「こほんっ。じ……時空管理局、嘱託魔導師のフェイト・テスタロッサです。ご同行を」
思わぬ反応に取り乱してしまったフェイトだが、咳払いをしてなんとか気持ちを鎮める。完全に
とは言わないが、落ち着いた口調が戻ってきた。
「お断りします」
「お断りします」
「お断りします」
返事は思わずフェイトがたじろぐくらい、完全な異口同音だった。
(ところであの黒い外套の下、先程からずっと気になって仕方ないのだが。どうなっているのか)
(……あいつが改変してた、しっとマスクが「WELCOME」って言ってるAA思い出した)
(さっ……さすがにいくらヒロインでもっ、ていうかヒロインだからこそアウトですよっ!)
(全裸に絆創膏より明らかに危険だろう……下手をすると法律に触れるのではないか)
ついでに言えば念話でこんなことを話している始末。当たり前だが内容は戦闘とはまるで関係が
なく、不真面目ここに極まれりと言わざるを得ない。
「……ゴクリ」
「?」
布一枚の下を想像して畏怖の気持ちがわき起こり、思わず生唾を飲み込む守護騎士たちだった。
相対するフェイトは首を傾げるばかりであるが、もし彼女に他者の思考を読み取る能力があったな
ら、自分のあまりの痴態にきっと卒倒していたに違いない。
シグナムたちの脳内で繰り広げられていたのはそれほど凄まじい、全裸よりいやらしいレベルの
光景だったのである。
(でっ……でも、まだ可能性はありますよっ! 変態さんじゃない可能性……!)
(た、確かに……そ、そうだ、うん。なのはも、あいつが言うほど邪悪じゃなかったし)
(そ、そうか。確かに、そうだったな……よ、よし)
しかし、そんな感じに思い直す。
高町なのは嬢が思いのほか優しい少女だったことにより、守護騎士たちの間では「オリーシュの
原作知識は割といい加減」という認識が芽生えつつあった。はからずも正解であり、フェイトをこ
のまま真性扱いし続けるには若干の疑問が残る。
ならば、怯えている場合ではない。話をできるだけ引き延ばし、隙を見て転送魔法。一発帰還で
さようなら、である。シグナムは勇気を振り絞り、目の前の少女に向かって口を開いた。
開こうとした。
だがそれより早く、空気がその色を変えた。
「フェイトっ。合図通り、ユーノと結界張り終わったよ! これでこいつら逃げらんない!」
遅かった。そうこうしている間に、フェイトからこっそり指示が飛んでいた。一仕事終えたアル
フが、ユーノと共にやってくる。
「なん……だと……?」
「こっ、この結界、強力ですっ! ちょっとやそっとじゃ、破れそうには……!」
「あああっ、しまった! くっ、くそ! アイツが余計なこと吹き込むから!」
「……何か、すっごくドタバタしてるけど」
「フェイト、こいつら本当に敵なの?」
「えっと、その……たぶん」
合流したユーノとアルフの言葉を聞きながら、複雑そうな顔をするフェイトである。
「と……とにかく! 今からアースラにて、事情聴取を……」
「だが断る」
「だが断る」
「そういえば取調室のカツ丼って、実は奢りじゃないんですよね。ちょっとびっくりしました」
「そっ、そうなのかっ! そんなの初耳だよ、私っ!」
「こっ、こらっ、アルフ!」
あんまりにも緊張感のない空気だったため、思わず世間話に突入しそうになったアルフである。
止めたフェイトは何だかもう、けっこう一杯一杯といった様子。
というかちょっと泣きそうだった。
フェイトにとって、今回が嘱託魔導師としての初仕事だったのだ。冷静な彼女にさえ、任務の前
にはちょっとした高揚感があった。幼心ながらに、微かな期待があった。
それがいざ現場に来たらこの有り様である。ただひとつの救いは、ユーノがぽんと肩を叩いて慰
めてくれたことくらいか。
「……うっ……うぅぅ……」
でもそれも逆効果だった。ますます悲しくなってくる。
「りっ……リーダー! 泣いちゃいますよっ!」
「あ、そ、その……す、済まない。今まで真性扱いしたのはそのあの、妙な噂を聞いていて……」
「しっ、シグナムそれ禁句! 禁句だから!」
「しんせい? 何それ?」
「いや! なっ、何でもないっ! 忘れてくれっ」
とことん噛み合わない両陣営だった。