ともすると忘れてしまいそうだが、そういえばなのはは魔法使いだった。世が世であれば魔女
狩り裁判にかけられて、哀れ火炙りにされていてもおかしくない。
 しかしミッド式魔法使いは伊達ではなく、ちょっとした炎くらいは軽く吹き飛ばせるとのこと。
 「魔女でもいいよ。魔女らしいやり方でダァーイ!」とかいう事態が簡単に想像できる。実際に
はどうやら、魔女裁判は難しいようだ。

「そこで思いついたんだが」

 危険を察知したのか、なのはは身構えた。身構えながらじりじりと後退した。
 これで背後が壁でなかったら、きっとうまく逃げおおせていたであろう。ドアがないことにはっ
と気付き、すぐそばをすり抜けようとしたところを捕まえた。

「は、離して、離してよー!」

 世界広しといえど、なのはを小脇に抱えたことのあるオリ主はそうはいないだろうと思うと感慨
深い。

「俺はまだ上り始めたばかりだからな、この果てしない主人公坂をよ」
「何言ってるのかわかんないよっ! ……あれ、普通に抱えられてる。けーとくん力持ち?」
「実は重くて落としそうなんだ」
「重くない重くない重くない! は、早く下ろしてよばかばかぁーっ!」

 落としそうだと言うのに、手足をばたばたさせて暴れるのはいかがなものか。仕方がないのでベ
ッドまで運んで放り出したら、隅っこの方へ逃げていき、毛を逆立てた犬のように威嚇される。

「うーっ……」
「なのはに威嚇されたところで、まぁなのはだし大したことは」
「がうがうがう!」

 吠えられて驚く。

「何故に吠えるか」
「身の危険を感じてるんだよっ! けーとくんの思い付き、今までロクなことなかったもん!」
「昨日の『一日一万回、感謝のディバインバスター』とかナイスアイデアすぎだろ」
「バッドアイデアなことに全く気付いてないなんて驚愕に値するよ……!」
「春になるとね。よく変なことを考え付くものなんだよ」
「けーとくんは年がら年中そうだと思う」
「黙らっしゃい!」
「げ、現実で黙らっしゃいって初めて言われた!!」
「黙らっしゃいが幻想入り」
「言っていることの意味がよくわからないよ……」

 なのははその手のネタに詳しくないようだった。

「ともかく、俺は考えたんだよ」
「話がもとにもどったよぉ……」

 とか言いながら話を聞いてくれるなのはは、案外いい子なのかもしれないと思ったけど言わない。

「魔女裁判ができないというのなら、自分でやってみればいいじゃない」
「する意味がまったくないと思うんだけど」
「一部を除いて、いままで俺の行動に意味なんてものがあったか思い出してみてください」
「自分で言っちゃった! 自覚はしてたんだ……!」

 自分から言っておいてあれだが、なのはに認められるとなんだかむかちゅく。

「じゃあちょっくら判決下しますね」
「裁判長役なの!? べ、弁護士、弁護士さん連れてきて!」
「ごめんね、この裁判は裁判長と被告の二人用なんだ」
「司法国家が聞いてあきれるよ! せめて判決を引っくり返せる要素は用意しようよ!」
「逆転魔女裁判と申したか」
「あ、あれ? 普通に売ってそうなタイトルに聞こえる……」

 ふと思って、そういえばミッドにゲーム屋ってないのと尋ねてみたが、ミッドでゲーム屋による
機会なんてなかったと言われた。それもそうだ。

「どうでもいいけど裁判長の叩くハンマーみたいなやつ、一度叩いてみたかったんだ」
「そ、それは、叩いてみたいかも」
「あとオークションのハンマーとかも、心惹かれると思わない?」
「う……あの、落札のときに鳴らすやつでしょ? 面白そう」
「だったらなのは、ちょっと落札されてきてよ」
「なんで!? わたし売りものじゃないよっ!?」
「今はペットをオークションで落とす時代だと聞いたんだけど間違いだったかな」
「がうがうがうがう!」

 超吠えられた。

「まぁいいや判決。高町なのはさん、香味焙煎」
「なんでコーヒーになってるんだろ……」
「ここに持ってきてるからだ」
「わわっ! せ、制服から香味焙煎が出てきた!?」
「ポットと湯のみとお湯も入ってる。まぁ湯のみでコーヒーはミスマッチだが仕方ないな」
「どうなってるのこの制服……あっ、ふくろが縫い込んである! いつの間に改造したの?」
「届いたその日に」
「速攻で改造される制服が不憫でならないよ……ねっ、ねぇねぇ、これ着てみていい?」
「いいけど、くんかくんかもふもふきゅんきゅんきゅいするなよ」

 枕を投げられた。それでもお湯をこぼさなかったのは褒めてほしい。

「これが男子の制服かぁ……えへへ、似合う?」
「似合うと言ってほしいのか」
「それはあんまり喜べないかも」
「ほいコーヒー」
「あっ、飲む飲む!」
「最近お茶をよく淹れるが、やっぱコーヒーは砂糖入れたりできるから楽しみの幅が広いな」
「リンディさんはお茶にお砂糖入れるよ?」
「あれはお茶じゃない何かだ。……なのはが男子の制服着てると違和感があるんだが」
「けーとくん、これ袖長い」
「背も伸びてきたしな」
「ずるい」
「そんなに身長伸ばしたいなら、足持ってぐるぐる回してやろうか」
「な、何考えてるのこの人!」
「何も考えてないんだ」
「あ、納得……いたた! ど、どうしてつねるの!」
「なんとなく」

 反撃するなのはとほっぺたつねりあった。コーヒーがとても飲みにくかった。



(続く)



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