騎士たちは戦慄した。
 確かに、楽しみにしていた時もあった。事件があると一回は必ずアーマーパージをすると聞いて、
是非見てみたいと語り合ったこともある。
 しかし実際に目の前に現れてみると、想像するのとはやはり違う。
 限界まで薄くした漆黒のレオタード。その程度ならまぁ想定の範囲内だったのだが、肌の露出が
半端じゃない。色白の腰やお腹、大きく開いた首から下が、目にまぶしいほど映えていた。布地を
切り詰められるだけ切り詰めた努力も、もうありありと目に取れる。
 公衆の面前でこんな格好になるとか。管理局の嘱託魔導師すごすぎる。

『……これは記録に残さざるを得ないだろ』
『ああ。あいつの言葉に間違いはなかった、脱衣魔は本当に実在したのだ』
『フェイトちゃんっ……ごめんなさい、もうフォローできません……!』

 既に観察モードに入り、一挙一動見逃すまいとするヴィータとシグナム。ヴィータに至っては先
ほど受け取ったカメラを、シグナムの陰からこっそり構える始末である。多少のアーマーパージだ
ったらかばってあげようと思っていたシャマルは、己の無力を嘆くばかりだった。ここまで脱衣魔
の名に相応しい格好をされては、もう弁護できる余地はない。

「……?」

 そう思われているとも知らず、フェイトは騎士たちの硬直(視線をフェイトに固定したまま、そ
の場から一歩として動こうとしなかった)を不思議に思いながら、彼らのいる地面へと降り立つ。
 あまりに速く追いついたため、あっけに取られているのだろうか。
 そうかもしれない、とフェイトは思った。クロノと騎士の一人が対峙していた場所から、この陸
地まではまだかなりの距離があった。それを一分と経たずゼロに縮めたのである。
 まだ誰にも見せたことが無い、ぶっつけ本番の賭けであっただけに、フェイト自身が受けた衝撃
も並大抵のものではなかった。実際それを使われた側が、身動きできないほど驚いても不思議はな
い。フェイトはそのように納得することにした。
 事実は想像以上の脱ぎ姿に硬直&釘付けになっていただけなのだが、それを知らぬのは本人ばか
りである。

「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ――」

 バルディッシュの刃を向けたところで、ヴィータがこっそりシャッターボタンを押す。

「――あなたたちを、アースラに連行します」
「…………」
「…………」

 その恰好でその台詞は、と思わなくもない守護騎士たちであった。表情に出さないのに苦労した
のはここだけの話である。

「お断りする。我々はやるべきことがある。あの者を連れ戻さなければならないからな」
「なん……だと……?」
「リーダー、それ、別に義務とか使命というわけじゃ……」
「…………確かに。別にやらなくとも、勝手に帰ってきそうではあるが……」

 格好よく言い放ったシグナムであるが、仲間たちの反論を聞くと、ちょっと力が抜けた顔をした。
フェイトはますます訳が分からなくなるばかりである。

「……とっ、とにかく! 大人しく従ってやることはできん! 力で押し通すがいい!」

 シグナムは誤魔化すように言った。折角きっぱり啖呵を切ったのに、これではまるで漫才である。

「……以前の私とは、違いますよ?」
「いや、それは一目瞭然だろう」

 レヴァンティンを構えつつも、反射的に突っ込むシグナム。彼女はさらにこう続けた。

「テスタロッサ。一つ、お前に言わなければならないことがある」
「え?」

 シグナムはこほんと咳を払って、心底申し訳なさそうに言う。

「す……済まなかった。いつぞや詐欺師扱いしたこと、悔やんでも悔やみきれん。申し訳ない」

 首をかしげるフェイトだったがしかし、カメラを構えるヴィータはそれを聞くと、いかにも重々
しく頷くのであった。





 外見に似合わずと言うべきか、はたまた脱ぎ魔の真骨頂というべきか。
 以前より圧倒的に速度を増したフェイトは、息つく間も無くシグナムを攻め立てた。蒐集の時に
速度に馴れてはいたが、はぐれメタルとはやはり少々勝手が違う。あちらの攻めてはほぼ魔法のみ
に限定されていたが、フェイトの場合は高速での近接戦闘も考慮しなければならない。やはり勝手
が違うのだ。前回それでも対処できていたのは、今回ほどスピードがなかったからにすぎない。
 そして前回、シグナムがフェイトにしたのと、全く逆の現象が起きていた。今度はシグナムの一
撃が、フェイトに対して掠りもしないのである。速度ははぐれメタル以上とは言わないもののそれ
に迫り、またフェイトにはかの魔物にはない、飛行というスキルを持っている。視認して防御する
のが精一杯であった。防戦一方、シグナムには苦しい。

「……ん? あのスライムどこいった?」
「あれ? さっきまでここにいたんですけど……」

 手伝おうにも本人から念話で一対一だと釘を刺され、ヴィータは撮影に、シャマルは他の魔導師
の探知に専念していた。そんな中気づいたヴィータが、辺りを見回してぽつりと言う。親切にもカ
メラを持ってきた銀色のモンスターは、いつの間にやら忽然と消え失せていた。

「ま、いっか。それよか、他の魔導師はどこらへん? あとザフィーラは」
「ザフィーラは離脱して、こちらに向かってます。他の子たちは……もうすぐこっちに来るみたい」

 あまり時間も無いようだった。撮影に時間を食ったが、メモリーのほとんどを埋め尽くすくらい
(渡されたカメラはフィルム式ではなくデジタルカメラだった)撮り終えた。僅かにデータの空き
が残ってはいるが、結構色んなアングルから撮ったため、撮影を心待ちにしていたヴィータとして
はもう満足である。いい画が撮れた。
 幸いなことに、目的地まではここからそれほど遠くない。魔導師が飛んで行かずとも、人が走っ
て五分で行けるくらいの距離だった。これから行ったとしても、時間としては十分だろう。転送で
逃げ切れるかどうかはシグナムとザフィーラ次第だが、まあその時はその時である。

「やっほ。おー、脱いでる脱いでる。ここまでとは正直予想外でござる。やはり脱ぎ魔恐るべし」

 と、出発しようとしたシャマルとヴィータの背後から、聞き覚えのある声がした。

「出たな妖怪」
「なにか用かい」
「だまれ妖怪」
「左様かい」

 こうして、再会が果たされた。



(続く)


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