しょこたんが強すぎて手に負えない。

「はっ、速……くっ!」
「うわああっ!」

 バグ吸ったコアが中にある限り、防衛本能というかそんなようなもので襲いかかってくる。とい
うふうにわかっていた書の中の人だけど、その戦力ははっきり言って圧倒的だった。前衛ではシグ
ナムとヴィータが何度も挑んでいるものの、そのたびに千切っては投げ千切っては投げされている
ばかり。

「く……まっ、まだまだぁっ!」
「レイジングハート、もう一回カートリッジロードっ!」

 その隙をついて奇襲をかけるハラオウン組や、射線を確認して絶賛ビーム発射中のなのはの攻撃
も、ほとんど掠りもしなかった。たまに当たっても効きやしないし、あちら側の魔法の方が早い。

「これは負けかもわからんね……」

 はぐりん蒐集、やめときゃよかった。メタル状態のしょこたんの前には魔法も歯が立たず、逆に
高速で火炎や爆発の呪文を連発してくる始末。

「あっ、あつ、熱つつあぁあ!!」

 赤い色に触発されてか、ヴィータが比較的よく狙われているみたいだった。ジャケットで守られ
てるから助かってるけど、このままじゃジリ貧である。

「メタルキングとか蒐集しなくてよかった」
「あと、戦士っぽいモンスターとかもそうやな。さらに手がつけられんかったかもしれへんし」

 とはいえ、救いもある。ひとつは、直接攻撃力がとっても低いこと。
 スピードはえらい速いんだけど、腕力そのものは大したことないらしい。一瞬格闘に持ち込むこ
とができたアルフからの報告だった。とはいえ接近できたのは一回だけで、その時はすぐに逃げら
れちゃってはいたけど。
 もう一つありがたいことに、蒐集した個体のレベルが低かったためか、ジゴスパークやビッグバ
ンといった大技が飛んで来てはいなかった。
 これについては本当に助かった。あれが出てきたらさすがに敗北を覚悟せざるを得ない。威力と
か今のイオナズン以上だし、連発されたら耐えられるとは思えない。

「残像が見えそうでござる」
「はやー……」

 速度で撹乱しようにもあっちの方が速過ぎる。はっきり言ってフェイトでも追いつけてないみた
い。
 今は脱いでないし、広範囲魔法がバンバン飛び交う今、装甲を薄くするのは自殺行為だ。それを
分かっているためか、フェイトは脱ぐにも脱げずにいた。ちょっと残念な話ではあるが、どうせ今
撮影係のヴィータは手一杯だしまぁいいや。
 でもって一般人の域を出ない俺が、そんなもん視認できる訳も無く。
 ジャケットを着てないはやても、現状ではまだふつーの女の子。何が起こっているのか分からず、
これはちょっと手を出せそうにない。

「倒し方があるんじゃないのか!」
「けーとくんのウソつきぃぃ!」

 クロノとなのはから必死の叫びが届いたが、ちょっとこれは無理っぽい。

「いや、その、シャマル先生がコア引っ張るまで、時間稼げればいいと思ってて」
「適当に持ちこたえとったらええ、って高をくくっとったわけやな」
「交代で掻き回して、危なくなったらなのはが撃ってモーション潰す、でいいと思ったんだけど」

 クロノに伝えてあったその戦法では、残念ながら間が持たなかった。相手が速過ぎるため、引き
つけを全員で行わなければならないからだ。
 しかしそれをやってなお、あちらの方が手数が上である。力の差がありすぎだ。魔王とかそんな
次元じゃない。

「このままぬこ姉妹に氷にされてしまうのか」
「かき氷にしたら不味そうな」

 はやてがさりげなく酷くて泣きそう。

「シャマル先生、鬼の手まだ?」
「まっ、まだ……もう少し、もう少しなんですけど……!」

 それでも今まで、要のシャマル先生をよく守って来てはいた。
 今回の任務内容はコアを引っ張りだすまでの時間稼ぎと、そうして出てきた核を吹っ飛ばすこと。
その前半部分を担うのがシャマル先生だった。ここを落とされたら話にならない。
 現在シャマル先生は強力結界持ちのユーノ、さらにザフィーラの援護付きである。万が一に備え
てのことであるが、しかし相手のレベルを考えるとこれでも足りないくらいだった。だがこれ以上
人員を割くと、今度は攻めの手が足りない。ギリギリのラインだった。

「早くしないとはやてが、よだれ垂らしたシャマル先生のお昼寝姿をアースラに大公開するって」
「ほらこれ」
「きゃあああっ!?」

 ぺらぺらとはやてが写真を見せると、シャマル先生がものすっごくうろたえた。
 と思ったら、後頭部を何か固いもので殴られた。人間フォームのザフィーラに拳骨を落とされた
みたい。

「余計に時間を使わせてどうする」

 正論でした。
 でもそれなら、はやてにも天罰が下っていいと思うんですが気のせいでしょうか。

「ところで、お前は大丈夫なのか。何一つ防具も無しに」

 涙目になってはやてから写真を取り上げてるシャマル先生を横目に、ザフィーラが続けて問いか
ける。
 言ってることは本当で、今現在普通の服以外は何防具を身につけてないオリーシュでした。仮面
も今は外してあるし、いつも護衛してくれているはぐりんズは、万が一があったらさらにマズいは
やての護衛についている。

「大丈夫。あれ今使ってるの、実は俺のコア産の魔力みたいだから」
「……何? それはどういう――」
「危ない! 一発行ったぞ!」

 ザフィーラが聞き返そうとしたその時、クロノが叫ぶのが聞こえてきた。
 ベギラゴンでも撃ったのだろう、もの凄い勢いの火炎の奔流が向かってくる。皆の間に緊張が走
った。躱すのは不可能――!

「マッガーレ!」

 しかし、その瞬間!
 俺の叫びとともに火炎が突如としてその軌道を曲げ、あさっての方向へ飛び去ったのである!

「……ま、曲がった……?」
「自分の魔力だから。『こっちくんな』って思ったら曲がってくれます。こんな感じに」
「……ならば、シグナムたちを助けてやることはできないのか」
「そうしたいんだけど、自分に飛んでくるものじゃないと無理みたいでして」

 唖然としているユーノの前で、ザフィーラはあからさまに溜め息を吐いたのだった。それはいい
けど、これからどうしよ。




(続く)


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