結局待ち人との合流は果たせず、はやてと守護騎士たちは様子がおかしいということで、とりあ
えず家に戻る運びになった。
 ぶっちゃけて言うと料理の大部分がかっさらわれてしまったことで全員萎えた。
 はやてなどは今回のピクニックをとても楽しみにしていたらしく、帰って無事だった弁当を食べ
るなりこたつでいじけて不貞寝する始末である。

「捜索に行ってきます。あの場所から近くの町で、目撃情報があったと聞きますし」
「……むー」
「主。その……必ず見つけてきます。この事態に至った経緯を、説明させなければ」
「……んー、お願いなー……」

 という感じ。なんだか聞いているシグナムたちまで気の毒になってくる声である。

「にしてもなぁ……なのはちゃんが犯人て、絶対ありえやんと思うんやけど」

 とはやては言っていたが、それは守護騎士も同感である。今回姿を消したあんにゃろうは、確か
にたまにふらっと外出してはネタを仕入れてくる(漫才的な意味で)ことがあった。
 今回も何か面白いものを発見して、ふらふら行ってしまった可能性はある。はやてもその辺りを
わかっているのだろう、心配はしているがそのうち顔を出すだろうと思っている節があった。
 それに、オハナシ大魔王があの場所にいる理由はない。仮に管理局の捜査に加わっていたとして
も、別の世界が対象となっているはずだ。はち合わせする確率はといえば、例のチャーハンマスタ
ーがチャーハン調理に失敗する確率と同じくらい。つまり限りなく低い。

「連絡を待ちましょう。一応、またアースラに行っている可能性もありますし」

 というシグナムの台詞が、万が一程度の可能性であることも知れていた。
 ただヴィータだけは、置いてあった紙切れの内容を鵜呑みにしてすっ飛んで行ってしまったが。
 もう陽も傾いているが、今頃結界でも張って勝てない勝負を挑んでいるところだろうか。
 止めても無理っぽい雰囲気だったし実際制止も振り切られてしまった。大魔王に勝てるとは到底
思えないが、しかし返り討ちにされた後、管理局が出張ってくると非常に困る。

「厳しそうなら援護に向かうぞ。主はちょうどお休みだ。好都合だな」
「心得た。捜索の方は、取りあえずは私が行こう」
「うぅぅ……プリンがぁ……」

 と机に突っ伏しているのは、明らかに凹んでいるシャマルである。

「い、言うな、シャマル。私だって食べたかっ……く、くそっ! またこのような目にっ」

 今後の行動を決める二人の前で、大いにへこたれるシャマル。その姿を見て思い出したのだろう、同じ
くまた食いっぱぐれたシグナムも心底悔しそうだ。唯一それほどダメージが大きくないのは、はやて同様
既に味わっているザフィーラだけである。

「ずるいっ」
「……そう言われてもだな」

 言っておくがザフィーラに料理スキルはない。何も出せないので致し方なし。

「あいつを連れ戻して真犯人を叩き潰した後、思う存分作らせるしかあるまい」
「捜索、私も行きます。道具屋の店員さんに、お話とか聞けるかも」
「そしてヴィータは肉体的お話し、か」
「……魔王対策に、ついでに光の玉でも探してこようか。無駄とは思うが」

 と言ってヴィータの身を案じながらも、すでに通夜ムードな守護騎士たちだった。





 で、当のヴィータ。
 今彼女の眼前には白いバリアジャケットに身を包んだなのはが、弱々しく身を震わせていた。
 ジャケットにはそこかしこに裂け目が入り、愛用のデバイスも激しく損傷している。全てヴィー
タの猛攻によるものであった。結界を張ってから激昂に身を任せグラーフアイゼンで殴りかかり、
カートリッジまで使って得た戦果である。
 プリンを根こそぎ食われた仕返しは果たされたと言えよう。
 だがヴィータは内心冷や汗ダラダラだった。

(やっちまったやっちまった魔王に手を出しちまった! まままままずいってアイツの話だと死の
淵から回復したらサイヤ人みたいに強くなる戦闘民族だし! 今勝ったって目をつけられて物理的
にオハナシされてお話されて天地魔闘ハイパー頭冷やしタイムあうあああうあうあうあうあうう)

 気が付けば恐ろしいことに、死亡フラグと逆襲フラグがまさかのスタンディングオベーション。
平静を装っちゃいるけれど、背中を冷たいものが伝ってくるのが止まらない。

『勝つとは思っていなかったが……いずれにせよ同じことだな。強化して逆襲か』
『しっ……シグナム! い、今から謝って許してくれるよな! そそそそそうだよな、うん!』
『墓はあの教会に頼むか。呪いの装備さえ解除するのだ、成仏できよう。シャマル、任せた』
『だだだっ、誰の墓だよそれッ! たっ、頼むから助けてくれよっ』

 念話で必死に救いを求めるヴィータだったが、シグナムから帰ってくる返事はそんな感じであっ
た。具体的には「ご愁傷さま」という印象だ。どうやら助けは期待できないらしい。

「どっ……どうして……こんな、こと」

 そして正面からは悲しそうな目を向けてくる満身創痍の高町なのは、もといオハナシ大魔王。
 結界内部で散々打ち合い撃ち合いしたを続けたため、当たり前だが顔なんかはもう完全に覚えら
れちまってやがるに違いない。
 要するにつまり、もう逃げ道はないのである。大魔王からは逃げられない。

(うわああああんっ、死亡確定じゃんか! アイツのトニオ料理、まだ全部食ってねーのにっ!)

 心底泣きそうなヴィータだった。



(続く)


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