女子に続いて男子どもも風呂に入り終わって、再びお遊び会を再開する。

「だんだん動けなくなってまいりました」
「僕も……今日は、本当にいろいろあったね……」

 しかし風呂の後ということもあって、もう何だか半ばパジャマパーティーに移行しつつある気分。
ゲーム画面見てる皆は結構白熱してる雰囲気なんだけれども、それでも床にうつ伏せになったりぺた
んと座り込んだり、ヴィータやなのはみたくこたつに足を突っ込んだりだ。ちょっとゆるやかな空気
になっている気がする。

「あ。そういえば、リインさんは誰と入ったの?」

 思い出したように、ソファの隣に座ってたユーノが尋ねてきた。もしかして一人になっちゃったの
かなという感じに、どうやら心配してくれているらしい。
 答えようと口を開くも、言葉が出る前にやめておいた。聞きつけたリインが近くに歩いてきて、俺
の代わりに答えてくれたのだ。

「この子たちと」

 リインが視線で示したのは、その後ろを一列に並んで、ちょこまかついてくるはぐりんたちでした。
今日はいろんなものを食べたりしたので、確かにちょっと表面が汚れていた気がする。でも今はきれ
いさっぱりといった感じで、もとのきれいな金属光沢を放っている。

「……湯に入れたら、何か溶け出たりはしないのか」

 その後に入ったクロノが、非常に不安そうな顔をした。微妙に声が震えてる気がするぞ。聞いてた
ユーノもはっとした表情になる。

「何か溶かした?」

 はぐりんたちに尋ねてみると、ふるふると首(?)を横に振った。でもって先頭のはぐりんがその
場でくるりと回って、今度は縦にうなずいてみせる。

「違うそうです。水で溶けるほどヤワじゃないって言って……何?」
「……君もたまには、こちらに遊びに来てくれると嬉しい」

 どうやら管理局には他の世界で、未発見の生物の記録とか、辺境の動物や自然をハンターから保護
するお仕事があるらしい。野暮な引きとめもしないから、暇な時にアルバイト感覚で来ないかとのこ
とだ。おやつ用意して待ってるよ、とか。

「日給は3シュークリームでいかがでしょうか」
「君には物欲がないのか」
「物欲センサー対策で、普段から節制することにしたんですよ」

 訳がわからん、とクロノが言う。

「え……でも、大丈夫かなぁ。もし密漁者に出くわしたら……」
「まぁ問題ないっしょ。強力な護衛がいることだし」

 魔法がダメなため防御手段がない俺を気づかうユーノだった。でもぺたぺたソファーを上ってきた
はぐりんたちを手にのせて見せると、それもそうだねとあっさり納得する。

「魔法が全く効かないもんね」
「拳銃で来られるとちょっと困るけど、こいつら一瞬だけなら銃弾より早いし」

 さらにジゴスパークの習得が確認されているため、心強いことこの上ない。

「いや。それもあるが君の場合、そういう危険な状況にならない気がするんだ。どうしてか知らんが」

 クロノが核心ついた。
 そういえば言われてみると、コアぶっ壊したあの時以外は割と無事に過ごせているオリーシュであ
る。「平穏」かどうかと言われると疑問符がいくつも積み重なるけれども、しかしまぁ少なくとも、
混乱したり死にそうな目にあったりということはないんだよなぁ。

「とりあえずわかりました。またはぐりんたち連れて遊びに行きます」
「その時には、その子たちに軽めのお仕事を用意しておくわね」

 リンディさんがそう答えたところで、この話題もひとまずおしまい。再び向こうの方のゲーム画面
を眺めたり、トランプの遊びを紹介したりやってみたりで過ごす。
 でもってウノなんかもやったんだけど、これがけっこう好評でした。数だけじゃなく色で条件をつ
ける、という発想が面白いとクロノは言う。当然のようにウノ忘れを頻発する魔導士組なんだけど、
けっこう楽しんでくれてるみたいだ。こちらとしても願ったり叶ったりである。

「ドロー2」
「ドロー2。あって助かった」
「じゃあドロー4で色は赤ね。リイン、これで8枚」
「………………き、黄色に」
「赤でござるよ」

 戦闘能力ではもうほぼ最強なんだけど、あんまり経験がないからか、こういう競いごとには強くな
いリインだった。表情から持ち札の色を読んでいるらしい魔道士たちと、英語カードの枚数をカウン
トしている俺に隙がない、という要因も大きい。

「そうだ。フェイト、こっちおいで。カードゲームしよう」
「え……えと、ちょ、ちょっと……」
「フェイト、大丈夫だ。今回はいい勝負ができそうだぞ」

 ふと思いついて、ゲーム観戦中のフェイトを誘ってみる。やっぱりちょっと尻込みしたみたいだけ
ど、しかしクロノの言葉を聞いて、おずおずとやってきた。その周りにちょろちょろとはぐりんたち
が、遊んでもらいたそうに集まる。でももう慣れたらしく、膝の上やら前やらで遊ばせてくれていた。
 そのままルールを説明し、メンバーに加えてプレイしてみると、これがまたリインといい勝負をす
る。そういえば例の決戦の時も、速さで競い合っていい勝負してたなーなどと思い出した。案外相性
がいいのかもしれない。おとなしいところもちょっと似てるし。

「あああ。点数かぞえるの忘れてた」
「何だ。点数制だったのか」

 まぁいいや、と続ける。

「…………?」

 しかしふと視線に気がついて、こっそり顔を上げてみる。
 グレアムのおっちゃんが、ぬこ姉妹にはさまれるかたちで立っていた。指ではやての方を指して、
ちょんちょんと動かしている。
 お話に移る気なんだろう。小さくうなずいて見せると、観戦中だったはやてに何やら話しかけに行
った。隣のリインの肩をちょんちょんと叩いて知らせると、こちらもこっそり抜けていく。はやては
うなずいてからおんぶをねだったみたい。ぬこ姉妹が連れてきたヴォルケンズと一緒に、背負われた
まま別室行き。

「別室行きっ……!」

 言ってはみたが誰も反応しなかった。「また妙なことを」くらいにしか見てもらえなくて、なんだ
かちょっと寂しい気がする。

「あれ、なのは。どうしたの」
「……アルフさんとゲームしてたら、気がついたらみんないなかったの」

 アルフに連れられて、しょぼーんな感じのなのはがやってきた。二人ともまぜてやる。

「さっき出ていくのは見えたが……どうしたんだ?」
「見えてたんか。ちょっとお話するみたい」

 とりあえずはやてに聞かせたいみたい。と言うと、浮かせはじめていた腰を下ろしてくれた。何と
なく察してもらえたみたい。

「……? 君はいいのか?」
「もう知ってる話だから」
「ひょっとして、闇の書にかかわる話かしら?」
「いやまぁそうなんですけれども」

 クロノの後ろからひょっこり顔を出したリンディさんに答える。こう見えてこの人、すっごい勘は
いいみたいだ。脳ミソに大量にエネルギー補給してるからだろうか。もちろん糖分的な意味で。

「あ、リンディさん。その、うちの連中、クライドさんのことは」
「ええ。皆さんから、お話はいただいてるわ」

 気がついて尋ねてみると、どうやらもう話はしていたみたいだった。
 聞くと、決戦が終わって事情聴取があったときに、どうやら揃って謝りに行っていたらしい。もう
原作のシリアス成分が面影もない気がするヴォルケンリッターだけれども、締めるところはきっちり
締めていたみたいで安心する。
 と思っていたら、リンディさんが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
 どうしたんだろうと首を傾げていたら、その理由はクロノが答えてくれました。

「……それで、どうして父の名前を知っているんだ? 話していない気がするんだが」

 あ。

「……。ぬこ姉妹が、昔話してくれて」
「あ、考えた。いま考えたでしょう? どうしたの?」

 一瞬ですごい弁解を思いついたと思ったら、なんとなのはに読みきられてしまった。クロノとリン
ディさん、信じかけてたのに元に戻った。

「なのはのばかやろう」
「えっ、ええっ? わ、わたし、何か悪いことしたかな?」
 
 まぁいいか、しかしどうしよう、と少し考える俺だった。



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