お話はまた明日翠屋で。ということになり、その日はお開きと相成った。食事のカロリー摂取の
おかげで多少なりとも魔力が回復し、クロノやフェイトたちは艦へ戻って行く。これからこのやや
こしい事態を説明しなければ、と言うクロノはだいぶ疲労がたまっている様子だった。今度なにか
美味しいものを御馳走して労をねぎらってやろうと思う。

「じゃあまたね。明日何か作ってくるよ」
「ありがとう。できれば砂糖が入っていないものを頼む」

 そんな感じに言って別れる。俺が闇の書の主でないことは少なくとも明らかになったので、まだ
事件解決に至ってないけどちょっとだけ親交が深まった感じである。
 しかしやはりと言うべきか、無条件で解放してくれる訳ではなかった。なのはとなのはの護衛の
ユーノ(攻撃面ではなのはに劣るが、いざという時の防御の要としては抜群に優れている)が、八
神家にお邪魔することになりました。いらっしゃいませ。

「オリーシュ確保! 確保しました!」

 八神家に帰還するや否や、ヴィータがリビングに突撃した。

「…………にゅー……?」
「人間語でおk」

 ソファに横になるはやては、上半身だけを起こして何か言ってきた。お昼寝したばかりで寝ぼけ
ていたようだ。声が珍獣の鳴き声みたいになってる。

「ブリタニア王復活ッッ! ブリタニア王復活ッッ! ブリタニア王復活ッッ!」
「そう考えて……時期が……むー……」

 俺がネタを振ると、はやては眠い目を擦りながらぽつぽつ口を開いた。いまだ覚醒しきらぬまま
ネタに反応するのは、ある意味驚異的と言えよう。

「おっぱい! おっぱい!」
「お……ぱい。おっぱい」
「おっぱい! おっぱい!」
「おっぱい! おっぱい!」
「シグナムがナチュラルテイスト製法に挑むようです」
「嘘ぉっ!?」

 なので、起こすのは割と簡単だった。シグナムに超強力アイアンクローされたのが痛かったけど。

「……けーとくん、家でもこうなんだ」

 おっぱいおっぱい言ったため顔を真っ赤にしているなのはが、やるせなさそうな表情で俺を見る。
隣のユーノもなんだか気まずそうだった。でも八神家ではいつも通りなので気にしない。

「あれ……あ。おかえり」
「ただいま。お久」
「待たせてからに。用事は済んだん?」
「おおまかには。ちょい残ったけど」

 帰還の挨拶は割とあっさりしてました。夢の中で会ったこともあるし、まぁこんなもんだろう。

「心配かけてからに」
「そいつはすまんかった」

 一応心配してくれてはいたらしい。

「はやてちゃん、こんにちは。お邪魔してますっ」
「こんにちは。初めまして」
「あっ、なのはちゃん。……と……えと?」
「ユーノ・スクライアです。なのはの、友だちで」

 なのはは以前遊びに来たことがあるけど、ユーノは会うのは初めてのはやてだった。まさか護衛
と言う訳にもいかないので、遊び友達ということで誤魔化したみたい。

(脱ぎ捨て写真鑑賞会はまた今度かね)
(だな。万が一なのはにバレて、没収されたら元も子もねーし)

 ヴィータと内緒の談合を取り行ってから、とりあえずキッチンへ。八人分のお茶を用意し、シャ
マル先生がお盆に載せて持って行く。こたつに入る場所がなさそうだったので、ソファで落ち着く
ことにした。なのはと違ってこたつに慣れていないユーノもやって来て、とりあえず一休み。
 魔力も体力も使ったし、今日は疲れている様子のなのはたちである。そのなのはが皿の上のお菓
子を持って、目で問いかけてくる。頷いてやった。

「ほら、あーん。あーん」
「ついにはぐりん三匹が八神家の一員に……!」

 なのはにおやつをもらうはぐりんたちを見て、はやては感極まった様子だった。それを見ながら、
ユーノが尋ねる。

「あの子たちは、そういえばいつから仲間なの? アースラでは見かけたけど」
「や、艦に乗り込む前日に懐かれて。だからその時は、まだ会って日が浅かった」
「じゃあ、最初っからもう言うこと聞いてたんだ。すごいなぁ」
「発掘作業のお供にいいかもね。細かい穴にも入れるし、トラップとかあっても安心だし」
「トラップはともかく、僕も変身すれば隙間には入れるよ。なのはから聞いてると思うけど」
「確かに。それに良く考えたらはぐりんの場合、毒沼入ったらアウトだったわ」

 割と和やかな空気がそうさせるのか、あんまり話したことないユーノも色々喋ってくれました。
遺跡の話になったりしたんだけど、何か結構面白い。古代遺跡だとアイテムが見つかることもある
そうだ。トレジャーハント、面白そうだなぁ。

「やってみたいなぁ。毒はともかく、炎とかのトラップならはぐりんも何とかなるかも」
「トラップもそうだけど、魔法の類が全然効かないし。よく考えたら反則じゃない……」
「でも重い。装備は難しい」

 話を聞いていたらしく、ヴィータがうんうんと頷いた。手に乗せると持ち上げるのに苦労する重
量だ。銀色のボディしてるけど、マジで銀でできてるんじゃないかと勘違いする。

「頭に乗っかられて、重そうにしてたよな。動けなくなるくらい」
「そうそう。そこをフェイトとクロノに見つかって、あれよあれよと言う間に魔王軍が勢揃い」
「だからっ! ま、また人のことっ!!」

 こたつに足だけ入れて温まってたなのはが、ほっぺぷくーしながら正面にやってきていた。両手
で耳たぶを掴んで両側に引っ張られる。しかし腕力が全然ないので、やっぱりあんまり痛くない。
 しばらくしていると全然堪えていないのが分かったようで、悔しそうにするなのはだった。縦横
縦横にぐりぐりされたけど、こうかはいまひとつのようだ。

「タテヨコタテヨコ」
「いひゃいいひゃいいひゃひゃひゃ」

 シグナムに抱っこされたはやてが背後に回って来ていて、今度は背後からぐいぐいされた。フラ
イパンとか鍋とか毎日持っているだけあって、こっちはかなり痛かった。

「いつの間にかなのはちゃんとえらい仲良くなっとる件」
「仲がいいとな。最近しょっちゅう叩かれたり引っ張られたりしてる気がするんですが」
「わっ、わたし、魔族じゃないもん! 魔王なんかじゃないんだってば!」
「な、なのは、わかったから落ち着いて……」

 混沌とした八神家でした。



(続く)


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