「はやてちゃん、けーとくん! あのねあのね、おかーさんの夏の新作が……あ、あれ? けーとくん……だよね?」
「はやてたちなら夕飯の買い物……どうしたなのは、飼い主の顔を忘れたのか? 薄情なやつだぜまったく」
「けーとくんに飼われた覚えなんてこれっぽっちもないのにぃ……制服着てたから、なんだか新鮮だったの。それだけだよっ」
「小学校は私服だったからな。これからは着ていく服を考えなくていいからもう楽で楽で」
「この人怠慢だ!」
「面倒くさがりなんだ。ところで、桃から生まれた桃子さんが何だって? 山に柴狩りに行ったらまさかり担いで光る竹取りのオッキーナなの?」
「今日も絶好調だね、けーとくん」
「寝起きなので不調だ」
「これで不調なの!?」

 なのはが遊びに来た。中学に上がる前からそうだったが、入った後も本当に頻繁に家を行き来していたりする。具体的に言うと
お互いの家のゴミ出しを勝手にやっといちゃうくらいの間柄。知らない間にはやてもかなり遊びに行っていたようで、高町ファミリー
との付き合いは非常に深い。
 ハラオウン家は地球にいたりいなかったりするけど、いるときは仕事(秘境探索とか)の話をしに行ったりする。あるいは単に
駄弁りに行ったりとか。

「桃子さんの……そうか。良かったね、なのはに弟ができて」
「シュークリームの話だよ!?」
「なのはがシュークリームになった夢を見ているのか、シュークリームがなのはになった夢を見ているのか。いずれにせよシュークリーム=なのはが成り立つんだ。やったね」
「成り立たないよ悪夢すぎるよ荘子さんが草葉の陰でさめざめと泣いてるよ!」
「よく知ってるね。すごいじゃない」
「え、あっ……ふ、ふーん。べつに、誉められたって全然、ぜーんぜん嬉しくないよっ」
「わかった。誉められて嬉しくないなら散々に貶めよう。それはもう、トラウマもかくやというレベルで」
「嘘だよ嘘だよ嬉しいよぉ! ……うう、不公平だよ。けーとくんは嘘なんてしょっちゅう吐いてるのに」
「はっは。さて、シュークリームあるならお茶淹れるわ。あいにくコーヒーは切らして……そういや一昨日、なのはのマグカップが置きっぱなしになってたぞ」
「あ、それ、こっちに置いとくことにしたんだ。前の湯呑みと交換で」
「そうだと思って洗っといた」
「ありがと!」
「いえいえ」

 とか話しながら台所に移動すると、なのはがぴょこぴょこついて来た。客間で待ってろと言ったのだが、せっかくだし手伝うと言
って聞きやしない。仕方がないので急須と茶葉を任せ、懐からやかんを取り出した。でもって水を注いで火にかけていると、横でな
のはが目を白黒させた。

「なのはの顔面は今日も百面相だ」
「だ、だって今、やかん! せ、制服からやか、やかんが!」
「さっき洗って乾かしたやつだから心配するな。食器はちゃんと清潔に保ってるからな」
「届いて一ヶ月たたない内に魔改造されてる制服を心配してるの!」
「なのはは元気だなあ」
「質問に答える気がかけらも感じられない発言だよ……!」

 戦慄を禁じ得ないといった表情を浮かべるなのはだった。
 まあそれはそれとして、お茶である。急須にお湯を注ぐと、じわじわと音をたてて茶葉が踊った。葉を換えたばかりだけあって
いい香りだ。二人して既に気の抜けた雰囲気になりながら、お菓子と一緒にテーブルに運んだ。

「……むー」

 桃子さんのシュークリームは、とりあえずはやてたちが帰ってきてから。ということで煎餅をぱりぱり食べていると、向かいのな
のはが何言かを鳴く。

「なんでい。残念ながら煎餅は醤油味しかないぞ。塩味が食べたいなら、醤油を全部舐め取って塩をかけてやらんでも」
「全然ちがう! ……けーとくんが制服着てると、なんだか、すごい違和感がある」
「よろしいならばジャージだ。我々は渾身の力をこめて振り下ろさんとするうんたらかんたら」
「途中でやる気がなくなってる……あ、あと上着を脱ぐタイミングじゃあないよ! わ、わわわ、ほ、ほら、わたし女の子、女の子!」
「ホサカ先輩のダンディズムに共感を覚えずにはいられないんだ」
「紳士の皮をかぶった変態としか言いようがないよ!」
「やがみけ」
「半分しか合ってない! ……や、ややややや! ね、ネクタイ締めて! ワイシャツのボタン、ボタン!」

 わたわたするなのはに着衣を強制された。カレーの妖精になるにはまだ早いらしい。

「保坂先輩も高校生だしなぁ……仕方ない。高校編を楽しみにしておくんだな!」
「ノット楽しみだよ! つ、つ、次やったら怒るよ!?」
「なのはが違和感あるなんて言うから」
「どうして脱ぐっていう結論になるのかなぁ……」

 俺の精神回路は今日も謎に満ちているようだった。

「……ね、ね、けーとくん。ちょっとだけ、それ着てみたい。いい?」
「やれやれまた脱衣か。フェイトに弟子入りするしかないな」
「フェイトちゃんはさっきのけーとくんみたいな変態さんじゃありません! そうじゃなくて! ……ほら、その服、なんかいいなぁって。かっこよさそうで」
「男子制服が?」
「んー……それもそうだけど、いろんなギミックがついてそうだし」
「先週ユーノに聞いたジュエルシードとやらをボタンというボタンに組み込む予定しかないんだ」
「けーとくんが私たちの思い出をぶち壊そうとするよぉ!」
「いいぜ お前が何でも思い通りにでき」
「やると思った! ぜったいやると思った!」

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   (^o^)/  ……
  /(  )
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 (/o^)
 ( /
 / く

「まあいい、断る」
「えっ……うう。ねぇ、ちょっとだけ。ほら、ね?」
「ひらりひらり」
「うぅぅ、ねぇ、ねぇってば! うーっ!」

 洗濯バサミと釣竿で吊るした制服めがけてぴょんこぴょんこ跳ぶなのはだった。



(続く)

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ヴィータ「小動物と戯れる動画.wmv」



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