台風がやってきた。
「台風一家。つまり、どたばた八神家みたいな」
「字がちゃうやろ! そんなことより、はやく洗濯物! 洗濯物入れて!」
雨はまだ降ってないけど風がすごいことになってる。吹っ飛ばされたらえらいこっちゃ。
「もし見られたら大変だ。シャマル先生の、目ん玉飛び出るような勝負下着とか」
「そんなのありませんっ!」
顔を真っ赤にしたシャマル先生に追われ怒られながら、急ぎ洗濯物を取り込んだ。
と同時に、夕立のような雨がどばばーっと降りはじめる。もう外出不能ということが明らかにな
ったので、皆でジュースとか飲みながら談笑に耽る。
「ねぇねぇ」
「ん? あんだよ」
「アイゼン見たい。見して」
「えー……?」
話しているうちに突発的にデバイスを見てみたくなったので、ヴィータに頼み込んでみる。
そしたら、特別だぞと言ってグラーフアイゼンを見せてくれた。それはいいのだが、見ているう
ちにふつふつと自分も欲しくなってくるから困る。
「魔法欲しい」
「そればっかりはどうにもなんねーだろ。諦めろって」
「ううう、くそう。厨二みたいなジャケット組むのに。リミッターで邪気眼ごっこもできたのに」
「……もっとまともな使い方考えろよ」
「や、ふつーに空飛びたかった」
神様のばかやろう。
「残された道は、このまま三十まで貞操を守るしかないか」
「ん? そういえば、前の世界だとどうやったん? 恋人さんとかおらへんかったの?」
横の手合いからはやてが首をつっこんできた。
「浮いた話はこれっぽっちも」
「なら、今から魔法使いを目指そうとすると……通算、都合四十年になるな! これはすごい!」
「これはひどい」
魔法使いへの道は諦めよう。
「雨やまないね」
「風も止まらんなぁ」
「今日晴れてたらセミを捕まえて、絵のモデルにしようと思ってたのに」
「これが本当のセミヌードやな」
「いかん。セミは生来裸なので、夏は街じゅうそこら辺にセミヌードにあふれていることになる!」
「何と卑猥な町なんや」
とかアホみたいな会話をしながら、ばりばりとおせんべーをむさぼる。
シグナムの希望で買ってきた醤油味だ。どうやらこれが結構好きらしく、願い出た本人もおいし
そうに口にしていた。
「こっちの塩味もイケるぞ」
とか言いながらパリパリ食べるのはヴィータ。甘いものもだが、しょっぱいものもよく食べる。
「塩せんべいって塩味であって、サラダ味ではないよね。何でそう書いてあるかね」
「んあ? そっちの方が売れるってことじゃないのか?」
「ほら、やっぱり、ヘルシーに聞こえる方がいいじゃないですか」
「なるほどなー。サラダやと野菜やから、しお味より聞こえはええな」
「美味ければ名前とかどうでもいいがな」
「まったくだな」
ザッフィーが核心をつき、シグナムがうんうんと頷いた。ほっぺにおせんべの粉ついてるよ。
とか思っていると、稲光。
遅れて、割と大きな音が轟いた。遅延の時間からするに、落ちた場所は遠いらしい。
「シグナムの未来のライバルが暴れているのだろうか」
「ん? 誰だそれは?」
「例の、見事な脱ぎっぷりの人。フェイトさんっていうんだけど、魔力を電気にできるらしい」
「それが、ライバルになるのか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
シグナムは小さく首を横に振った。
「戦うことになったら気を付けてね。装甲とか防御とか無視して、脱いでスピードアップするから」
「……まともな戦いになるのだろうか」
「ははっ、脱ぎバトルになったりしてな。脱衣トランプとか脱衣麻雀とか」
「あながち、笑えないかもしれない。戦闘行為中、脱衣せねば気が済まない子なので」
「……マジか?」
「冗談です」
ほっと一息つく皆であった。
「脅かさないでくれ。長く生きてはいるが、真性のその手の者とは無縁で来たんだ。対処に困る」
「天下無敵の守護騎士にも、手に負えない人間がいたか」
「すでにお前ひとりで手に負えないしな」
はぁと溜め息を吐かれた。失礼な。
「早く雨やまんかなー……」
「はやてが新ジャンル『ヤンデネ』に挑戦するようだ」
「聞きようによっては怖いぞそれ! 半分脅迫じゃねーか!」
「じゃあ、新ジャンル『ヤンデロ』はどうだろう」
「変わってないぞ」
「ばれたか」
雨の日はいつもこんな感じです。早く晴れないかなぁ。