久方の光のどけき春の日に気がついたら学校で茶を淹れて飲んでいた。

「いや、待て。何かがおかしい」
「あ、ああ、よかった、やっと気がついたか。鞄からやかんとガスコンロと急須と茶葉の筒が出てきたときは、もうどうしようかと」
「そうだ、下の句が激しく字余りなんだ」
「全然わかってねえ! お、俺がおかしいのか? おかしいのは俺なのか?」
「しづこころなく人は騒ぐらむ」
「無駄に綺麗にまとめられた……え、何これ。俺の? いやあ、何か悪いなあっちい! 熱いぞこれ!」
「あ、ええと、ごめんいつもこの温度なんだ。お詫びに放課後サマーソルト土下座する」
「えっなにそれ超見たい」

 ということをクラスメイトAさんにやっていたら、茶道部と体操部と百人一首愛好会に誘われた。でも土日がダンジョン巡りや魔物探
しに忙しいので決めあぐね、5月になろうかという今もなお帰宅部です。
 初めて知るが、私立の中高というのは上下の交流が盛んであるらしく、しかもこれに大学までついていると来たものだからクラブ活動
の範囲も広い。団体もかなりの数が揃っていて、新入生の勧誘が4月の間中行われている。大学のサークルに迫らんばかりの勢いだ。
 だからちょっと期待していたのだが、どれも活動はあくまで常識の範囲内らしい。残念である。もしかしたらインディー・ジョーンズ
部があるかもしれない、などと想像で胸を膨らませたりしていたのに。原作キャラどもの胸よりも膨らませていたのに。

「ほうら、こいつら全員ぺったんこ」
「今さら何を」
「ど、どう反応すれば……」
「中学1年生に何を求めてるのこの人……!」

 このネタで遊べるのもあと何年やら。
 ともあれ魔法使いたちの抗議はどうでもよく、つまりクラブ活動について、これはどうかあれはどうだと悩んでおります。帰宅部は帰
宅部で余裕があっていいが、せっかくだし何かやってみたい気持ちはあるのだ。気持ちだけだが。

「どうしよう、先生」
「ど、どうして私に……ああ、はい、先生だからですね、わかってます……ところで私、いつから先生なんでしょう?」

 というわけで相談してみた。モンスターとかを学校で言うわけにはいかんので、一番先生ぽかったシャマル先生に。
 ちょうどのんびりしていたご様子だし、適任だろう。ちなみに同じ男性の恭也さんがいいかとも思ったけど、こちらは敬遠することに
した。あの人は趣味にかなりクセがある。

「そんな訳で、お願いします」
「そうですね、もうお夕飯の下ごしらえも終わったことですし……わかりました。何でも訊いてくださいね?」
「最近シャマルとスコップをよく間違えるんだけど」「クラブの話じゃなかったんですか!? そしてどういう間違え方ですか!」
「なんかシャベルに似てるし、三文字共通だったらもう同義語でいいような気がしたんだ」
「言語野に異常があるとしか思えませんよぉ……」

 今日も俺の日本語は風前の灯火だ。

「あと喋るなのか黙るなのか、いい加減はっきりしてもらわないと夜も眠れない」
「もうお昼にでも寝ればいいじゃないですか」
「それいつもやってる」

 休み時間にきっちり睡眠を取る俺に隙などなかった。「ああ言えばこう言う……」とシャマルはげんなりしたご様子だが。

「どうしてこう、次から次へと」
「はは。しかしともあれ、クラブ活動です。安くて早い感じのをお願いしたい」
「はぁ。クラブ、クラブ、ですか。……美術やイラストはどうでしょう? 活動日程の調整は簡単ですし。画材もほら、家にたくさん」
「絵やら何やらは部に入らんでも続けるからなあ。それよりも、何か新しいことに手を出したい」
「でも他の文化部も、大会や発表会があって大変かもしれません……というか、これ以上新しいことに手を染める必要って」
「それもそうか……美術部も検討してみます。温泉部があったらすぐ入るんだけどなあ」
「温泉に入りたいだけにしか聞こえません」
「いやいや。全国の男湯と女湯の札を入れ替えるという、それはもう立派な社会貢献を」
「こ、この人最悪です!」
「二文字が共通なら、それはもう同じ単語と扱ったところで何ら差し支えはない」
「ありまくります!」

 混浴促進は社会貢献に含まれないようだった。またひとつ賢くなった。

「むー、いい案出ないな」
「焦ってもいいことないですよ? こういうのは、モチベーションを保つ必要もありますし」
「そうかもしれない」

 結局妙案は得られなかった。だが不思議なもので、新しいことを新しいことをという焦りはいつの間にか消えていた。
 相談したのは正解だったようだ。やはり悩み事はひとり溜め込むより、外に吐き出した方が早いのだろう。やはり言葉の魔力というも
のは存在するのだなと思う。いやそれ以上に家族の力か。俺に優しげな目をむけつつ、急に黙り込んだのに首を傾げているシャマル先生
も、私にとってきっと特別な存在だからです。

「ああ、ありがとう。ありがとう、皆のスコップ先生」
「ループしてますよ!?」

 また間違えたらしい。この口は一体いつになったら制御できるのだろう。

「いいですか、私はシャマルです。シャベルでもスコップでもじゃじゃ丸でもないんです!!」
「黙る」
「黙りません!」
「だmaる」
「漫画のタイトル風に言っても駄目ですっ!」

 その後30分にわたって、人の名前を間違えてはいけないと必死にお説教するシャマル先生だった。





「ただの男子には興味ありません。この中に宇宙人、超能力……来たな、キョン!」
「ちがいます」

 クラスメイトAさんは、ふるふると首を振った。



(続く)



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