意外なようで意外でないようで、実ははやては腕力が強い。

「ほぼ互角とはいえ、さすがにショック。腕相撲強いね」
「鍋とかフライパンとか、しょっちゅう持っとるし」
「ぬぬぬ。このままだと、完全にはやてに負けてしまう。鍛えないとまずい。シグナム、鍛えて」
「いや、剣術なら兎も角、基礎筋力は私にはどうにも……」
「やっぱシグナムってあれか。おっぱいだけなんだ」

 発言を後悔する暇もなく、亜音速でぎったんぎったんにされた。

「全身の骨がみしみし鳴ってるんですが」
「そのまま折れろ。むしろ砕けろ」
「波紋呼吸法で痛みはないから大丈夫!」
「じゃ、息止まったら痛くなるんやな」
「名案です。では、試してみましょうか」

 多分痛覚のあまり考えるのをやめたくなると思うので、素直に謝って許してもらう。

「フーフー吹くなら私のためにリコーダーでも吹いてるのが似合っとるわー!」
「はやてが自分のリコーダーを使って間接キスを画策している件について」
「残念でしたー。まだ一回も使っとらん新品やもん」
「じゃあ悪戯しよう。中にカルピスの原液入れてやる」
「やめ」

 はやて部屋へ突撃しようとしたら、ぐいんと腕を引っ張られた。そのままソファに投げ出され、
何というか押し倒された感じ。

「そしてこのまま圧迫祭りや!」

 でもって車イスから乗り換えたはやての全体重が背中にかかってきて、小学生とはいえ結構重い。
ぐええ。

「圧力で内臓をやられた、そろそろ吐血とかして死にそうだ。せめて死ぬ前に蜂蜜が食べたい」
「袁術乙」
「そういえばあるよね、はちみつ。使って何か作ろうか」
「明日、朝のトーストに乗せたらどうだ?」
「おお……というか、意外にシグナム、パン食べるね。和食好きなイメージあるけど」
「お前こそ、普段はそんななくせに好き嫌いがないのは意外だ」

 とか話しているうちに、ザッフィーの散歩に行っていたシャマル先生とヴィータがそろって帰っ
てきた。

「帰宅早々目に入る光景が潰れたカエルってのはどうなんだろーな」

 誰がカエルやがな。

「八神家の不良ファイル圧縮中なんよー」
「なら、また前みたいに段ボール箱取ってくるか。宅配便の紙もあるし」

 コールドチェーンを体験したくはないので、頑張って身をよじる俺だった。





 夕食後、片付けなりその他家事なりを済ませたら、その後は皆で遊ぶのが八神家ハウスルールだ
ったりする。
 内容はそれこそPCいじりから、ゲームやら漫画やら結構種類もある。大抵は皆で遊べるテレビ
ゲームになるのだが、風呂で抜けたりしたら自然と携帯ゲーム機に移行することが多い。連休には、
ツタヤに行ってまとめてDVDを借りたりもするのである。
 余談だが先週は確か、劇場版のポケモン(第一弾)の上映回だった。はやてと俺は久しぶりにぐ
っと来ていたのだが、ヴィータとシャマル先生がぼろ泣きしてたのをよく覚えている。

「……その話すんなって言ったろ」

 別にからかってるわけでもないのに、この話題をしようとするとヴィータは頬を染める。染める
だけなら特に構わないのだが、それに物理攻撃が加わるので結構やめてほしい。具体的には首を極
められたりとか。

「まぁ、皆ポケモン好きということで。で、完成したの? 対戦用の6匹」
「いや、メンツが決まんねーんだ。最後の1匹なんだけど」
「意地でもリザードンを外さないヴィータに愛を感じた」
「最初から使ってたからな。今さら外せっか」

 最近は結構ヴィータのポケモンも強くなってきて、俺と対戦しても10回に3つは勝ち星がつく
ようになっていた。ハンデで3匹対6匹の対戦だけど、結構大したものだと思う。

「対するシャマル先生はお困りの様子」
「……聞いてないよ……消せないなんてぇっ……」
「初心者乙としか言いようがあらへん」
「初見では仕方ないと慰めるしかない」

 半泣きになってるシャマル先生のゲームボーイには、「かいりき」を覚えたケンタロスの姿が。

「同じこと昔やったな。リザードにいあいぎりとか」
「あたしは気付いたぞ。ってか、かいりき手に入れるまで行ったら気付くと思う」
「金銀に送って忘れさせるしかあらへんな。来週買う予定やから、それまで辛抱しー」
「……主力だったのに……うぅ」

 へこたれるシャマル先生。さすがに気の毒になってきたので、コーヒーとミニクッキーで慰めて
みる。

「お。このチョコクッキー美味いな」
「横から取るない……おろ、確かにうめぇ」
「お前も食ってんじゃねーか」
「はやてちゃん、これ、何処で?」
「駅のビルの3階になー。この間、シグナムと行ってきた時に買うてきたん」
「ああ、あの時でしたか。こちらのどら焼きも美味しいですね」

 シャマル先生にと持ってきたお菓子だったのだが、いつの間にか皆で食べていたのであっという
間に消え失せる。

「冷蔵庫にコーヒーゼリーあったの、食べよか」
「じゃ、あたしスプーン取ってくる」
「アイスでも乗っけるか。バニラあったし」
「あ! やります、私やりますっ!」

 ちょっと遅めのおやつタイムになりました。



(続く)


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