ヴィータはよく俺の髪を切りたがる。自分としても八神家の床屋代がちょいと浮くので、たまに
任せることにした。任せるたびにいつベジータヘアーにされるかと思うと、ちょっとオラわくわく
してこないぞ。
 なのでそういうときは、鏡を数枚合わせて切られる様子を観察できるようにしている。とはいえ
最近は確認もおざなりで、半ば任せきりにするようになってきた。そんなイベントが二か月に一度
くらいあり、今日がちょうどその日にあたる。

「どちらかというと、昔は俺が切る側だったんだがなぁ」

 ちょきちょきとハサミを入れる音を聞きながら、ちょっと昔を思い返してみた。

「そうなのか? てっきり逆だと……こら、顔下げんな」
「本当だ。兄貴が楽しい奴で、床屋のお金が映画やらお菓子やら、いろんなものによく化けた」
「だあああもう! 振り返ろうとすんな!」
「注文の多い理髪店。ということは、俺はこのまま食われてしまうのだろうか?」
「ハサミ持ってるんだから注文多いに決まってんだろ。あと、じっとしてないと五分刈るかんな」

 五分刈られては敵わないので、大人しく従う。ハサミだけでどう刈るのか興味はあるが、実演さ
せると俺の頭がすごいことになりそうなので却下。

「お、若白髪発見。……最近多くないか?」
「知らぬ間に『シラガハエルダケ』でも食ったんじゃね」

 そんなキノコあるのかよ、と冷静に突っ込まれる。しかしそれに似た種類で既に、「テノツメノ
ビルダケ」を見つけているためあり得ない話ではない。と思う。

「若白髪と普通の白髪の境界っていつ頃なんだろーな」
「二十歳だと思われる。それはそうと、若白髪って切っちゃだめなんじゃないっけ?」
「ん?  ……いや、違うだろ。抜いたらダメだったはずだぞ」
「いやそんなはずは」
「絶対そうだって。てか、もう切ったし」
「ああヴィータが人の白髪を勝手に切った! もし髪が生えなくなったらどう責任取らせてくれよう!」

 そんなんで生えてこなくなったら今ごろ、日本全国の理髪店が訴えられてんだろ。とまともに突
っ込むヴィータの主張に思わず納得する。

「……!」

 様子を窺いに来たリインが自分の純白の髪を見て、はやてのいる居間の方に一目散に駆けて行く
のが見えた。ヴィータの最後の主張だけ聞こえていなかったようです。

「あー…… ほら、お前が間違ったこと言うから」
「リインのあれは普通の白髪じゃないだろ……まぁ、ちょい待って。行って訂正してくる」
「念話でやっとく。それよか、まだ作業残ってんだ。シャンプーさせろ」
「ん? いや、流すだけでよくね。切る前にやったような気が」

 気がするだけではなく、確実にやったはずなのですが。

「いーからやらせろ。残念だが、お前のそれは気のせいだ」
「気のせいなんだぜ?」
「気のせいなんだぜ」

 なんでこの人こんなに楽しそうなんだろうと思いつつ、されるがままになる俺だった。





 ついに図鑑も、残りあと数種類というところにきた。さっそくクロノに報告し、見たい見たいと
言っていたなのはにも持っていくも、部屋にいない。とてもがっかりする。
 しかし恭也さん情報によると、体力をつけるべくアリサ・すずか監督の下、何やらトレーニングをして
いるのだとか。いま聖祥に行くと会えるようなので、はやてと一緒に見学も兼ねて、差し入れも持って見
に行った。さっそく見つけた。はひはひ言いながら走ってた。

「おー、お疲れのようだな。そして何気に初見か? こんにちは聖祥」

 アリサが露骨に「うわっ出た」という顔をする。すずかは驚いたのか、目を白黒させるばかり。

「関係ないが、聖祥は一発変換不可なんだ。毎回『聖なる吉祥寺』と入力する俺に謝罪と賠償をするべき」
「……何しに来たのよ」
「なのはウォッチングおよび、図鑑のお届け。ついでに差し入れと、聖祥の見学に」
「私は見張り役なー。まぁ、遊び半分やけど――」
「まったく。校舎の壁にビスケット・オリバさんの巨大肖像画を描く計画が実行できぬ」
「このように、まったく目が離せへんので」
「納得」

 冗談半分だったのだが、納得されては仕方ない。とりあえず主目的たるなのはの観察を敢行しつ
つも、今日もまた少し奇人扱いが深まっていくなぁと実感する。戦逃奇人?

「まあいい。ところで、あいつはいつから走っているのか。もうへろへろっぽいけど」
「時間は測ってないけど……結構長くやってるわね。ノルマはあと1周」
「アリサたちは走らないのか」
「あの……実はもう、けっこう前に走り終わっちゃって……」

 納得である。
 しかし見るからにへとへとの様子で走るなのはだが、それでも止めないあたり根性は一流だ。な
んとなくカッコいいので、走路上にバナナの皮を置く妨害行為のはやめておこう。

「はぁ、はぁ……あ、あうう……」

 走り終えるや否や、ふらふらもたれかかるなのは。アリサが受けとめる。

「今ならティアナでも簡単にぼっこんぼっこんにできる気がするぜ」
「またわけの分からないことを……ほら、なのは。お疲れさま。ギャラリー増えてるわよ」
「え……あ、はやてちゃん、けーとくん……つ、つかれたようたてないよう……」
「体力の限界に挑むからそうなる。差し入れだから、ポカリでも飲め」
「あ、ありがとう……ん、ん??っ! あ、開かないぃ……」

 なのははうんうん言いながら、必死に缶を開けようとする。仕方ないからあけてやったら、結構
な勢いでごきゅごきゅ飲んでいく。

「なんなんだろうこのいちいち面白いいきもの」
「ひ、人のこと面白いって、んぐ……し、失礼だと……ん、んぐ」

 んぐじゃねぇ。日本語を喋れ。

「しかし、いきなり体力作りとは。ぬこ姉妹にさせられたものとてっきり」
「確かにそれもやっとったけど、魔法メインやったから」
「なるほど。だが、なぜこの寒い時期に。もうちょい暖かくなってからでもよかろうに」
「……すずかちゃんもアリサちゃんも、図鑑集めで山登ったって、言ってた」

 動機が判明した。どうやらなのはも行きたかったようだ。

「ちょうどその図鑑を見せに来たんだった。ちょうどいいから、聖祥の図書館案内してくれ」
「また勝手に……でもま、いいタイミングかもしれないわね。今日はもうおしまいだし」
「あっ……そ、そうだ! けーとくん、残りあと3種類って本当なの!?」
「本当だぜ。遅かったな」
「う、うう……じゃ、じゃあ、最後の図鑑集め、絶対呼んでね! やくそくだからね!」
「なのはに針千本されて1000ダメージか……」
「破ること前提になってるよう!?」

 ここ最近図鑑集めがにぎやかになってきたなぁ、と思いながら、また一つ約束が増える俺だった。
終止様子をうかがっているすずかが気になったが、まぁいいかとてくてく歩くのだった。



(続く)

############

人の髪をいじるのがドキドキするけど楽しいヴィータ。
あとすずかは結局自動登録のスイッチを入れませんでした。見ればわかると思いますが。

ぜんぜん関係ないけど作者はWカップと聞くと心のときめきを抑えきれません。



前へ 目次へ 次へ