「ていうかよく考えたら、あいつ念話は聞こえてるんだよな。返事できないけど」
朝食を済ませて家事を終え、さて今日の捜索はどうするかと皆で考えていると、ヴィータが思い
出したように言った。
「あ」
「……あっ、そう! そうじゃないですか!」
「そやった? 記憶にあらへんけど……」
「はい。確かに以前、私の声が届きました」
覚醒(笑)フラグじゃないかどうなんだ、と以前は散々騒いでいたわりに、完全に忘れ去っていた
八神ファミリーだった。ヴィータのお手柄である。
「よーやってくれた。褒美になのはちゃんと砲撃撃ち合いする権利をやろう」
「撃ち合いとかいう以前に、今度手を出したらさすがにごめんなさいでは済まない件」
「大事な大事な、アタックチャンス!」
「赤のヴィータちゃん、なのはちゃんの射程に飛び込んだっ!」
いつのまにか全員の口調が児玉清に変わっていたので、ひとしきり反省する。
「向こうの世界に行って、呼んでみましょっか。『聞こえたら前のピクニック場所に集合』って」
「……いや、待て。この2日間、あいつはあの場に戻らなかった。動けるならそうしている筈だ」
「隠しすごろく場で徹夜プレイの可能性が残っているのでは?」
「似た例が一人おったらしいしなー」
全員の視線が集中し、小さくなるヴィータだった。
「てか隠しすごろく場って、しんりゅうに頼まないと遊べない気がするんやけど」
「もえさかる火炎ではぐれメタル終了のお知らせ」
「あの子だったらむしろ、普通に仲良くなって願い事聞いてもらえそうな気がします……」
「……おかしい。どうして否定できない」
ヴォルケンのオリーシュに対する評価はだいたいこんな様子である。
具体的には「何この変な生き物」という、珍獣を見かけたときのあの気持ち。
「とりあえず、行って参ります。ザフィーラ、留守を頼む」
「結構」
「少し希望が見えてきました……もしかしたら、今日見つかるかもしれませんねっ」
「そこは『必ず連れ戻す』とお答え頂きたかった」
そんな感じに、いつもユルユルな八神家である。
でもって、はてさて例のドラクエ世界。
着くなりいきなりシグナムとヴィータが「今すぐ戻って来なかったら即刻シャマルルーレット」
やら「むしろ自分がカートリッジと空の薬莢でリアルロシアンルーレット」やらと念話を飛ばす。
相変わらず自分の料理がネタにされることにしょんぼりするシャマルだったが、いつものことな
のでそれはさておく。
「……もう、いいです。全部美味しいケーキにして、ルーレット不成立にしますから」
「ま、待て。やめてくれ。八神家から恒例罰ゲームを奪うというのか」
「ホント面白いんだよな。『全部一口で食う』の縛りがあるから、当たった時の顔がものすごく」
同じ守護騎士なのに、この扱いの差はどういうことかとシャマルは時々思う。
「……? 何か、近づいて来ます」
とそこに、上空から接近する何者かの魔力の気配が。
「ついにオリーシュが舞空術を会得……じゃないよなぁ」
「勇者を乗せた不死鳥ラーミアさん、でもなさそうです」
「念話を飛ばしたのが仇になったな」
どうやら、局員が網を張り直していたらしい。この世界では結構な回数の蒐集をしていたため、
やはり目をつけられていたかとシグナムは分析する。
「……とうとう、バレちゃいましたね。レイジングハートからデータを読み込んだんでしょうか」
「そうかもな……で、どーする?」
ヴィータは振り返った。視線を向けたその先で、シグナムが首を横に振る。
「ヴォルケンリッター……いや八神家には、伝統的な戦いの発想法があってな」
「……それは」
「『逃げる』」
戦う気など毛頭ない守護騎士たちである。
「……いま気付いた。はぐれメタルから蒐集してきたが、そろそろ主の素早さがすごいことになる」
「……冗談でなく逃げ専門の魔導師が完成するな。魔法防御も半端ないんじゃねーか?」
「しかもイオナズンとかの大魔法がありますから、蒐集が終わったら超高速の移動砲台に……」
えらいこっちゃと騒ぐ守護騎士たちの目の前に、やがて一人の魔導師が現れるのだった。
「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッ……」
「ぬ……脱ぎ魔……だと……!?」
「ちょっ、か、カメラ! カメラ用意して!」
「だっ、駄目ですよっ! もし本当に脱いだら、お嫁に行けなくなっちゃうじゃないですか!」
「え? ……え?」
颯爽と登場し、いきなりうろたえるフェイトだった。