そのころのギンガさん8



 フェイト・T・ハラオウンには彼氏がいない。
 というのは全くもって否定の余地もない、完全無欠の純然たる事実である。
 であるゆえに、それを指摘されたとしても彼女は、本来何の痛痒も感じないはずであった。
 そのように信じていた……今日、この日が来るまでは。

「そっ……んな、そんなこと、今、何の関係が……」

 フェイトは見誤っていた。
 恋愛関係について何を言われても動じないと思っていたのだが、それは今まで一度も、そういっ
たことがなかったからだと初めて知った。
 正面向かって彼氏いないと断言されるダメージは、はっきり言ってフェイトの想像をはるかに上
回っていた。

「そうなのっ。それにフェイトちゃんは昔、イイ感じになってたのっ、クロノくんとっ!」

 その言い回しは微妙に傷つくからやめてほしいと思うフェイト。
 しかしなのはは頭に血が上っているらしく、とりあえず自分の声など届くまい。そしてそんなこ
とはお構いなしに、フェイトを置き去りにして話は続く。

「ルート突入しなかったってことじゃないですか! 義理の妹でありながら!」
「ぎっ、義理の妹って、そんなにすごいポジションなの!? そうは思わないのっ!」
「どう考えてもオイシイ位置です! なのに、なのに腐れ縁の昔馴染みにもってかれて!」

 どうしてそこまで知っているんだ、とはやては思った。

「それもこれも! ぜんぶなのなの口調の有無がカギを握っているに決まってます!」
「なっ、なにそれ! フェイトちゃんのクロノくんルート不成立と、ぜんっぜん関係ないの!」
「なのはさんも、最近なのなの言ってないからユーノさんに会えないんです!」
「ななななにそれっ! ぜんっぜん、ぜんっぜん意味不明なのっ!」

 場はすでに混沌を極めていた。

「おー……おぉ、フェイトちゃん。どしたの?」

 そんな様子を見物していたはやてに、ゆらりと立ちあがったフェイトが歩み寄る。
 どうしたのかとはやてが見上げると、フェイトの目にはすでにあふれんばかりの涙が溜まってい
た。
 その理由を問いかけるより早く、フェイトははやての胸に飛び込んだ。

「は、はやて……はやてぇっ……!」
「ちょ……ああ、そうやなぁ。やっぱり、悔しかったんなぁ。お兄ちゃん好きやったのに」
「うっ、うんっ、だって……ぐす……ふ、フラグ……ふらぐっ、ふらぐ立ってたのに……!」

 ぐすぐすひっくひっく言いながらはやてに泣きつくフェイト。
 パクリなのパクリじゃないなのと言いあいを続けるギンガとなのは。
 あんまりにも斜め上すぎる状況に、はやてはさすがに混乱しながらも、それでもものっそい楽し
そうに見物を続けるのだった。





「さすがのあたしもこれは予想できないわ」
「ああ。できるわけがないだろう」

 それでもカメラは回っている。



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