その翌日。海鳴に管理局の捜査網が敷かれることは今はまだない。
 戦闘行為そのものは結界の存在により割れているかもしれないが、どうやらなのはが上手く誤魔
化してくれたらしい……というのが八神家の結論であった。
 管理局に戦闘の際の映像を撮られたわけではないようだ。レイジングハートから記録を読み込め
ばいずれ、戦った相手が闇の書であることはバレるかもしれないが。

「き……来ちゃいましたね」
「ああ。着いちまった」
「ね、ね、ねぇヴィータちゃんっ、やややっぱり今度にしませんか? 今日はあの、お日柄が」
「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない……!」

 そのなのはの根城前には、戦々恐々としたヴィータと、涙目でビビりまくりのシャマルの姿が。

「今なら逃げれるじゃないですかっ! ていうかそもそも私が来る必要ないしっ!」
「ジャンケン負けただろ! 誰か一人来なきゃいけないんだっつーの!」
「あの、お店の前だから……とりあえず、上がってもらえますか?」

 ドアの間からひょっこり顔を出したなのはが言うので、反省しながら店内に入る。

「こ、この間はその、ごめんっ! こ、これ差し入れでっ、やっぱ怪我とか心配になってっ」
「あの、す、すみませんでしたっ! うちの子がおお、お嬢さまと喧嘩をしてしまいまして!」
「そ、そこまだ入口ですよっ! お客さん見てますってば!」

 という訳でヴィータとシャマル(保護者役・ジャンケン敗北者)が、念のため再び謝りに来たの
である。昨日はサイヤ人もびっくりな空中戦をしていた訳であるが、なのはの父・士郎は、こうい
うことについては恐ろしく勘が良い。さすがに事実は言えないので、問いただされたらこう誤魔化
すということはヴィータとの間で予め決まっていた。
 が、しかし翠屋はまだ営業時間のため衆人環視。ふたりして赤面し、小さくなりながら店の奥に
入る。

「よかったのに……でも、ありがとう。私はケガしなかったし、大丈夫だよっ」
「その……それで、レイジングハートは?」
「自己修復中。部品が足りないって言ってるから、修理を頼みに行こうと思ってるの」
「その、ごっ、ごめん。費用とかかかったら、小遣い貯めて返すから!」
「だ、大丈夫だよ、そんなっ」

 とはいえまだまだ恐れが抜けておらず、魔王様を前にしてひたすら平伏するヴィータであった。

「そ、そ、そのこれ、よろしかったら。お、お口に合うか分かりませんが……」
「そんな……あの、すみません、わざわざ」
「ぷ、ぷ、プリン美味しかったですっ、ごごごごごちそうさmけほけほっ」
「わ、わ! お母さんっ、お水お水!」

 魔王の親=大魔王という認識のため、いざ相対すると恐怖で呂律が回らないシャマルだった。





 で、なのは部屋。
 おやつのクッキーを一緒に食べているのは、なのはとヴィータの二人である。ヴィータはまだま
だ緊張がほぐれないようだが、なのははもうすっかり友達気分であった。
 ちなみにシャマルはというと、まだお店の方に居たりする。桃子さんのご厚意により、客足が減
ったらお菓子作りを教えてもらえることになったとか。

「昨日のプリン、ごちそさま。すっごい美味かった!」
「今後も翠屋をご贔屓にお願いします。何か、ごめんね。わざわざ来てくれて……」
「本当に勘違いだし……あたしが全面的に悪かったから。それと」
「それと?」
「……『右の頬叩かれたら左の死角からレーザービーム』って聞いたんだ。ほ、ホントか?」

 嘘に決まってるので訂正する。訂正しながら、この調子だとアリサやすずかまで被害にあうんじ
ゃないかと危惧するなのはであった。
 実際もうフェイトについては手遅れであるのだが。

「というか、昨日聞きそびれちゃったんだけど……けーと君とは、どんな? お友達なの?」
「……誰それ」
「あ。ほ、ほらあの、オリーシュ。たまに仮面被ってる」
「ああ、そうだったあいつの本名! いやすっかり忘れてたっ!」

 本人がしっくりくるなら別にいいけど、これでいいのかなぁとたまに思うなのはである。

「あ、あいつは……んー、んー、えと、えっと、一緒に遊んで、それで、その」

 はやてとの関係がバレる可能性があり、迂濶なことは言えないヴィータである。管理局に見つか
りさえしなければこのままひっそり平和に暮らしていけるかもしれない。はやてが書の主というこ
とだけは隠さなければならないのだ。

「……今本気で思ったんだけど、あいつをどう表現すればいいのか全然わかんねー」
「あー……あ、あはは……わからなくも……ない、かも」

 だがなのはと意見が完全に一致したので、追及は弱まった。ラッキーである。一気に煙に巻く。

「それで、たまに料理食わせてくれんだ……プリンは食いそびれたけど」
「あ、ゲームとかする? 将棋とかオセロもあるよっ」
「てか、ポケモンがある……ま、魔王もポケモンするんだ、本当だったんだ」
「……ま、魔王?」

 慌てて誤魔化して、プレイ開始。通信とかして交流する。

「あいつとも、通信とかするのか?」
「うん、たまにね。他にも、一緒に遊びに来るはやてちゃんとかとするかな」
「ふーん……あ、こ、このっ! はかいこうせんばっかか! トレーナーまんまだな」
「ちゃ、ちゃんと小技も使ってるってば! バリアとかリフレクター、技に入れてるし!」
「昨日のお前とどう違うのか分かるように説明してくれ」
「あ……え、えとその、あ、あう……」

 そんな感じで遊ぶ子供たちだった。人間じゃないことはもうバレてるかもしれないけど、これで
仲直り+友達になったのかな、と思うヴィータだった。





(……てか、魔王の友達って)

 割とすごい気がした。



(続く)


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