はい。その、どうも私、チームプレーが苦手みたいで。今日はすみませんでした」
「ひとり特攻しては撃ち落とされてたわね……正直どうかなと思ってたけど。まあ、明日からはもうちょっと、ね」
「はい。それでですね。スバルさんとティアナさんのコンビネーションとか、その」
「ディスカッションね。いいわよ。その代わり、今までどんな鍛え方してきたか教えてちょうだい」
「はい! お願いします!」

 レベルの高い仲間も増えて、機動六課の生活も、思ったよりハリがあるものになるかもしれない。
ティアナは不思議と、充実した感覚を味わっていた。





「ところで、どうしてパジャマに帽子のままなのよ」
「そうですね。この帽子には、ちょっとした哀しい昔話が……」
「あー……悪かったわね。軽々しく聞いたりして」
「ないんですよ」

 でこぴんしといた。



(続く)

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ティアナ:ふつう エリオ:ふつう スバル:ふつう キャロ:ずぶとい  (作者プロットより抜粋)




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