昨日計画してたアップルパイが焼き上がった。ヴィータたちの試食によれば美味いらしく、俺も
食べたがなかなか出来がいい。
 ちょうど休日なので、さっそくなのは部屋に持っていき、食わせてみることにした。お菓子につ
いては舌が肥えてるなのはなので、美味いと言わせれば自分の中では合格。本当は桃子さんにも批
評をお願いしたいんだけど、残念ながら忙しくて無理っぽかったのだ。

「え……く、くれるの? わたしに?」
「アップルパイよか芸人用のクリームパイの方がいいなら、そっちにしますが」
「良くないっ……あれ? そういえば、あのパイって食べられるのかな」
「ホイップクリームで作れば食えるんじゃないか。超胸焼けしそうだけど」

 しかし経費かかるから、ホイップクリームで作るにしても砂糖とか入れないよね。それはちょっ
と食べられないよう。とか。

「い、いただきまーす……あ、美味しい。美味しいよ、これっ」

 おずおずと食べはじめたなのはだが、一口食べたあとは美味しそうにぱくぱく食べていく。ひそか
にガッツポーズ。

「よかった。ちょっと酸味が出てるってヴィータは言うんだが、それはリンディさん対策でして」
「うんっ……あ、でも、ちょっと焼きが甘いかな?」
「急かされてちょっと焦った。早く食べたいオーラ出してるメタル軍団がいたし」

 なのはは苦笑した。ちなみにメタル軍団にはリインを含む。

「それにしても、色々作るようになったもんだ。最近までチャーハンばっかだったのに」
「チャーハンって……こんなにおいしく焼けてるし、そうは思えないんだけど」
「将来もっと上手くなったら、桃太郎印のきびだんごを開発する野望があるんだ」
「本当に作っちゃいそうで冗談になってないよ……」

 ドラクエモンスターズの世界に持ち込んだら、巨万の富を得られる気がした。やらないけど。

「完成したら、まずなのはに食わせよう。きゅーきゅー鳴きながら尻尾振るようになるかも!」
「……きゅう。きゅーきゅーっ」

 てっきりいつも通り怒ると思っていたのに、なのはがきゅーきゅー言いながらすり寄ってきた。
意外すぎてびっくりする。

「ねぇ、ねぇ、びっくりした? びっくりした?」
「それなりには」

 反応が予想外すぎて硬直する俺を、してやったりという顔で見上げてくる。やられた宣言をする
と、嬉しそーににぱっと笑うのだ。

「でも撮られてる気がするんだがいいのか。そこにはやてとヴィータいるけど」
「ばれとったか」
「お前よく気付いたな」
「うにゃあああぁっ!?」

 しかし後から遊びに来ていたはやてとヴィータが、一部始終をこっそりばっちり録画していた。

「カメラの回ってる音が微妙に聞こえたから」
「とっ、とと、と、撮ってたのっ、全部!?」
「おー。そりゃもうばっちり」
「今度アルバムにして、桃子さんあたりにプレゼントせな!」

 顔真っ赤で抗議するなのはがにゃーにゃーうるさかった。





 こう見えても身体が子供なので、なのは部屋で遊んでいるとそのうち眠くなってくる。
 でもってついうとうとしてしまい、ふと目が覚めたら、いつの間にか三人全員の枕にされていた。
重たいのとかは別にいいんだけど、要するにうつぶせのままで動けない。

「……今ここで俺が横に転がったら、こいつら全員頭打つよね」
「やめときなさい。可哀そうでしょ」

 ドアの方から聞き覚えのある声がする。
 見てみると、いつか見た金髪が。その向こうには紫っぽい髪も見えた。

「…………」
「ど、どうしたのよ。きょろきょろして」
「や、せっかくなのに投げるものが無い」

 俺が身動きできないのをいいことに、アリサがテンプルにたくさん蹴りを入れてきた。すずかが
止めなかったら、多分頭蓋骨陥没してたんじゃなかろうか。

「お二人とは久しぶりでござるな」
「久しぶり、じゃないわよ。今までどこに行ってたわけ?」
「ほっ、ほんとうだよ。行方不明って聞いて、心配したんだよ?」
「料理作ってお金稼いで、恵まれないしょこたんのために臓器移植のドナーしてたんです」

 すずかが首をかしげ、アリサが詐欺師を見るような目で俺を見た。しかし事実なので、こればっ
かりはどうしようもない。

「みんな、寝ちゃってるんだ……」
「俺が真っ先に寝たんだが、起きたらいつの間にやらこんな状況に。動けない」
「今なら足の裏思いっきりくすぐれそうね」
「俺の靴下に触ると指が溶けるトラップが発動するけどいいのか」
「それをはいてるアンタの足は一体何でできてるのよ」

 そんな風に話していると、すずかが眠りこけているヴィータを発見する。

「あれ? この子……」 
「ああ、うちの子。はやての親戚の子ということで」
「ふーん……名前は?」
「ゾッド」

 名前がごつすぎて、すずかがドン引きしていた。もちろん後でヴィータにべっこんぼっこんにさ
れたけど、この時はあんまり後悔していなかった。

「しまった。こんなことならもっとお菓子作ってくればよかった」
「何? 何か作ってきたの?」
「パイなんだけど」
「す、すごいね! 何のパイ?」
「タオパイパイ」

 ネタが通じず、二人して首をかしげてみせたので、リンゴ使ったよと教えてあげた。

「……んー……んぅ?」

 そのうちはやてが起きだした。

「んー……」
「久しぶりね、はやて。目覚めはどう?」
「……だれか、おっぱいってゆーた?」
「タオパイパイとしか言ってませんが」
「アンタたちって……」

 がっくりうなだれるアリサだった。



前へ 目次へ 次へ