「シグナムがチャーハンの魅力に取り付かれたと風の噂で聞いたので、投擲用に作っておこう」
「そんなものは必要ない」
手に持ったチャーハンを笑顔でそぉい! してみる計画は、シグナムによって未然の内に防がれ
てしまった。
「そんな……拒まれてしまった。チャーハン嫌いですか? ピラフの方がいいですか?」
「チャーハンだろうとピラフだろうと、顔面に直撃させる用途での調理は御免こうむる」
「じゃあちゃんと食用に作る。ただし、加熱されたザッフィーのお肉がアクセントとして」
どこからか青い狼が追いかけて来たので逃げ回る。
「わ、わ。トムとジェリーしとる。ほら巣穴! 巣穴こっち!」
「ちゅー」
ちゅーちゅー言いながら声の方向に飛び込むと、其処には子供が入れるサイズの段ボールが!
「主。ガムテープお願いします」
「なら、ザフィーラとシグナムは押さえてて。取ってくるわ」
「ちょっ」
「という訳で、ヒモからスネークにクラスチェンジしました」
「いや、スネークは外から封印されたりせんと思う」
側面に物見の穴だけ開けてもらって、段ボール越しに会話をする俺。
こんなことしてていいのだろうか。明日から晴れて小学生なのに。
「このまま段ボールで生活し、記録を『ホームレス小学生』として売り出せば億万長者に……!」
「漫画だとここに外から剣刺して、黒ヒゲっぽいことをやるんやけどな」
「シグナム。準備を」
「何時でもいける」
「ごめんなさい」
ギャグ補正の限度を超えているので、素直に謝ると開けてもらえた。
しかし開けられた穴が小さくて、具体的には頭しか出ない。
「身体が段ボール……アルの気持ちが分からないでもないです」
「鎧の錬金術師やな。鎧?」
「や、鎧と言うには小さいし壊れやすい。だからこう、もっと安っぽく、段ボールっぽく」
「脆いの錬金術師」
誰が上手いこと言えと言ったか。
「シグナムやザッフィーと遊びたかったのに、身体を奪われ段ボールにされてしまった主人公です」
「遊びたかったのか。いや、てっきり悪事を働こうとしているのかと思ったが」
「悪事と遊びってどう違うの?」
「主、このまま宅配便に出しましょう」
狼がクロネコを呼ぶとはこれいかに。
「やめ。宅配の人が可哀想や」
危機は回避されたのに、この切ない気持ちは何なのだろうか。
「や、でも遊びたいのは本気ですよ? 明日から学校なので。少し家に居られなくなるので」
「もう遊んどるやん……」
「や! まだシグナムとザッフィーでそんなに遊んでない!」
「一文字おかしな台詞があった気がするが」
シグナムがギロリと睨んできて、こわひ。
「が……ま、まあ、仕方ないな。そういう理由なら、遊んでやるのも吝かではないぞ。うん」
しかしどうにかこうにか、遊んでくれるとシグナムが許可をくれた。
「ホントは一緒に遊びたかったんとちゃうの? 最近シャマルやヴィータメインやったし」
「わ、私はただ、単に家族とのスキンシップを」
「ならシグナムも段ボールに! そうすれば、真の箱入り娘への道が!」
「なら、モノポリーもってくるな! みんなでやろ!」
「私が。シグナム、二人を呼んでおいてくれ」
無視されて悲しかった。
「ほな、次シグナム!」
「おい、2だ。1を2回だぞ。それ以外を出したら……分かってるな?」
「わかりますぇん」
段ボールごとサイコロにされて、正直疲れた。
「少し溜飲が下がった気がするな。シャマルとザフィーラは?」
「あ、あはは……私も、少し……」
「因果応報だな」
「……はやて、助けて」
「次は私の番や! 独占がかかっとるんやから、ここは5や! お願いな!」
誰か助けて。