クリスマス。はやてが腕を振るった料理に舌鼓を打ったり、なのはに連れられて星空を流星のよ
うに駆け抜けたり、はぐりんたちにはぐれメタル人形をあげて反応を観察したりで楽しいのだが、
その最中あることに気づく。

「よくよく考えたら、まるっと一年いらっしゃいましたね」

 はやてへのプレゼントを渡すタイミングをはかっていたグレアムじいちゃんとぬこ姉妹たちが、
一斉にはっとした表情になる。

「ぬこ姉妹なんて『この家乗っ取ってやる』とか言ってたのにね」
「い、いつやるかはこっちの勝手でしょ。それだけよ」
「明日から本気出す?」

 そうよそれよ、と口々にうにゃうにゃ言う。とりあえず本気出すことは永遠にないんだろうなと
確信する。
 一応それなりに、八神家を気に入っているのかもしれなかった。ヴォルケンたちとは馴れ合いこ
そしないものの普通に買い物行ったりするし、はやての膝には二匹揃って乗ったりもするし。

「お、思いもかけず長居してしまった……迷惑だったか」
「そんなことないのは、はやての顔を見てるじいちゃん自身よくご存知だと思うんです」
「そうか。……そうか……」
「そうです」
「何の話しとるん?」

 何かを噛みしめるような表情をするじいちゃんの背後から、はやてがひょっこりと顔を出した。
気が動転したのか、ぬこ姉妹なんかはプレゼントを押しつけるように渡して逃げるように走り去っ
ていく。
 ひとり残されたグレアムじいちゃんは逆に、やれやれと鼻息を吐いてから渡し、ひとしきりはや
ての頭を撫でるのだった。満面の笑みで受け取るはやてを見ると、こちらまで嬉しくなってくるか
ら不思議だ。

「なんか、長居がうんたらとか聞こえた気がしたんやけど……」
「……これからも長居するか、と話していたんだ」
「ホンマ? ……ああ、安心した。なら、明日もいっぱいご飯作らな!」
「こんなんですよ」
「ああ。言う通りだったね」
「ふたりして、何を隠してるんや」

 はやてが憮然とした顔になったので、じいちゃんに押しつけて退散する。

「やれやれ。大人って面倒くさいものだな」
「お前も中身はもう20じゃないのか」

 ザフィーラに言われて思い出したが、そういや俺はもともと成人に近かった気がしなくもない。

「その割には子供すぎるか」
「男はガキのまま大人になっていくものなんだぜ?」
「クロノという反例がいるな」
「あの人は大人びすぎてるわ」
「話は変わるが、あれは誰のプレゼントだったんだ。お前が大事そうに持っていた、木の箱は」
「恭也さんと美由希さんが選んだ、上等な彫刻刀。鮭くわえた木彫りのザッフィー作ってやんよ」
「プレミアが付くぞ?」

 なにそれすごい。俺に手が八本くらいあれば量産するのに。

「人間の腕ってなんで二本しかないんだろう?」
「単純かつ奥の深い疑問だな」
「……まあいいや何でも」
「言うと思ったぞ」

 俺の発言は一部が先読みされやすいらしかった。

「ともあれ、ザフィーラの彫刻を売るのは諦めるか……別な方法を探そう」
「金が要るのか?」
「ああ、家計がうんたらではなく。リイン妹の魔法開発用に、触媒がいることがわかったので」
「何の魔法だ」
「『頭の後ろがとてつもなく痒くなる呪い』」
「地味だな……もう少しどうにかならんのか」
「くすぐり魔法とかへの応用は考えてるけど、感覚操作系は結構難しいらしくて。まだ開発段階」
「……下らないことを考えるのに関して、お前の右に出るものはそう居ないだろうな」
「そうですよね」

 しかしこのときはまだ、この開発段階の魔法が特定の相手にクリティカルであることに、俺たち
はまだ気づかないでいたのだった。

「さて、パーティーに戻るか……ところで、先程は何を話していたんだ?」
「じいちゃんとなら、管理局の最高評議会とやらに提案し、局員のランクにジムリーダー制を導入する案を」
「却下だな」
「ですよね」

 主にその、最高評議会の皆さまとかに。



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