はやてがクロノに呼び出されたのだが、「ちょっくらテニヌの再現動画作ってくる」って言って
シグナム(たぶんプレイヤー)・ヴィータ(確実に撮影係)と出かけたきり帰ってこない。という
わけで代理としてハラオウン家に顔を出すと、一枚の写真を見せられた。
 すわフェイトの進化形、フェイタンの登場か。と思ったら、何やら見覚えのあるような、いやな
いような、トゲ団子が写っていた。なにこれ。

「なんだこれ。トゲゾー?」
「この間出現した機械の、改良型らしい」

 あんまりにもあんまりな改造を受けたガジェットの姿に、思わずほろりと涙が零れそうになる。

「どうしてこうなった……どうしてこうなった……!」
「前回殴り壊されたのをデータにとっていたんだろう。『やいばのよろい』の理論だな」
「ああ……あれね。自動で反撃してくれるっつう……」
「近接型の魔導師に対しても防御力を上げたかったんだろうな」

 確かに防御力は上がったかもしれないが。
 第3期まであと9年くらいな訳だけど、それまでにどんなことになっているかとても心配になっ
てきた。数の子が全員サボテンダーになったりしたら俺はどんな顔をすればいいのかわからない。
 嘘でした。確実に笑い死ぬ。

「こいつがくす玉みたいに割れて中からヴィヴィ子が出てきても俺は驚かないからな……」

 その場合なのは、フェイト、はやてを仲間にしたうえ四人でスカ退治してもらおうと思った。ク
ロノは不思議そうな顔をしていた。

「まあいい。それで、慣れない魔導師が苦戦するから、対策を考えていたところなんだ」
「『はかいのてっきゅう』思い出した。捕まえて鎖つけてぶん回したら?」
「……ああ……なるほど。意外と、面白い気がする」

 しかし実現は難しそう、とのこと。ぶっとい鎖を一瞬で巻きつけたり、魔力の補助があるとはい
え自由に振り回したりするのは特殊なスキルが要るらしい。召喚とか。
 ん?

「まあいいや。はやてのスクルトあれば問題ないし、何よりリインが殴れば確実だし」
「僕もそれが気になっていたんだ。どうだろう、大丈夫か?」

 一緒に家に呼ばれて、黙って話を聞いていたリイン姉妹に目を向ける。

「だいじょうぶ」
「トゲごと潰せると思います! それはもう、サンドバッグを断ち割る烈海王のごとく!」
「リインの顔が筋骨隆々とした鬼の顔に見えた」
「失礼」

 姉に不満げな顔をされた。しかし確かに、この人の手刀は手加減しても鉄板を引き裂く強さなの
で頼もしいというか、さすがというか、相手が可哀想というか。

「……君の戦闘力がまだ発展段階、というのは本当なのか」
「本当です! お姉ちゃんの場合、技術面では成長が見込めるみたいです!」
「格闘は、まだ中途半端だから」
「昨日覚えたサマソ見せてもらって、あまりの綺麗さに見とれました。俺あれを目指すわ」
「……がんばって」

 微妙に照れた様子のリインから、激励をいただいた。ついでにそっと頭を撫でられた。撫でられ
ること自体はそんなに悪くない気分なのだが、その手がメタル化したままなので何と言うか、謎の
感動を覚える。

「すげぇ。いま俺地上最強の鉄拳で頭撫でられてる」

 リインはあわててメタル化を解除した。残念。

「まあ魔導師に共通して言えるのは、スクルトを覚えましょうってことじゃないかね」
「あれは……要するに、ジャケットの複数強化だからな。魔力量と修練を積まないと難しいんだ」
「はー……はやてちゃんって、実はすごいんですね」
「そういや『頭おかしくなる回数スカラ練習した。紅白歌合戦に出てきそうなフルアーマーシャマルができた。でも二度とやんない』って言ってたな」
「……見てみたい」
「俺も見たい。でもその時、ちょうど写真係がいなかったらしい」
「どうしていなかったんですか、ヴィータちゃん……っ!」

 で。話し合いの結果、結局のところ速効性の対策はないということになった。
 しばらくははやてたちやリインの手を借りることになる、とクロノは言った。任せて、とリイン
は頼もしげにうなずいた。

「あと、フェイトが脱いだ状態でスカラかルカニかけたらどうなるか実験したいんだけど。フェイトどこ? 持ち帰っていい?」

 クロノは玄関への扉を指さし、「帰っていいぞ」と言った。





「まったく……装甲を工夫しても、ここまで完璧に壊してくれるとは……」

 その頃、とある秘密の場所。

「どこまでも高い壁を用意してくれるね……面白い、面白いじゃないか!」

 一人の天才が、今、燃えに燃えていた。



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