すっかり八神家の写真係に定着しているヴィータであるが、最近になってふと考える。その逆、自分が撮影されるのには慣れてい
ないのではないかと。カメラ向けるとどうなるんだろうかと。面白いことになるんじゃないかと。ちょうどヴィータが家でごろごろ
してたので、いざ、突貫!

「ん。いや、別にいーけど」

 そんなことなかった。相変わらず世の中は思い通りにならないことばかりだ。

「でもあたしを撮るんなら、それ相応のカメラを持ってきてもらおうか」
「じゃあレントゲンで体内をくまなく撮影する。大腿骨のシルエットをズームで激写する」
「胃カメラ飲ますぞ」
「バリボリベキベキ」
「食うな。……お前いったい何がしたいんだ。ありとあらゆることが突発的だな」
「最初だけクライマックスだからな。あまり後のことは考えてないんだ」
「知ってるか? そういうのを尻すぼみっていうんだ」
「尻とかすぼまりとかなにそれえろい」

 帰れよもう、と器用に寝たまま蹴ってくる。

「本音言うと反応が面白いかもっていうのと、アルバム見てたらヴィータの写真が少ない気がしたのですよ」
「そりゃそうだな。カメラはだいたいあたしが持ってるから」
「たまにあり得ないアングルで気づかれずに撮ってるよね」

 「魔法使いなめんな」と蹴られた。どうやら魔法使いには地球上にない撮影技術があるようだ。

「というわけで。撮る?」
「んー……あたしの写真か。まぁ、」
「ごめんもう撮った」
「風呂に定着液入れて浅漬けにしてやろうか」
「嘘だ。あとなんで毎回蹴るの痛い痛い」
「蹴りやすい位置にあるのが悪い」
「さいですか。まあそのうち撮ってアルバムに入れるから、お楽しみに」
「……へへ、そうかそんなに撮りたいのか。せいぜい上手く撮るんだな!」
「蹴るのをやめてください」

 どういうわけかたくさん蹴られてるような気がしてならないが、ヴィータの様子は満更でもなさそうなので大変によろしい。
 ならば撮影だ。
 さて撮影とくれば、カメラである。どうせなら特殊な品なんかを使ってみたいと思ったが、生憎とレントゲンはおろか、八神家に
は胃カメラの持ち合わせさえもない。体の中から記録する方針はひとまず諦めることにした。残念ながら断面図属性ないし。
 ポラロイドはどうだろう。
 いやいや時代はもしやポケットカメラか。
 そういやポケットカメラあったなと思って、戸棚の奥から引っ張り出す。自分に向けて試し撮りをしてみると、まだ動いた。思っ
ていたより頑丈だ。
 しばらくいじっていると、だんだん止め時がわからなくなってくる。そこらへんに浮かんでいたリイン妹を撮り、どうしたんです
かどうしたんですかとふよふよついて来たのに見せびらかし、写真をシューティングゲームのボスキャラに設定して、十字キーとボ
タンを分担してたっぷり協力プレイしていたところで、ようやく用件を思い出した。

「こんなことをしている場合じゃない。リイン妹よ、ヴィータだ。ヴィータを撮らねば」
「なななんと。了解しました! ではルーレット回します!」

 ダーツを渡そうとするリイン妹であるが、パジェロ的な意味では断じてない。

「意味が違うのです。かくかくしかじかな事情から、ヴィータの写真を撮ると言っているのです」
「そうでしたか……でもでも、さすがにポケットカメラはないと思うリインであります! いかがでしょうか?」
「そう言ってくれて助かった。実は変更する口実ときっかけが無くて困っていたんだ」
「わ、私が言わなければ、このままポケットカメラでの撮影に挑んでいたのでしょうか……むむむ、ちょっとお役に立てた気がします!」
「ありがとうね」
「構いません! リインもご奉仕が出来て、なんだか嬉しい気分ですから!」
「これが……無償の愛……!」
「け、けーとさんの背後に神々しいまでの慈母のシルエットが!?」
「幻覚です」
「知ってます!」

 よく分からない感じの会話を繰り広げてから、普通にデジカメを持ってヴィータを撮りに向かうことにした。遅くなってどうも。

「ぐっすり寝てやがる」
「ぐっすり寝てますね」

 そうして見つけたヴィータだが、しかしソファですやすやと寝ていた。間に合わなかったようだとがっかりしていると、はやてが感心したような顔を向けているのに気付く。

「ヴィータから聞いたで。写真少ないの、よー気付いたなぁ」
「さっきから暇してたからな。ぼんやりアルバム見てて、何となくカンで」
「まぁそれはそれとして。はやてちゃん、けーとさん! ヴィータちゃんの寝顔でも一枚いかがでしょうか!」
「おさげを立ててクワガタにしよう。アカツノオオクワガタ。強そうじゃないか」
「手伝ったるわ。ヘラクレスっぽくしよ」
「そっち持って」
「よっしゃ」
「あっ、ではでは、リインがシャッター! シャッターを!」

 寝てるヴィータで遊び始めるのだった。八神家で昼寝するとこのように、大抵誰かのおもちゃにされるのであった。





「おっすヴィータ起きたか。ほら見ろ、華麗なる修正により完成したアカツノオオヘラクレスだぜ!」
「そんなに虫が好きなら、お前の知らないうちに靴にだんご虫入れてやろうか」

 平謝りした。



(続く)



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