休みがくるたび、まったり図鑑の収録を続ける俺。最近ヴィータ・ザフィーラやリイン姉妹あた
りに加えて、かなりの頻度でそのすずかとアリサも様子を見に来るようになった。
 どうやら、はやて経由で予定を聞いているのだとか。地球にはいない、面白い動物が見たいのだ
とか。動物園気分だな。

「そのへんに生えてたキノコの醤油バター焼きうめえwwwwww」

 でも人がいるからといって変わらず、オリーシュはいつも通りのオリーシュです。

「ほ、ホントに食べてる……危ないと思うんだけど、大丈夫なの?」
「おそらくな。信じがたいことだが、今まで一回も中ったことがない」
「もし食べたのが毒でも、コイツのことだからすぐ治るんでしょうね」
「毒見には最適だよな。そのおかげであたしたちが美味い食材にありつけるっていう」

 行く先々でよく現地の食材を漁ってきたが、今まで一度も中毒になったことはない。
 詳しくは分かんないけど、たぶん平穏無事だかなんだかのおかげだろう。黒いのと白いのに聞い
てみないと分からないが、「俺が毒を食べる」という事象が存在しない、とかそんな感じになって
るような気がする。

「夕食の材料も集まったことだし、出発するか。残りは30ページ弱だ」
「けっこう少ないんだね。……もしかして、今日でぜんぶ集まるかな?」
「わからん。わからんがまあ、今月で決着はつくだろ。あとは早いか遅いかの話だわさ」

 まあそれはいいのだが、こうして普通に話しかけるすずかの考えだけは読みきれなかったりする。
 図鑑の登録に自分が含まれる可能性を、まったく恐れる様子がないのはどういうことか。
 そういえば最初にすずかが同行した図鑑収集でも、席を外したりすることは最後までなかった。
 「バレていい」と思っているような気配しかしないのだ。
 しかしながら確証がないから、正直言って判断つかないんだよなあ。

「なにを唸ってるのよ。棒に当たった犬みたいな声して」

 アリサに見つかった。そのまま話すわけにもいかず、何とか言い訳を考える。

「うまい棒の真ん中の穴には、いったい何があるのかと思い悩んでいました」
「うまい棒?」

 よもやとは思ったが、首をかしげる様子を見ると、なんとうまい棒を食べたことがないらしい。
今度泊まりになった時に、髪の毛一本一本にカーラーと偽り、うまい棒に巻くという悪戯をやって
みようと心に決める。

「熟考に熟考を重ねた結果、少年少女の夢と希望がつまっているにちがいないという結論が」
「棒か何かに巻いて焼いてるからに決まってんだろ」
「ああヴィータが少年たちの夢をぶち壊す! これだからおおきいおともだちにしか人気が出ない!」

 うまく誤魔化したはいいけど、体からいろんな液体が出るまで殴られるのはよく考えると割に合
わない。

「もうライフ残ってないです」
「安心していいぞ。あたしはいつでもオーバーキル狙いだかんな」

 当然ながら死にたくないので、逃げるように出発する。

「やれやれ。ヴィータは軽い冗談ですぐ殺しにかかるから困る」
「か、軽い冗談じゃないからこうなるんじゃ……」
「余計な一言っていうのよ」

 アリすずの言葉をそれぞれもっともだと思いつつも、草を踏んで山道を歩きだす。いま地球は冬だ
が、こちらは春。必ずしも世界間で季節は一致しないらしい。
 今回も参加人数が多く、野獣なんかにはすぐ逃げられてしまうように思えるが、野生の生き物な
んてのはいるところにいるものだ。山に囲まれた向こうからいい感じの気配がするので、とりあえ
ず登ってみる。

「毎回思うけど、わざわざ歩きにするのも物好きよね」
「この手間が好きなんだ。それはそうと、いつもながら二人ともやたら動きがいいな」
「お互いさま。アンタも尋常じゃないほど体力あるじゃない」
「今年はすごい歩いたし。運動神経はともかくとして、疲れとは縁がなくなってきた」

 険しい山道をひょいひょいと登るアリサとすずか。険しい道を歩いたことは何度かあったが、そ
のたびにこの人たちの運動能力には驚かされる。

「こうして見ると、運動神経ゼロのなのはがお前らと同じグループにいるのが不思議である」
「うーん……なのはちゃん、身体は柔らかいんだけど……」
「このままだと中高で完璧にもやし扱い……もとい、あだ名がもやしになるかも。もっと運動誘ってやろうぜ」
「……菜っ葉にもやしってセンスあるな。本人が喜ぶかは別として」
「ついでに言うとあの子は嘘も下手なので、大根役者ともかけてます」

 リイン妹が何やら感激したらしく、しきりにメモを取っていた。ザフィーラから「誰がうまいこ
と言えと」の切り返しが飛んでこないあたり、本当に上手いこと言った気がする。

「アンタのその頭の回転が、もっと別の方向に向けられたらね……」
「俺の灰色の脳細胞は、いつでも黄金長方形に回転しているぜ?」
「灰色なのに黄金って洒落てますねっ!」
「敵にぶつけたら結構ダメージ出るってことか?」

 ことあるごとに危険な発想を披露するヴィータが大変おそろしかったです。





 とかやってるうちに山を登り切り、下りに入った。
 そのま谷へ下りると、川が見えたので一休み。

「あの、図鑑、また見せてもらっていい?」

 水分を補給しつつ一息ついていると、すずかが寄って来てそんなことを言う。

「縦にして俺を殴る用途に使わない、というのなら」
「……いつも、そんなことされてるの?」

 軽く引かれつつも、図鑑を渡す。最近クロノに加え、話を聞いたユーノまでもがプログラムを更
新してくれているおかげで、図鑑も少しずつながら軽量化が進んできた。辞書くらいの重量だった
のが、今はそこらの参考書くらいにまでスリムアップされている。
 しばし川のせせらぎと、ぱらぱらとページをめくる音だけが聞こえる。
 横合いに様子を窺ってみたが、新しく増えた分をチェックしているようだった。777ページと
か気が遠くなる数字だと思っていたけれど、実際こうしてみるとあっという間だ。

「や、やっぱり載ってない……おかしいなぁ。てっきり、私……」

 しかし見ていると、すずかは何やらあたふたとしはじめた。何だろ。

「何か期待に添えなかったようだが、さすがにクトゥルーの神々はまだ登録されてないです」
「……お前なら見ても余裕で帰って来るように思えるのは、何故だ」

 様子を見にてくてく歩いてきたザフィーラが、理不尽なものを見る目で俺を見た。

「パルプンテの恐怖の召喚も耐える点から察するに、SAN値が減らないようになってるのかと」
「それは結構なことだが、お前は自分がまだ正気を保っていると思っていたのか?」

 さらっと失礼極まりないザフィーラ。
 隣でふき出しそうになってるすずかも大変許しがたい。

「世が世なら斬り捨て御免だぜ。なかなか言いやがるなザフィーラ」
「盾の守護獣だからな」
「しゅ……? えっと、何の関係が?」
「盾の守護獣だからな」

 ザフィーラは答えるのがめんどくさいようだった。

「それはさておき、どうしたの。さっき何か図鑑に、足りないものがあるように言ってたけど」
「あっ……う、ううん。何でもないよっ」
「うん。なんでもないなら、すずかは先に爆発しようか。斬り捨て御免の代わりに」
「おっ。お前、暇そうだな。アリサが飽きたって言うから、ちょっと相手しろよ」

 ヴィータに背後から掴まれた。

「今からすずかを爆発させるという、重大な任務があるのですが。何の相手?」
「タイマンドッヂボールだ。アリサがけっこう強くて……ほら、さっさと来いよ。暇してんだろ」
「……こやつめ。ハハハ」
「ハハハ」

 引きずられる俺だった。





(やっぱり、私の思い違いだっ……あ、あれ? このスイッチ、自動登録がOFFになってる……!)

 ドッヂ弾平なみの過酷なドッヂボールをさせられる俺の後ろで、すずかが何か気付いたようだっ
た。だがそうとは知らず、休憩なのに超疲れるばかり。死ぬぜ?



(続く)

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複数イベントの同時進行を狙ってます。

ヴィータはオリーシュと遊びたいだけなんだよ。ほ、本当だよ!



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