物理的に目が覚めた。

「はやてはやてはやて! なのはが、なのはがレイハさんをビーダマンに入れて相手のゴールにシュゥゥゥウ!」
「それ夢や」
「なんだ夢か」

 目が覚めた。精神的に。

「危なかった。さすがの俺も弟子入りを検討しはじめるところだったぞ」
「いつもながら妙な夢を。フロイト先生涙目やな」
「意識があろうとなかろうと関係なく、いつもこんなもんです」
「知ってる」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「どうも」

 よくわからない感じに会話をしながら、眠い目をぐしぐしこする。
 そういえば今日は、中学の初日だったなあ。ずいぶん早く目が覚めてしまった。はやてはテーブ
ルでお茶なんか飲んでるけど、この人いったい何時に起きたんだろう。

「6時」
「はっや」
「寝つけなかったん。今日のこと考えとって……まあ今思えば、どうせ書類もらって終わりやけど」
「夢のないことを。どうせなら部活選びとかで悩めばいいのに」
「それよりお宅が賢者モード解除したあと、購入しとるはずのやらしい本を探すのがもう楽しみで楽しみで」
「超隠すよ。自室の引き出しにデスノート隠すキラ様レベルのとてつもない小細工を弄するよ」
「八神家だけにか」

 よくお分かりで。

「しばらくは帰宅部やなー。様子見てから決める」
「俺もだわ。奇遇だね」
「そうやね」
「プロテインだね」

 とか言ってるうちに、腹が減ってきたので早めの朝食。
 スクランブルエッグとソーセージの相性の良さを熱く語り合い、制服に着替えたりなんかして、
準備万端の状態でうだうだと雑談なんかをする。

「……死んでニートになったはずが、今日から中学生とは」

 今になって現実を認識し、いろんな意味で「どうしてこうなった」な気持ちになる。

「よく面接通ったなぁ。今さらやけど」
「特技聞かれてまともな受け答えになったのが今でも奇跡にしか思えない」
「『さそうおどり』がまともな受け答えやったとは」
「いやいや。実際踊ったし。試験官の先生も誘われて納得してたし」
「いったいどんな原理なのやら」
「レベル上がってたのかもしれん。最近はリインまでものの見事に釣れるからね」

 唯一リインに対抗できるのはお宅やったんか、とはやては戦慄する。

「そんなリインも、今はダンジョン・秘境巡りのパートナー。いい相棒です」
「護衛の意味も兼ねとるしな……そういえば、冒険の方は進んどるんか」
「順調。歩きながら地図と図鑑埋めてる。伊能忠敬みたいな気分だわ」
「地図? そんなん、管理局に頼めば」
「まもの生息図も兼ねたハイクオリティな仕上がりですから」

 見せれ見せれと言い出したので広げてやると、おお。と感心した声が上がったので誇らしい。
 冒険は順調だ。旅先ではいろんなものに出会えて楽しい。あとは冒険に出る度に感じる、鉄っぽ
いメガネ臭さえなければ。諦めてくれないかなあの人。

「まぁいいや。今度はここから、東に行きます」
「ほう。理由は?」
「はるか東にはプレスター・ジョンの国があって、悪い人たちを蹴散らしてくれるんだ」
「節子。それモンゴルや」
「はやて世界史取らなくて良くね?」
「面白おかしく解説したのが誰やと思っとるんか」

 それもそうだった。

「まぁともかく、根拠はない。ただのカンです」
「適当やな。そんなんでええのか」
「いいのです」
「さよか。ほな、早いけど学校いこか」
「はいはい」

 ひらひらと手を振るはやてに続いて立ち上がった。非日常などなく、日常がどこまでも続いていく。



 俺より面白いやつに会いに行く。
 クロノの結婚式でドヴォルザーク「新世界から」を流しつつヘリコプターからライスシャワーす
る計画を練りながら、当面の目標を定める俺だった。



(おしまい)

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おしまいだよ! 一応!



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