「ザッフィーのカラーリングを変えてみたいんだがどうしよう」
「……藪から棒に何を言い出すか」
「ほら、あれだ。八神家にもホワイトプラン導入することになったからそれで」
「そんな話はしとらんよ?」

 こんな風に俺の目論見は最近いつも、颯爽とやってきたはやてに潰される。

「でも、そーやな……確かに携帯、必要かもな」
「明後日くらいに学校手続きするしね。外に出る機会は増えるけど、俺念話使えないし」
「……お父さんっ!」
「あ、主!?」

 人が振ったネタを横取りするのってどうなんだろうか。

「で、学校どうするん?」

 と、ザッフィーとじゃれながらはやてが言う。付き合っている狼さんも嫌ではないらしく、胴を
撫でられると時折耳が動くのが分かった。

「近くの公立選んでみた。いくつかパンフ取ってあるから」
「……私立のしの字さえ出てこんのはどういうこと? 例の主人公さんに興味あらへんの?」

 あるっちゃあるが。

「私立やだ。学費高い」
「そういう理由で学校選ばんの。将来働いて返せばええから」
「はやてが浪費癖を身につけたようです」
「浪費ちゃう! 未来への投資である!」
「投資ではない! 教育費の過払いである!」

 漫才ではない。真剣な議論である。

「ていうかあそこ編入やってない気がする。はやてが入ったのは中学から……じゃなかったっけ」
「へ? 私、聖祥行くん?」
「ん? うん。確か……そうだったっけか。と思います」
「ふぅん……ま、ええわ。とにかく、情報は集めなならん。行くにしろ行かんにしろ」
「ふむむ。で?」
「実際に通ってる人に聞くのが一番。シグナムー、悪いんやけど電話の子機取ってくれへん?」
「ちょっ」





「こんにちはっ。この間は突然ごめんなさい、私八神はやて言います。改めて、よろしくなっ」
「あ、あはは、前回はびっくりしたけど……わたし、高町なのは。よろしくお願いします」
「で、そこ。何かくれてんの」

 所変わって高町家。魔導師に騎士はマズいから、はやてと二人なのはの部屋。
 出てくるだろう士郎さんがあまりに怖いので柱の影に隠れていたんだけど、はやてに引っ張り
出されたのでがたがた震えざるを得ない。

「戦闘民族サイヤ人に虐められるツフル人の気持ちがわかりました」
「はぁ。えっと、何かあったりしたんですか?」
「え? あの、特には……」

 目で威圧されただけだしそりゃわかんないよね。
 でも視線で人が殺せるレベルだったので、心的ショックも尋常ではないのです。

「誕生日は、クッキーありがとうな。美味しかったわぁ!」
「急だったから、あれくらいしか出来なくて……来年はちゃんと用意するから、楽しみにしててください」
「ホンマ? ありがと! ……と。それより先に一人おるな。誕生日いつやっけ」
「……実は俺の誕生日は108日まであるんだ」
「そっ、それ人間じゃないです!」

 まともに突っ込んでくれたのは久しぶりなので、少し感動した。

「知らないのか? よく訓練されたオリシュには誕生日が複数あるんだぜフゥーハハァー!」
「お……おりしゅ……?」

 後の魔王様を困惑させたと思うと、何だかとても楽しかった。





 で。
 あーだとかこーだとか騒ぎながら、本来の目的である(簡易)学校説明会へ移る。
 レベル高いしいいなぁって思ったけど、やっぱり編入は特例じゃないと認められないっていうか。
 今までそんなに例があるわけではないというか。

「出願は終わってますし。中学からの入学ならありますけど……」
「じゃあはやて、頑張ってね」
「お宅の話やろ。でも……あーあ、甘くはあらへんなぁ」

 とか言ってると、桃子さんがコーヒーとお菓子を持って来てくれた。

「あ、すみません」
「いただきます。うまうま」
「楽しそうね。アリサちゃんとすずかちゃんも呼んであげたら?」
「ううん。電話したんだけど、二人とも出掛けてて」

 アリサとすずか……あ、友達か。居たなぁ確か。釘宮と紫の子だな。
 ……くぎゅか。

「……このバカ犬!」
「ん?」
「へ?」

 言いたくなったので叫んでみると、奇異の視線が向けられた。

「このバカ犬!!」
「…………このバカ犬!」
「へ? へっ?」

 そのうちはやてが乗ってくれたけど、なのはは戸惑ってるみたいだった。

「こ の バ カ 犬 !」
「バカ犬! バカ犬ぅ!」

 二人して叫んでいると、何だか「やらなきゃKYなんじゃ!?」とか思われたらしい。

「え、えっと……ば、ばかいぬぅーっ!」

 田村さんボイスの罵りもなかなかのものでした。





『こ の バ カ 犬 !』
「うわ、ひでー。はやて、これは酷いよ」
「…………」
「ああっ、ザフィーラ! 違う、違うんや。これはその……にっ、ニヤニヤしてないで説明しろあほー!」

 こっそり持ってったレコーダーの再生を聞いて、勘違いしたザフィーラ。誤解が解けるのには夜までかかった。



(続く)

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