「ハイパー割引タイムでシュークリームが美味い!」
「はむっ! はむはむはむっ!」
そんな予行演習を経て、喫茶「翠屋」にリベンジすることに。
本当は買いそびれた翌日に行こうと思ったのだが、割引タイムは毎週火曜日にあったらしく、先
延ばしになったりしていたのだ。
ちょうどいいので、今度ははやてを連れて来てみることにした。
きっかりお昼の時間なので、軽く何か食べたいし。
「いらっしゃ……あら? このあいだの……」
「超リベンジに来ました。こっちはうちの相棒です」
「あら、例の子? ソースばっかり食べてると体に悪いわよ?」
「……どういうデマ流してんねん」
ぐにぐにとほっぺたを引っ張られる。
「はふぁひふぁ」
「人間語でおk」
「ふぁへふふぉ」
「聞こえんもーん。いと柔らかし。タテタテヨコヨコ」
「……」
「はっ!?」
器用に舌を伸ばして反撃する寸前、はやてはひゅっと両手を引っ込めた。勘のいいヤツめ。
「あらあら、仲がいいのね」
「こう見えて乳首の友でして」
「ちゃう! 乳首ちゃうから! ていうかアカン! 何かそれやらしい!」
「間違えた。ちく……ばく……爆竹? 危ないね」
店員さんが微笑み、はやては呆れたようにため息を吐いた。
「はぁ……すみません、いつもこんな感じで……えっと、ハムサンド二つと、テイクアウトでシュ
ークリーム六つお願いします」
「かしこまりました。少し待ってて下さいねぇ」
テーブルに案内して面白そうに笑いながら、奥の方に引っ込んでいった。
程なくしてお冷やが運ばれて来て、二人してあおって一息入れる。
「わ。氷食べとる」
待っている間が暇なので氷を噛んでいると、はやてが意外そうな声を上げた。
「堅いもの食べないと顎が鈍る」
「んー、そっかぁ。ほんなら、噛むのが大変なの使ってみよっかなー……」
「や、はやての飯は今のままがいい。一番美味い」
「ホンマ!? 嬉しいわぁ……『向こう』やと、ずっとコンビニ弁当やったりしたの?」
最近のはやては俺が異世界出身であるという主張を、まぁネタ的には受け入れてくれているみた
いだ。たまにこうやって聞いてきたりもするようになった。
「チャーハンだった」
「……そら、たまにはチャーハンも」
「や、違う。お袋と親父と兄貴がいっぺんに死んだから、誰も飯を食わせてくれなかった。仕方な
いから、全食ずっとチャーハンを食べてた」
「……どんくらい?」
「三年」
「………………」
「お蔭でもうこぼしません。チャーハン作るよ!」
はやては笑ってくれなかった。
「その点、今の食生活はまさに至上。献立毎日違うし、何より味噌汁が飲める! しかも美味い」
「よく身体壊さんとおれたなぁ……こら、食事にはもっと気ぃ遣わんと」
「チャーハンがなめられてる。ここは自ら腕を振るい、良さをアピールせざるを得ない」
「星の目標は?」
「三つ以外に用はありません」
偉そうに胸を張ると、はやては少しだけ笑ってくれた。
「お待たせしました。ハムサンドになります」
会話が途切れたところにちょうど昼食が来たので、二人してもくもくと食べる。
焼いたパンのサクサク感としゃきしゃきのレタス、ハムの風味がいい感じ。
「あ、おいし。たまには外食もええなぁ」
「なんか、いつもご飯ありがと。苦労かけます」
「何やの今さら。楽しい毎日と引き換えや、気にせんとき」
「御礼に明日の昼はソースチャーハンを……ん? チャーハンソースか?」
ご馳走しよう、と言おうとしたら、付け合わせのプチトマトが音速で口の中に飛んできた。
「そういえば」
「むぐむぐ。ん?」
「聞かれへんなぁ。子供がこんな時間に、学校も行かず昼食べとんのに」
「はやてが休学中なのは話した」
「お宅の話やお宅の」
「越してきたばっかで、手続きがまだって言ってある」
そういや学校行ってないな。手続きもしてないし。
「手続き自体はできるんだよね。白いのと黒いのが戸籍用意してくれてた」
「行かなアカンよ。私の分も楽しんでき」
「考えとく。今さら小学生とかヤダけどなー……家に居る方が楽しいし」
全く。とはやては言った。
「帰ったら何しよか」
「桃鉄は飽きた。ロックマンにも波動拳覚えさせたし……スターフォックス撃墜数勝負しようぜ」
「エリア6がカギやな」
「最終防衛ラインも突破されました!」
「あいつだけ妙に楽しそうなんよなー」
遊びの計画ばっか練ってる火曜日でした。ん? 火曜日?
「定期検診って今日の昼じゃね?」
「あっ」