「……最近アイツのせいで、あたしたちが物凄く割を食ってる気がする」

 と言うのはヴィータで、目の前に居るのはシャマルとシグナムだ。場所は八神家キッチン前で、
聞いたふたりは曖昧に返す。

「聞けば、ザフィーラまで被害にあったって言うし」
「ま、まあ、単なる悪戯、スキンシップだと思えば」
「シャマルも怒ってたじゃんか。何日も口利いてやんなかったことあるだろ」
「あ、あれは、だって……だって、あんなこと言わせようとしてっ!」

 顔を真っ赤にするあたり、シャマルはあまりシモのネタに耐性がないらしかった。

「ヴィータ。ならば、どうする気だ?」
「決まってんだろ。一泡ふかせてやんだよ!」

 ヴィータはぱしんと拳を叩いた。幸い、謀略を巡らせるなら今だ。
 ザフィーラが護衛兼散歩でついていってしまったが、はやてと某オリーシュは小学校に手続きに
出掛けている。
 仕込みをするのにはもってこいだ。この機を逃す手はない。

「オリーシュって言うとなんか連想するな。アヤシイ格好でニッポンニッポン言ってるアニメのやつ」
「え? えっと……確か眼が特殊で、レアスキルみたいなのを持ってる?」
「あ! そうそう、そいつ! シャマル、名前覚えてねーか? どうしても思い出せなくてさ」
「何だったかしら……ル、何とか、だったような……」
「……仕返しをするのではなかったのか?」
「はっ! こ、こんなこと言ってる場合じゃねー! 帰って来ちまうって!」

 守護騎士の未来は大丈夫なのかと心配になるシグナムだった。





 という流れで、「最近調子に乗ってるあんにゃろうに目にもの見せてやる守護騎士の会」が発足
した次第である。
 チャーハン直撃以外は割かし被害の少ないシグナムはあまり乗り気では無かったが、比較的精神
ダメージの大きかったヴィータとシャマルはかなり張り切っていた。

「まずはアイツの弱点探しだな」
「食べ物だと、好き嫌いはあまりなさそうだし……」

 ヤル気に満ち溢れている。
 とまあ、そんな仲間たちの姿を見てしまっては、リーダー格のシグナムとしては協力するのもや
ぶさかではなくなってきた。

「本音言うと、興味あるだろ。面食らったアイツの顔」
「少しな」

 野次馬根性とも言う。

「が、これといって弱点らしい弱点は見当たらないな」
「……魔法で悪戯すんのは負けた気がして嫌だ」
「じゃあ、今度からあの子のネスだけ集中狙い……とかはどう?」
「主はやての漁夫の利か、あいつ自身から返り討ちか。二つに一つになるだろうな」

 いくら剣や魔法の腕が立とうとも、ゲームの一点では遠く及ばないのが悔やまれる。

「ヒモの一点を前面に押し出して攻めるのはどうだ?」
「それはアリだけど、普段から結構言ってるからな……慣れちまってるかもしれねー」
「パソコンのお気に入りに仕掛けをしておけば……」
「駄目だ。履歴も含めて全く記録は残さない奴だぞ? それに主はやてまで被害が及びかねん」

 言いながらシグナムは、この短い期間で随分変わった自分たちに思いを馳せた。
 以前までの、道具として生きてきた守護騎士なら、笑いあって過ごすこともこんな悪巧みをしよ
うとすることもなかった。
 そういう意味では主はやての優しさと同時に、あの気ままな居候にも少し感謝の念もわかないで
はなかったりするのだ。
 しかしそれとこれとは話が別で、弱点などまるで見当たらなくて困る。

「……あー、もう! あの野郎、何が苦手なんだよッ!!」

 そしてヴィータはキレる。

「仕込みをする前に、まず相手の詳細を見極める必要がありそうだ」
「データがゼロだから……しばらく観察するのが先かも」
「……なら、あたしが調べる。それとなく聞き出す」
「大丈夫か?」
「大丈夫だっ!」

 果たして。





「お、お、おい、お前!」
「はもう死んでいる。何?」
「べっ、べつに、興味なんてないけどっ……お、お前、こここ怖いものとかあるのかっ?」
「ん? んー……あるっちゃある」
「なっ、何だ、それ、ちなみに。お、教えろよ」
「チョコレートケーキ。こないだ行ったデパートのが。あぁ、怖いなぁ。食べたら、きっと泣いて謝る」
「ふっ、ふーん、そっかー。あ、あたし、少し出掛けて来るからー」
「了解……あ、はやて。そういう訳でコーヒーお願い」
「ウホッ! いいお茶菓子……」
「食わないか」





「あっ! シグナム、シャマル! 聞いてくれよ、アイツの弱点分かった!」
「……ヴィータ、焦りすぎだ。お前の敗けだ」
「ヴィータちゃん、その……このページ、読んでみて?」
「は?」

 満面の笑みを浮かべるヴィータにシャマルが見せたのは、グーグル先生に「饅頭怖い」を
質問した結果だった。
 内容を見て、全てを悟ったヴィータ。
 その後怒りと悔しさを胸に、スマブラ勝負を挑んでいった。

「うわぁぁっ! な、何でこっちに戻って来んだよッ!」
「知らないのか。サムスの砲撃ってネスバットで打ち返せるんだぜ?」

 返り討ちにされたのは言うまでもない。

「あの……ヴィータちゃん、もう諦めた方が……」
「う、うるさい! うるさいうるさいうるさぁい!」



(続く)

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