今さらの話ではあるが、俺の制服には既にいろんなギミックを組み込んである。

「いちいち出すのも面倒だから、袖の下に地図丸めて挟めるようにした」
「あっ、ホントだ。ペンもしまえそうだね、これ」
「第2ボタンを狙う不届きな輩は、背中の裾をいじると撃退できるぷしゅー」
「ぼ、ボタンからスモークが出てきた……これってスプレー? 良くできてるね」
「四回押すとボタンの横からデスノートの切れ端も出てきます」
「それは嘘でしょ」
「えっどうしてわかった」
「これだけ一緒に遊んでてわからない方が問題だよ……」

 なのははもう騙され慣れているようだった。今度からは少し工夫しなければならないらしい。
 ともあれ、制服である。改造したところを見せるのは、はやてを除けばこれが初めてだ。
 鞄にもふくろ用の隠しスペースは用意してあるが、制服ほどの作り込み具合ではない。危ないか
らふくろ以外の魔法グッズは埋め込んでいないが、それでもなかなか便利な一品だ。ふんふん言い
ながら聞いているなのはを見ると、作った甲斐もあったかなという気になってくる。

「……この制服、クリーニング出せるの?」

 問題はそこだ。

「ふくろ縫い込んじゃったから、調べられたらマズい……どうしてこうなった」
「後先考えずに改造するからだよ」
「なのはだって味方にロボットがいたらドリル付けたくなるでしょ」
「まだそんな味方に会ったことないもん」

 無印の詳しい登場人物や流れはもはやうろ覚えになって久しいが、なのは本人が言うならそうな
のだろう。
 StSまで数の子の顔と名前を覚えていられるか、というのが最近の心配事ナンバーワンなのは
秘密である。クアの子とかは忘れないと思うが、機会があれば他の子にも会ってみたいと思う。

「まぁいい。クリーニングはエルフのみなさんに相談したら、魔法で綺麗にしてくれるらしいし」
「エルフさんたち親切すぎだよ……どうしてそんなに信用されてるんだろう?」
「むしろ信用されてない。俺は人間だって言っても、皆『またまたご冗談を』って感じだからな」
「気持ちはわかるなー」

 鼻にコーヒー豆詰めんぞ。

「エルフたちに頼りっきりはアレだ。そこで相談なんだが、ミッドにクリーニング屋ってある?」
「えっ……うーん、わかんない。クロノ君たちにきいてみないと」
「地球のクリーニング屋……もうシアーハートアタックを開発し、証拠を隠滅するしか」
「けーとくんが犯罪者ロード一直線だよ……わたしが逮捕してあげよっか」
「左手切り落として逃げるよ」
「直してくれる人いないよ?」
「ドリルをつけるよ」
「そろそろドリルから離れようよ」
「ドドドドドド」
「ごごごごごご」
「おなかすいた」
「……自由な人だね、けーとくんって」
「帰る」
「うん。ばいばい」

 帰宅する。





 そして帰ってみると、はやてが不治の病に冒されていた。

「あ……おかえりぃ……んー、だるるーん……」
「……」
「いた。何すんねん」

 早めの五月病だった。こたつが闇の書組で埋まっていたためか、春だというのにはぐりん湯たん
ぽを全部抱えてソファで横になっていた。あんまりにもあれなだらけ具合に、思わずはたく。

「四月なのに五月病とは片腹痛いわ」
「そんなことゆわれても、眠いものは眠い」

 ぬくぬくぼけぼけとした雰囲気のまま「催眠されたい。自分にラリホーマかけたい」とたわけた
ことをぬかしている。

「ガムでも噛めば」
「飲み込んで寝る」
「ノアニールに連れてくよ」
「むしろ行きたい」
「勉強はどうした」
「あしたがんばる」
「ねーちゃん! 明日って」
「明日さ」

 駄目だこの人。

「んー……ん?」

 と思っていたらはぐりんたちが、はやての腕の中やら頭の上やらからするするりと抜け出した。
 うにょーんと伸びをしている。そろそろ動きたかったらしい。はやてが温もりを失って、悲しみ
を背負ってしまったあうあうとだらしない声をあげた。

「うぅ」
「はぁ。なになに、お湯は飽きた? 牛乳飲みたい? 牛乳飲んだら体白くなったりしないの」
「ううー……」
「そこらへんのスライムとは違う? ふふん、言うな。ならかき氷のシロップを飲んでみるか」
「あかん、寒さで爆発する」

 爆発すればいいと思う。

「毛布、せめて毛布を」
「呂布が何だって?」
「中国武将はいらんから、毛布を」
「俺が食った」
「吐き出せ」
「もう出た。下から」

 はたかれた。ついでに上着を剥ぎ取られた。悔しいので背中の裾を引き、スモークを噴射してやっ
た。怒られた。





「おお。おはよー……え? お、お前の制服、全部ボタン外れてるぞ!?」

 ボタンを全部没収された無残な姿に驚くクラスメートAさんだった。



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