帰り道。ひょいとなのはに会いに高町家へ寄ってみたら、部屋にいた。制服のままベッドに倒れ、教科書にまみれてはひはひ言っていた。

「なのはが教科書でハァハァしてる。……この発想と行動力にはもはや、さすがの俺も兜を脱ぐしか」
「は、運んで疲れただけだよっ! 誤解を招く言い方禁止禁止禁止!」

 がばりと起き上がったなのはが抗議した。どうやら教科書に載ってる土偶の腰つきに欲情していた、というわけではないらしい。

「よかったわ。『前方後円墳に大興奮! フン! フン!』とか韻を踏まれても対応に困るしな」
「今日もけーとくんの意味不明が絶好調だよ……」
「それはそうと、お疲れのようだな。やくそう食べる? 朝時間あったから、家庭科室に忍び込んで胡麻和えにしたんだけど」
「と、登校初日から何してるのこの人!」
「何してるのと言われても。無双?」
「けーとくん無双?」
「そんな感じそんな感じ」

 双方に納得のいく回答が得られたので、作ってきたブツを食べさせることにした。紙袋に入れていたタッパーを開けると、醤油と胡麻のいい香りが広がる。

「あっ、これ、おいしい。おいしい! 元気になったかも、回復したよ!」
「あ、ごめん間違えた。それただのほうれん草の和え物だわ。やくそう使ったのはこっちだ」
「……」
「痛いですよ?」

 怒っているのか、顔真っ赤のなのはに無言で枕を投げられた。
 とかやってから、ぐだぐだする。具体的には本を読んだり、ゲーム機をいじったり。基本的にこの部屋で、ぐだぐだ以外のことをした記憶がないような気がする。

「なのは、なのは」
「なぁに、けーとくん?」
「俺何しに来たんだっけ」
「どう考えてもこっちの台詞だよぉ……やくそう持ってきてくれたんじゃないの?」
「それはたまたまだ」
「た、たまたまでほうれん草の胡麻和え作って持ってる人は初めてだよ!」
「自分でも自分の行動がよく分からないことがあるんだ。俺のほとばしるパッションはいつも、愛やら夢やらパッション屋良やら、あらぬ方向へ飛散してるんだ」
「今の、パッション屋良やらって言いたかっただけだよね?」
「良くわかったね。許さないよ」
「なんで!?」
「……?」
「首をかしげないでよ!!」

 今日もなのはに怒られてばかりだ。

「ん? ……ああ、そうか」
「どうしたの? うちに来た理由、思い出したの?」
「いや。そんなもんは最初からなく、家に寄るみたいな感じで」
「けーとくんが完全にうちの住人と化してるよう……」
「それはともかく。今までははやてと一緒だったが、これからは俺だけが別の学校だと悟ったんだ」
「あ……そうだね。はやてちゃんも、学校で言ってたなー……」
「まぁどうせ朝は同じですけどね」
「最近のけーとくんは、まだ押し入れに常駐してるの?」
「リインに取られることがあるから、そういう場合はジミーの中で寝ようかと思ってます」
「ジミー……?」
「ふくろ」
「ふくろに名前つけてる!?」

 命名神様々である。

「『いしのなかにいる』とか『キテレツのなかにいる』とか『イブクロのなかにいる』とか、色々なネタを楽しめて飽きない」
「けーとくんがふくろライフを満喫してる……ふくろの中って、どんな感じなの?」
「まだ寝たことないからわからん。さすがに全身入れるのはちょっと勇気がいるわ」
「それ、勇気じゃなくて無謀って言うんだよ?」
「なかなか言うじゃありませんか」
「でしょ?」

 してやったりと言わんばかりの顔で、楽しそうににぱっと笑うなのはだった。

「まぁはぐりんは全身突っ込んで、快適とか言ってたけどな」

 お茶をむせるなのはだった。背中さすってやった。

「そ、その場面を想像させるのは卑怯だと思います!」
「ははっは。まぁ、中学始まったけどよろしくね」
「あ……う、うん、こちらこそっ」

 まったり話してました。



(続く)



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