時間は少し遡る。アースラのメンバーが三人の偽物の方へ向っているその時、ヴォルケンリッタ
ーもまた現場に到着していた。
 しかし騎士たちは魔導師たちとは違い、まっすぐにその三方へ飛んでいくことはしなかった。
 彼らはクロノの予測通り、三ヶ所に現れた仮面の少年がニセモノであるとあらかじめ知っていた
のである。かつその目的が陽動にあり、実は本物が別の場所にいることも理解していた。

「まさか、あたしの夢にも出てくるとか」
「久しぶりに料理のお話でからかい倒されました……」
「私には正しいちゃぶ台返しの作法を熱弁していたな」
「お父さん犬ストラップが欲しいと頼まれた。どうにもならぬと言うのに」

 要するに、そういうことだった。かの奇っ怪かつ面妖な少年は、主人と一緒にお昼寝中の守護た
ちの夢枕に次々と立ったのである。
 これから囮が現れるけど、本物がこっちにいるから闇の書持ってきて。一人また一人と伝えてい
き、それが終わると雑談したり遊んだりで帰っていった。いくら念話が使えないとはいえ、あまり
にもアレな通達である。むしろ訳のわからなさではこちらが上だ。
 一度はシカトを考えた騎士たちであるが、しかし無視して何かあったらマズいし。それに彼が騎
士たちにマイナスに動くことはするまい、という信用なら一応ある。ここはとりあえず言うとおり
にして、ついでに迎えに行ってやることになった。

「実はあの子って、妖怪か何かなんじゃないでしょうか……」
「はやての夢にも出たっていうし、むしろ五番目の騎士だったりして」
「…………」
「…………」
「……ごめん忘れてくれあたしが悪かった。ホントにマジで悪かった」

 さっと青ざめるシグナムたちを見て、この時ばかりは素直に謝るヴィータだった。言ったことを
自分で考えてみて、空恐ろしくなったということもある。

「それより、協力者って……またモンスターを仲間にしたんでしょうか?」
「偽物に変装でき、かつ魔導師相手に逃げ回れる魔物か。相当な実力を持っていそうだ……」
「協力者という言い方が気になるな。魔物以外の可能性もある」
「賢者だらけの勇者パーティーと仲良くなったんじゃねーか?」

 色々と想像しながら、とりあえず指定の位置へまっすぐ向かうのだった。そのうちバレるという
ことは分かっているので、最初からかなり本気で飛んでいく。
 そうしてしばらく飛んでいると、二か所の結界が解除されるのをシャマルが感知した。同時に五
つの大きな魔力が、騎士たちの方へと相当な速度で向かってくる。
 そのうち一人は最初からかなり近くにあったため、それほど時間を置かずにかなり接近してきた。
全力を振り絞ったのだろう、ぐんぐんと距離が詰まってくる。それを感じてザフィーラが、四人組
の編隊を離れた。

「……お前たち、先に行け。ここは私が食い止める」
「ザフィーラに死亡フラグが立った件」
「誰が死亡フラグか」

 という訳で、海を通過し丘にたどり着く頃には、四人は三人に減じていた。目的地までもう少し
といったところである。

「ん? あれって……」

 するとここで、地を見ていたシャマルが何かに気付いた。ちらりと光るものが見えただけだが、
騎士たちはすわオリーシュ発見か、とにわかに色めき立った。当然のように地上へと向かう。

「ん? こいつ……あっ、思い出した。久しぶりだなぁ」

 地上に降りて辺りを見回してみると、なんと草むらからひょっこりスタスタが顔を出した。

「ということは、やはり近いな。この辺りにいるのか」
「そーみたいだな」
「ひょっとしてこの子、迎えに来てくれたんでしょうか?」

 シャマルがよしよししながら言うのは、この小さな魔物の主が普段からそれくらい複雑な指示を
出していたからであった。どう考えても長年しつけをしないとできないような難しい仕事を、言葉
一つで完璧に実行させていたのである。それも、ユーノの想像のような訓練を一切せずに。
 例としては、はやての車イスの車輪をロックしたり、棚から鍋を出させたり。しかも何も指定せ
ずとも、その時に適したサイズのものを選ばせたりとか。それほどのことができれば確かに、シグ
ナムたちの案内などは造作もないに違いない。

「ん? 何これ、あたしに?」

 しかし、用事は少なくとも、それだけではないらしい。うにょーんと背伸びをしたスタスタは、
ヴィータの手に何かを渡してきた。

「……カメラ?」
「デジタルカメラ、ですね」
「ああ。普通のカメラ……まっ、まさか」

 シグナムが何かに気付き、にわかに動揺する。
 するとその上空から、まるでタイミングを見計らったかのように、騎士たちを呼ぶ声がした。

「止まってください。時空管理局です!」

 騎士たちは空を見上げて、そして知る。
 オリーシュの原作知識が、決して間違っていなかったことを。
 世界には彼らの想像を、斜め上でぶっちぎる人間がいることを。

(これはひどい)
(ああ。これはひどいな)
(フェイトちゃん、あなたに一体何が……)

 ゆっくりと舞い降りるフェイトを、騎士たちは戦慄とともに見つめていた。



(続く)

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騎士サイドでした。
今日もう一回更新できるかもでござる。

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