「鬼の手が無理とな」
 流れ弾をやり過ごしたりあれこれ策を考えていたりしていると、シャマル先生がそんなことを言
い出した。
 何か失敗フラグ的な発言で怖いけど、とりあえず問い直してみることにする。

「はっ……はい。あ、あの子の体、魔法に異常に強くて、その……」
「鬼の手が通らない、と」
「すっ、すみませんっ、あのクラスのコアを引っ張るのは難しくて、魔力をもっと削らないと……」

 シャマル先生が言うには、体の魔法遮断能力が高すぎるうえ、引っ張り出そうとするコアの魔力
もめちゃくちゃ大きいとのこと。
 というわけで作戦遂行は、二重の意味で難しいらしい。ボディとコア、どちらか片方でも弱体化
できれば話は別らしいんだけど。

「…………」
「…………」
「ごっ、ご、ごめんなさぁいっ……」

 はやてと俺とでしらーっとした目をすると、シャマル先生が半泣きになって謝ってきた。
 しかしそれで事態が打開できるわけではなく、これはちょっとマズいかもわからん。俺がかき氷
になる未来がかなり現実味を帯びてきた気がする。

「ていうか、そんなに容量あったんか。Sランクに手が届いたかもしれへんなぁ」
「夢はでっかくSSSランク」
「さらに突き抜けてSSSSSSランク」
「SSSSSSSSSSSSごほごほっ」

 はやてと一緒にエスエス言ってみたらむせた。状況が状況なので自重する。

「コア捨てるのやめた方がよかったかもしれへんな。未練でてきた?」
「今更やがな。ところでシャマル先生、じゃあコアの魔力が許容範囲になるまであとどのくらい?」
「い、今のペースだと、少なくとも10分くらいは……」

 と聞いて、前線に目を向けてみる。
 戦い馴れしているクロノやアルフ、百戦錬磨のヴォルケン組、速度でそれらを上回るフェイトは
今のところ、驚異的に凌いでいた。
 10分持たせるのでギリギリといったところみたいだ。根性見せてくれるに違いないし、まぁそ
こは期待するしかない。

「っ……まだ、まだぁっ……!」
「なのはっ、しっかり!」

 問題は、意外にもなのはだった。隣のユーノが歯痒そうな表情で見つめる、その立ち位置は非常
に危うい。
 防御力は高いらしいから大丈夫かと思っていたが、ところがどっこいそうもいかないみたいだ。
敵の攻撃力と手数が、単純にそれを上回っているのだ。回避もフェイトほどではないみたいで、火
炎の直撃を受けるのも何回か見た。
 なのはが戦えなくなれば、こっちの手数は減るわけで。そうなったらもう3分ともつまい。これ
はちょっとマズいかも。

「戦場からお前以外が離脱したらどうだ?」
「あっちも休息とるだけだと思う」
「……ならば、お前が盾になればいいのでは」
「予定調和っぽくてやだ」

 何だそれはとザッフィーが言うけれど、そんな気がするのだから仕方ない。

「それにあいつ戦闘センス高いから、多分他を集中狙いに……何?」
「意外と考えているんだな」

 意外とか言うな意外とか。

「こうなったら、はぐれメタルの弱点を突くしか」
「弱点なんてあるの!?」

 あった。確かあった。はぐメタもシリーズによっては、決して無敵じゃなかったはず!

「……DQM仕様だと、ギガスラッシュなら効いた気が」
「いなずま斬りとマヒャド斬りとしんくう斬りが足らへんな」

 いまから習得するのは不可能かと思われる。

「さそうおどりなら」
「誰が踊るんだ」
「リリカルなのはの世界にマイケル・ジャクソンがやってくるんやな」

 確かにあの人ならやってくれそうだ。

「マイコー……」
「マイコー……」

 しょぼーんな感じになる俺とはやてだった。

「……で、どないするん? 前線は大苦戦、魔力削りとか無理やし」
「お前に全部魔法攻撃が向くようになればいいんだが」

 そうそう。そうなったら全部当たらないし……ん?

「それだ」
「ん?」





 なのはは挫けそうだった。
 魔法は効かないわ飛ぶのは速いわ、ノータイムで大魔法が飛んでくるわ。しかも闇の書を片手に
暴れまわる、あちらの体力が尽きる気配がない。これだけの戦いを繰り広げておいて、疲れる様子
がまったく見えないのだ。敵は圧倒的に強かった。

(てんいむほー、だっけ)

と、最近覚えた熟語が頭をよぎった。漢字は忘れてしまったけれど、意味はよく覚えている。
 その事実に加えて、自分がより多くの攻撃を受けている現状が、なのはから体力と精神力を奪っ
ていた。
 砲撃が効かない以上、それ以外の選択肢に乏しいなのはの不利は明らかだ。そのあたりを本能的
に察してか、敵も攻撃の手を意図的に集中させている気配がある。囮と言えば格好はつくが、実情
はそれ以下だ。要は倒しやすいから狙われているだけのことだった。
 しかし、負けるわけにはいかない。
 友だちのかき氷を見たくないというのもあるが、それ以上になのはを奮い立たせるのはやはり、
魔法を捨てると迷いなく言い切った、少年の行為そのものだった。他でもない自分たちに、彼は己
の未来を委ねてくれた。その決意に報いたかった。

「珍しい。魔王が膝ついてる」
「だっ、だからっ、魔王じゃないって何度も……え?」

 だから背後から、その少年の声がした時は、正に驚愕の一言であった。魔法が使えずジャケット
もない。護衛のモンスターも連れていない!

「けっ、け、けーとくん!? あ、あ、あぶないよっ、下がってないとっ!」
「大丈夫。今から時間稼ぐんで。ちょっと休憩取っててください」
「じっ、時間って……ええっ!」

 戸惑い慌てるなのはが止めるのも聞かず、少年は側方のスペースに向かって走り出す。
 そして立ち止まると口を開き、大声でこう叫んだ。

「闇のしょこたん! 闇のしょこたん!」

 メタル戦士の動きが止まった。

「俺に近づくな……くっ、う、腕が……俺の腕がギザ震えまくりんぐ……」
「…………っ」

 メタリックなリイン1号は耳をふさいで、いやいやをするように首を振った。火炎も撃ってきた。

「アッガーレ! サッガーレ!」

 でも炎はぐいんと上に曲がったり下がったりで、決して当たることはない。
 どういうことなのとユーノに尋ねるなのはが横目に見えた。そりゃあ傍目には異常だしなぁ。

「はぐメタだけにwwwトゥットゥルーwwwドラクエだけにwwwトゥットゥルーwwwwww」
「……! ……!!」

 結局しょこたんは見事に挑発に乗り、そのまま無駄に魔力を使うのでした。
 念話できるから知っていたことだけど、実ははやてに闇のしょこたん闇のしょこたん言われて気
にしていたらしい。しょこたんと厨二病について、ネタを教えておいてよかった。

「……」

 休みながらも、やるせない表情のなのはだった。



(続く)


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