最近知ったはやての誕生日が三日後になったので、プレゼントをしようと思い立つ。

「何か欲しいものってある?」
「ググれ」
「じゃあ家で足りないものとか」
「ヤフれ」

 しかし聞いても聞いてもこんな感じなので、何を贈ればいいのやらと途方に暮れる。



 という訳でケーキの予約がてら、翠屋に相談に行ってみることに。
 何度か通ったおかげで桃子さんとは結構話したことがあるし、高町なのはという同年代の女の子
とも面識がある。

「……」
「そんなに警戒しないでください。もう騒いだりしませんから」

 ドアを開けると、応対していたなのはがじっとりとした視線を向けるも止む無し。突然意味不明
な事を喋くりながら店内に押し入った前科があるのだ。あの後ジュースだけ頼んで帰ったけど。

「お願いします。どうしても喜んでもらいたいんです」

 しかしこちらは割と真剣である。後ろに控えていた桃子さんにも向かって頭を下げる。
 するとようやく警戒を軽くしてくれたのか、なのはも桃子さんと一緒に相談に乗ってくれた。

「じゃあ、ケーキは準備しておくわね」
「プレゼントの予算って――」
「五百円玉は金貨」
「あ、あはは……えっと、アクセサリーとかは、興味ありそうですか?」
「あんまり着けてるのは見たことないなぁ」

 とか何とか、いろいろと(主になのはが)意見を出してくれた。さすがは接客業。ブツを探すの
に参考になる。
 と、しばらく喋っているうちに、桃子さんが温かいコーヒーを持って来てくれた。
 頼んでないんだけど。

「私の奢りよ。ずっと喋りっぱなしだから」

 すみません。

「しかし、子供の舌は苦味に弱くて困る。クリームこれですか?」
「……?」

 不思議そうに見るなのはだった。

「しかし、ぴったり『コレ!』というものが無くて悩む」
「編みものも、時間がないですし……うーん」

 席に腰かけて、子供二人して首をひねる。
 すると、横合いから聞いていた桃子さんが口をはさんだ。

「何でもいいんじゃないかしら」
「お母さん? どういうこと?」
「『何がいい』って聞いて、教えてくれなかったんでしょう?」

 こくこくと頷く。
 少しして、はっとする。

「……おお」
「ね?」

 今はもう死んでしまったけれども、子供のころには俺にも両親がいた。
 何か作ってあげたり、勿論なけなしの小遣いで買ってあげたりすると、そういうもの全部を喜んで
くれる人たちだった。それがどんなに粗末でも、どんなにちっぽけなものであっても、笑って受け
取ってくれていた。
 つまりは、そういうことなのだろう。
 大切なのは「何を贈るか」ではないのだ。

「なるほど。殊勝なやつめ」
「でしょう?」
「え? ……え?」

 何やら通じ合った俺と桃子さんを前に、なのはは首をかしげていた。
 このままだと混乱するばかりでかわいそうなので、ちょっとからかってあげることにする。

「よっしゃ。じゃあ俺のチェリーでもくれてやりますか」
「さくらんぼ……が、どうしたんですか?」

 後の魔王様は、今はまだ純粋であるらしかった。良く考えたら小学生だから当たり前か。





「チェリーっていうのは……」
「うちの娘に何を教える気だい?」
「あら、士郎さん」

 そして背後から聞こえてきた声に、俺の視界は絶望に染まった。



(続く)


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