今日はお休みなので、朝の訓練にお邪魔します。
 ちょっかいをかけるのも良くないらしいので、お手伝いをしようと思ったのである。あとあそこの訓練設備は素晴らしいので、リアルスマブラのプログラムを組んでもらうべく、シャーリーさんとやらを懐柔する切っ掛けも欲しかったり。

「どりるくちばし、どりるくちばし」

 訓練場につくと、キャロがいた。小さなフリードリヒを自由自在に操り、的めがけて鷹匠のように飛ばしている。

「助けてくれえ、助けてくれえ!」

 そしてなぜ俺がその的にされているのか。

「なきごえで攻撃力を下げてくるとは、初歩的ながらなかなか効果的ですね」
「そういう問題じゃない! ああでもポケモン技なのは嬉しい! ああしかし! もう! もう!」
「全体的に気持ち悪いです。フリード、だいもんじ」
「おい」

 思わず地声で止める。
 やけど3割ってレベルじゃねえぞ!

「大丈夫です。わたしの計算だと、乱数次第で耐えたり耐えなかったり」
「期待してくれてるところ申し訳ないが、残念ながらかえんほうしゃでさえ一撃で死ぬ自信がある」
「HPが0になっても瀕死になるだけだから平気じゃないですか、あのゲーム」
「それ以前の問題として、俺はいいけど地球でこれやったら保健所の出番になること請け合いだから。気をつけた方がいいから」
「殺処分の毒ガスにやられるようなヤワな育て方はしてませんよ?」
「駄目だこいつ」

 『何か問題でも?』と言わんばかりのきょとんとした顔をするキャロ。
 以前からうすうす思っていたが、本気で言っているかつ本気で実現しているあたり、この子けっこう頭おかしい。

「もう駄目だよこいつ……」
「リピートしないでください。焼却しますよ」

 キャロは毎度おなじみの呆れたようなだるそうな半目で、ひょいとチビ助を抱きかかえた。
 フリードはほっそい腕の中でごあーっと口に火を溜めながら、なんだか申し訳なさそうな顔をしている。かわいい。

「だいたい『朝錬のお手伝いをしたい』って、自分から言いだしたんじゃないですか。自業自得です」
「お手伝いをすると言ったのです。ダーツの的になるとは一言も言っていないのです」
「それも含めてお手伝いというか、的ならなんでも良かったというか、お腹が空いたというか」
「ついに俺の生死が日常茶飯レベルで扱われはじめた」
「じんにく、じんにく」
「人の腕をかじるんじゃありません!! ああ歯形をつけないで!!」
「まずいです。ちょっと塩か何か振ってきてもらえません?」
「その塩を全部お前に投げつけてやろうか」
「塩じゃお腹ふくれないです。……食堂に戻るのも面倒です。なんかください」

 とか何とか言い合っていたが、そのうちちょろちょろと俺の周りをまわりはじめたキャロ。お腹がすいてるのは本当らしい。
 仕方が無いので、持って来ていたカロリーメイトを口の中に突っ込んでやった。しばし目を白黒させたものの、すぐにもぐもぐと食べ始める。

「もごもごもご。おいしいです。やっぱりカロリーメイトはブロックのチョコ味に限りますもぐもぐ」
「メープル味とストロベリー味が仲間になりたそうにこちらを見ている」
「むぐむぐ」
「聞いちゃいねえ」

 もごもごと頬張るキャロ。マイペースというか何と言うか、この辺はリインにも似ているきらいがあるような気がする。
 手持無沙汰に、ふらふら飛んできたちび助にも同じものを食わせてやることにした。
 二つ三つに折ってやったブロックをかじって嬉しそうにしているが、嬉しさを表現するあまり角で腕を叩くのは止めてほしい。地味に痛い。

「きゅー! きゅるるー!」
「げふー。ごちそうさまです。おいしかったです。さてお腹も膨れましたし、そろそろ食後の運動を……」
「はぁぁぁぁもっちもっちwwwwwwもっちもっちwwwwwwww」
「えっ」
「きゅる!?」

 食べ終わったキャロとちび竜、その横で取り出したるはドーナツ様。
 もっちもちの食感を楽しんでやると、キャロとフリードがものすごい勢いでこっち見た。

「…………人の口にカロリーメイトを突っ込んでおいて、どの面下げてポンデリングを貪っていやがりますか」
「ねえねえ欲しい? 欲しい欲しい? ねえ、ねえねえねえ」
「……そんな漫☆画太郎デッサンの顔で言われたら、次のセリフが予想できすぎてとても返事をする気になりません」

 くそして寝ろをキャンセルされて悲しい。
 しかしながら画太郎先生の名前がすらっと出てくるあたり、キャロの地球文化への染まり具合が窺い知れよう。

「そうか残念だなぁ……はぁぁもっちもっちwwwwwwwもっちもっちもっちwwwwwww」
「うぐぐ……ひ、ひとくち。ひとくち」
「いやぁおいしいなあ! ポンデさんはおいしいなああああもっちもっち! もっちもっち!」
「きゅる……きゅるるぅぅ……」
「うう……ゆ、許せません。屈辱です。今度地球に遊びに行ったら大学に探しにいって、見かけたら『ご主人さま!』って呼んでやります」

 えっ。

「ついでに警察にも通報してやります。ブタ箱で不味いメシを食わされるといいです。腹の底からザマミロ&スカッとサワヤカの笑いが止まりません」
「いやいやまさかそんな冤罪……日本の法律はちゃんとオリ主も守ってくれるはずですよ」
「どこの馬の骨とも知れないオリ主といたいけな幼女、どっちの証言が重いかは考慮するまでもないかと」
「……あっ、これどう考えても勝ち目が無い! 自覚のあるロリキャラがこんなにも恐ろしいものだったとは!!」
「合法ロリのヴィータさんに対抗すべく、違法ロリという新しい概念を今ここに提唱しようと思います」
「もしかして:ただのロリキャラ」
「やかましいです。そうじゃないです。今ならポンデリング2つで、懲役100年くらいを帳消しにしてやってもいいと言っているんです」
「我々は今、壮絶なマッチポンプを目の当たりにしている……!」

 しかしながら書類送検されるのはイヤなので、持ってきたバッグからミスドの箱をひょいと取り出す。
 ちび助はもちろん、珍しくキャロまで、目をキラキラさせてポンデさんを見つめていた。

「まあ最初っからポンデさんは沢山用意してたんですけどね」
「……やっぱ死んだ方がいいです」
「きゅる……」
「ごめんなさいね。仲直りしましょう」
「仕方ないです。あー。あー」

 ちっちぇえ口を開けるキャロにドーナツを持って行ってやると、パン食い競走のようにぱくり食い付き、そのままむしゃむしゃと食べ始める。
 きゅるきゅる言ってるちび助の角に輪投げのように引っかけてやると、いったん宙に放ってからぱくりと器用に咥え、嬉しそうな顔でぱたぱた飛びまわるのだった。

「きゅるるーん!」
「もっちもっち」
「もっちもっち」
「あれ……キャロ、なに食べてるの?」
「地球のお菓子です。エリオくんの分……は、お師さん」
「たくさんあるとはいえ、残念ながらこいつは別の目的にだな」
「訴訟」
「お納めください、お代官様」

 そんなこんなでドーナツがどんどん減っていき、シャーリー先生への手土産どころかヴィータへの差し入れ分もなくなり、最終的にバリカン持って追いまわされる10分前。



(続く)



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