今日は疲れたし、もう帰るのも面倒だよね。
 ということで、なのはとユーノが八神家に宿泊することになりました。もともとユーノはフェレット形態で高町家にお邪魔
するつもりだったみたいだけど、なのはが宿泊することになったため、一人で行く訳にもいかず自動的にこっちに。

「ほら、ムチ。ムチ使ってるし。スクライアの皆さんもこんな感じ?」
「い、いやぁ、ここまでは……でも魔法は使うから、似たり寄ったり……なのかなぁ?」

 借りてきたインディジョーンズのDVDを見せ、地球の遺跡発掘アドベンチャーを紹介したとこ
ろ、ユーノは首をかしげてみせた。イメージがあまり合わないらしい。

「地球にもこういう遺跡あったらなぁ。他の世界にはいっぱいあるの?」
「うん。次元世界は星の数ほどあるから、やっぱり滅亡した文明とかも多いし」
「ナデシコの火星の遺跡は、管理局的にどういう扱いになるんだろうか……」
「?」

 とか話していると、キッチンのシグナムから通達が。もうすぐ夕飯ができるから、手伝ってくれ
とのことだった。
 今日のキッチンは賑やかだった。今日こそ俺の舌を唸らせてやると息を巻いてたシャマル先生、
サポート役のはやてに加えてその検分役にシグナムが入っている。さらにはそれをなのはがちょこ
ちょこ手伝っていた。冷蔵庫からお皿を出したり、味見をしたり。

「てきぱきしてるね」

 ユーノに棚からグラスを探してもらっていたところ、ぱたぱた動くシャマル先生を見てそう言っ
た。誤った印象を持たれてはアレなので、多少の注釈を加えておこう。

「今でこそ手際のいいシャマル先生。しかしこう見えても、数ヵ月前はスパゲッティ茹でるときに
 塩と間違えて砂糖を入れちゃうドジっ子でした」
「嘘っ!」
「ほんまやよー。あれはすごかったわぁ」
「凄い味が逆に新鮮だった。いや不味かったけどさ」
「スイート(甘)」

 キッチンから離れて、いつのまにか来ていたはやてやヴィータと好き放題黒歴史を暴露してみる。最後のヴィータがとどめだったらしく、シャマル先生がシグナムに泣きつくのが壁越しに聞こえた。

「いや、事実だろう」

 シャマルは絶望した。





 夕飯はハヤシライスでした。
 面子が8人となると食卓が手狭なので、こたつの隣にもうひとつ小さなテーブルを出して食べる。

「……おぉ」

 固唾を呑んで見守るシャマル先生の視線に居心地の悪さを感じながら、一口食べてみた。

「うまい」

 普通に美味かった。

「や…………やっ、やった! やったぁ!」

 シャマル先生が飛び上がって喜ぶ。満面の笑みを浮かべて、隣のシグナムに抱きついていた。

「一体何が。何が起こった。これが噂のドナルド☆マジックか」
「これが事実だ。認めてやってくれ」
「なんと! じゃ、じゃあ、シャマルルーレットはどうなる? 罰ゲームの定番の!」
「低確率になってしまったが、放置すると当たりはまだ出るぞ」

 ザフィーラが教えてくれたので、安心する俺だった。シャマル先生は今さっきまで喜んでいたは
ずなのに、ため息まで吐いて落ち込んでたけど。

「けーとくん、ユーノくんっ。こっちのサラダは、私とはやてちゃんが作ったんだよっ」
「わ、すごい。この細い麺は?」
「春雨。つるつるしてて美味い」

 とかそんな感じに、楽しい楽しい夕飯タイム。懐かしの八神家での夕食、しかもさらに賑やかと
きたものだ。何だかちょっと嬉しかったり。

「で? 向こうの世界では何しとったん?」

 それぞれ席が近い相手と雑談しながら食べていたのが、はやての一言によって止められた。はや
ての声そのものはそういう意図があった訳ではなかったんだと思うけど、皆気になっていたのか興
味があるのか。話を止めて耳を傾けている。

「持ってた食材を売ってお金にしたって言ったよね」
「ああ。カップヌードルとかか」
「そ。それが王様に見つかって。調子に乗ってチャーハン作ったら、えらく気に入られたらしく」
「しばらく料理人をさせられていた、と」
「手持ちの米が尽きるまでやらされた。報酬もらったけど」

 ということで取り出したるは、紙に包まれた小さな箱。
 はやてが開けてみるとそこには、金貨や銀貨と一緒にちっちゃくてきれいな石ころが!

「賢者の石です」
「誰かヴォルデモートさん連れてきて」

 額にサンダー型の傷とかもらいたくないので、丁重にお断りしました。

「ならば、身動きできなかった、とは?」
「人質を取られまして。そいつら猫のくせしてめっちゃ強いんだけど、マタタビくらっちゃって」
「ね……猫?」

 なのはが首をかしげた。信じられんという様子。

「つまり、家に居るときと変わらんかったんやな。チャーハン作って寝んねして」
「だっこして」
「おんぶして」
「また明日」

 夕飯はおいしゅうございました。





 遊びに遊んで夜も更け、はやてたちが寝静まった頃。
 子供みんなで布団を繋げて雑魚寝していたのだが、頃合いを見計らって脱出。こっそりリビング
に行くと、既に騎士たちが集まっていた。

「お待たせ。あと改めてただいま」
「おう、おかえり。で、そろそろ話は聞かせてもらえんだろーな」
「ん」

 やっぱり夕食の時の話には裏があるとバレていたようで、寝る前のすれ違い様、シグナムに出頭
を要求されたのである。こちらとしても話すつもりだったので、まぁ確かに丁度いい。

「まずお城で料理人してたのは本当です」
「………………やりかねないとは思っていたが」
「嘘じゃなかったんですか」

 意外さの中に一種の諦念が含まれた声だった。

「でも、解放されたのは結構早かった。んでそのちょっと前に、闇の書子さんと夢で面会しまして」

 いろいろ教わったと言って、話す。
 夢の中に出てこれた理由。
 闇の書の文字の白抜けの正体。
 そして書を救う、残された方法の一つ。

「……いや、まぁ、お前がいいなら、それでいいけど」

 聞いたヴィータが、若干戸惑っていた。後押しするように、こくんと頷いてやる。

「いいですので。思いっきりやっちゃってください」
「本当にいいのか。お前は……」
「本当でござる」

 選択の余地なし、と意志を告げる。

「そんなものは二の次。それより自分が大事だ……!」
「赤木しげる乙」

 あんまり締まらなかった。ヴィータがネタを知ってるのが悪い。



(続く)

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次回は翠屋会合編。
後の翠屋事件である。嘘。

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