「*やみのなかにいる!*」

 オリーシュは薄暗い空間をさまよいながら、自分の置かれた現状を端的にそう表現した。
 はてさてこの状況になってから、何日が経過したかは定かではない。行けども行けども洞窟が続
き、太陽の下に出られる気がしなかった。ランプの明かりに照らされた洞窟とおぼしき空間は、い
まさっきの声が反響して四方八方から聞こえるばかりだ。

「おお、そっちか。よくわかんないけど行ってみるか!」

 後ろをゆるゆるついて来ていた3匹の魔物たちが、声の反射をたよりに行く手を示す。音の響き
方から、先へと続く道がわかるのだ。長年の冒険で得た能力は、こんなときに役に立つ。

「スバルを相手のゴールにシュゥゥウウ!! ……あっちか! あっちなのか!」
「?」
「いや、スバルは青髪のやつ。ゲバルじゃないから。髪で三半規管とか壊せないから」
「……」
「スバル投げて遊んでもいいのかって? ああ、まぁ、いいか。スバルは投げ捨てるもの」
「……?」
「ティアナの趣味は違うよ。たぶんスバルを踏むことじゃないかね」

 超! エキサイティングな会話を連れのはぐれメタルたちと交わしつつ、オリーシュは進む。遭
難したら動かないのが鉄則だがそんなことは関係ない。食料はあるし、体力もある。ただし自重と
いうものがなかった。最悪だ。
 それにしても、広い洞窟だ。
 もうかなり歩いたし野宿は何度もした。どうやら水も流れているようで、時々川のせせらぎも聞
こえてくる。
 一度死ぬ前はよく秋の山なんかに出かけたりしたのでわかるが、どうやらどこかの山岳地帯らし
い。火山だったら野生のドラゴンがいたりするのでまずいなぁと思っていたが、今のところそんな
ことはなかったのは幸いか。

「帰りたい 帰りたいのに 帰れない」

 さてこうなると、さすがに帰りが心配だ。
 10年ぶりの大学生活なのですっかり忘れていたが、大学の講義は履修の希望を届け出ないと受
講したことにならないのだ。こればっかりははやてに託せない。残念ながらそういうシステムでは
なかった。

「なのはを差し置いて……留年だと……?」

 末代までの恥である。末代どころか一代で終わる可能性も大だがとにかく恥だ。中高のなのはは
勉強も本腰を入れて頑張っていたのだがそんなことは関係なく、彼の中のなのはは頭が良くなって
もずっと変わらないままだ。
 実際のところは、

「そう扱うとなのはがもっと勉強するみたいだし」

という桃子さんの言葉もあってのことだが。そろそろやめようかなと思ったこともあったが、本人
もあんまり嫌がってなさそうだし。
 それはさておき、出口だ。出口がない。洒落にならない。これは困った。

「『なのはを留年させる方法』……ああちくしょう! 電波届かねえ!」

 グーグル先生に尋ねようとしたが、残念ながら携帯は圏外だ。諦めて助けを待つか、歩き回り出
口を探すか、もしくは脱出アイテムを見つけるしかない。

「はぁ。まあ、いいか。そのうち出られるべ」
「……」
「え! 看板見つけた? えーと、はく……白金山だと? 厨二病な色ですね!」

 三匹が怒った。

「白金連峰なんて聞いたことはないけどなぁ……まぁいいや、進もう」
「……」
「ここらでキャンプ? いやいや、俺の辞書は後退のネジを外してあるんだ」
「?」
「ネジはあるよ。電子辞書だもの」

 今度はどんなやつに会えるのだろう。オリーシュは期待を胸に抱いたまま、シロガネ山の洞窟を
奥へ奥へと進んでいった。



(続く)

#############

【リザードン様が】はがねタイプだけで最強のトレーナーに挑む【倒せない】




前へ 目次へ 次へ