ストライカーズと言えば教導シーン!
 ということで午前中の暇を見計らって六課さんにお邪魔することにしたところ、さっそく出勤前のなのはと出くわした。
 これからオフィス経由で訓練場に向かうということなので、わくわくしながら同行することにする。わくわく。

「うずうず、うずうず」
「……けーとくん、ええと、その、訓練場は使ってる間は入っちゃ駄目だから。訓練中にいきなり登場とか考えないでね」
「心を読まれただと! ええい、右ストレートでぶっ飛ばす、右ストレートでぶっ飛ばす……」
「懐かしすぎるよ……けーとくんの考えてることくらい顔見れば分かるもん。口元なんてほら、アマゾンの段ボール箱みたいになってるし」
「俺の顔が見目麗しいレベルでないのは認めるが、直方体に例えるのはさすがにあんまりだと思います」
「その下のマークのこと言ってるんだよっ! 馬鹿!」
「うわはは。いやでも、訓練は実地で見ないと。ほら、登場するときはドラゴンボールのセルの足音で登場するからそれでひとつ」
「そういう問題じゃないし、できもしないこと言わないの。あとではやてちゃんに無茶振りされても知らないからね?」
「大丈夫。けっこう前に練習した」
「ええええ……けーとくん今日もくるってるよ……」

 鍛えに鍛えた足芸の扱いがひど過ぎて傷つく。
 あとよりによってあの家系の末裔に狂ってる扱いされるとか何事。

「なのはにだけは狂ってる呼ばわりされたくない」
「あ、そういうこと言う! ……でも実際、10人に聞いたら9人はけーとくんの方がくるってるって全体言うもん。えへへ、残念でしたー」
「最後の1人は士郎さんか……許せる!」
「おとーさんはそんなこと絶対に言わないよ! せめてもの情けで1人だけ例外を用意したのに、本当に恩を仇で返すことに躊躇いがないよね!」
「人が九人いると書いて仇と読むからな」
「『今うまいこと言った』って言いたげな顔してる……この人ホント口から生まれてきたに違いないよ……」

 そうでもないと思う。相手が相手なら喋ってるだけだ。
 という風に俺が言うと、なのはは心底胡散臭そうな目を向けた。やめろ。

「とにかくなのはの方が狂ってるから。それこそグーグル先生に『なのは』って入れたら『もしかして:なのは 魔法 狂ってる』って出るレベルに」
「絶っ対っ! 有り得ないから! けーとくんの方がくるってるよ! レベルのとなりに『こんらん』って出てるレベルだよ!」
「狂ってる!」
「狂ってない!」
「……何してるの」

 リインが生えた。

「あ、ちょうどいい! 俺となのは、どっちが狂って……あ、一番くるってる人おっすおっす」
「だからっ、そういうことを人に向かって……あ、でも能力はリインさんが圧倒的にくるってる……」

 リインは悲しそうに眉をゆがめた。
 しかし事実、この世界最強の近接攻撃のひとつが多分リインの手刀だ。なので仕方ない話。

「悲しい」
「見れば分かる」
「……きずついてなきそう」
「リインの嘘は基本的に棒読みなのでこれもすぐ分かる」
「分かられる。……見学?」
「そうそう。紅白歌合戦の小林幸子みたいになら現場に登場してもいいって言われて、衣装の調達に悩んでるんだ」
「そんなの一言も言ってないし……」
「……登場した後、身動きがとれなくなって流れ弾に当たる」
「望むところだ」
「とうとうリインさんまでもがお話を聞いてくれないよぉ……」

 置いてけぼりにされたためか、なのはの顔がふにゃっと弱弱しげになった。
 この人はもう二十歳が近いはずなのに、時折それらしからぬ表情をするからこれでけっこう面白い。新人たちからすると外面ぴしっとしてるらしいけどあまり信じられんなあ。

「ほらほら。朝ご飯あげるから機嫌直して」
「うぅぅ……あっ、おにぎり。どうしたの?」
「あんまり食ってないらしいとフェイトに聞いて、今朝せっせと作って来た」
「えっと……う、うん、ありがとう。けーとくん、たまに優しいよね」
「腋の下で」
「絶対言うと思ってたよ! 事実だろうと嘘だろうともう食べる気なくなったよっ、馬鹿!!」
「なのはは面白いなあ」
「私は面白くない! いいよもう、けーとくんがこの調子で六課出禁になるのを楽しみにしてるからっ!」
「じいちゃん次第で有り得る……へへ、オラわくわくしてきたぞ!」
「ワクワクしてはいけない。改めるべき」
「そうだよ! リインさん、もっと言ってあげてっ」

 なんだかんだでおにぎりを食べながら、二人がかりで説教されて日ごろの行いを反省させられた。





 で、その狂ってるリインを除けば、新人たちの間で最強キャラはシグナムということに落ち着いているらしい。
 キャロに聞いた話だと、メタル軍団の皆さまと戦って勝率がまともな台に乗っかってる筆頭がシグナムだけらしい。
 ヴィータいわく「頑張って耐えながらちまちまダメージ入れるしかない」ようで、それもリインが相手だと基本的に勝ち目がないとか。
 そしてそのシグナム、けっこう前から剣に磨きがかかっている。
 なんでも、感覚を限界まで研ぎ澄ませて、心を空にして剣を振るう技を身に付けたらしい。完全に直感オンリーで斬りかかるため空振りもあるが、最近はリイン相手でも3割ほどの命中率でクリティカルが出るようだ。
 でもってその技、新人たちへの受けが良かった。ティアナやエリオなんかが真似して直感を鍛えたいと熱心にもなのはに相談し、なのはの方が解決に困っているとか。

「一方わたしは『おっぱいまじん斬り』と名付けたった」
「な、な、何の話をしているんですかっ」
「カップのアルファベッドに比例して命中率が上がるのか……これは久々に胸が熱いぞ」
「お前もだッ! 横から出てくるんじゃあないッ!!」

 というのはさておき。
 実を言うと俺も、ティアナにシグナムと同じような視線を向けられているようでなんだかやりにくい。

「勘違い乙」
「自意識過剰と言っておく」
「いやいやあれ絶対そうだって。あの目は確実に俺が『ミンナニ ナイショダヨ』ってしてくるのを今か今かと待っている目だから」
「私らはむしろお宅の存在が内緒であって欲しかった」
「お前が1年ほどシェルターか何かに閉じこもっていれば問題なかった」
「ここだけの話になりますが、個人的には一時期StSの存在そっちのけでした」
「いちおー試験もあったしなぁ」

 エレベーター式といっても学部振り分けはきっちり存在する聖祥なのでした。
 まあ成績しっかり取ってたからほぼ問題なかったけど。 

「そんなわけで、俺がティアナに教えられるものといったらもう微分積分くらいしか」
「いやいや。魔導士みんな基本的に理数系の頭しとるから。微積程度じゃ笑われかねへん」
「困った。本格的にティアナに勝てるものが俺の中に見当たらない」
「生まれた意味を見失うRPG」
「『俺は悪く……ごめんティア! やっぱ俺が悪い! 死んで詫びる! さよなら現世!』」
「君が生まれ変わるRPG」

 そう繋げるとは思わなかった。

「『まさか来世があるとは思いませんでした』とルーク・フォンなんちゃらさんも驚きです」
「二次創作に優しいループものに仕上げたったわ。あと何気に『君が腹を切るRPG』と迷った」
「DSのタッチペンで腹に切れ込みを入れていくのか」
「介錯が来る前に取り出した臓物の数に応じて点数が上がります」

 バカゲーすぎやろ。いやいや意外と。
 とか言ってると、いつのまにやらシグナムがお茶を淹れてくれた。ので一服。

「ぷはぁ……まーともかく、シグナムの技はアレだ。教えるのが難しいならフェイト辺りに教えてみて、そこ経由で伝授してもいいんじゃないかね」
「む……そういうのも有りか。しかし……」
「フェイトちゃんのおっぱいまじん斬りとな?」

 言われてみるとそうなる。今日は本当に胸が熱い話題が多い。

「右乳を根元ごと右回転! 左乳を肋骨ごと左回転! ノンキしてたJOJOも乳首が大きく見える圧力にはビビった!」
「そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的……あ、あ、圧倒的ぱふぱふやと!?」
「やべえ俺のさそうおどりがどう考えても勝ち目無い」

 シグナムが諦めの境地に入ったような顔で自分の胸を見おろしていた。
 それを見てとったのか、はやてがぽすんとシグナムの胸に飛び込む。

「えっ……あっ、なっ」
「うぇへへー。これは一回休みになってもしゃーないわぁ」
「はやてが生き埋めになっただと……あとおかしい! 俺が話に入る隙が一ミリたりとも見当たらない!」
「さそうおどりなんて効かへんもーん。いくら練習しても、まぁこれにはかなわんやろー」
「あの、主、その……」
「えーやろー。なんか眠いし、もうこのまま寝たいーん……」
「くっそくっそくっそ! お前ら乳首もげろバーカバーカ!」

 努力と才能の壁を理解し、捨て台詞を吐いて逃げ出す俺だった。



(続く)

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原作会場を出禁にされかねないオリ主はイヤですか



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