「これだけやって手がかりゼロなんか。ったくもぉ、何処に行ったやら」
「『ポケモン世界で持ち物を持ち換えたらバグった』なんてことでなければいいんですけど」
「シャマルは一昨年それで灰になっとったよな」
「最新のゲーム機であんなことになるなんて……あれはもう死にたかったです……」
機動六課の当直室は、基本的に常に人がいるようになっている。朝の間はなのは、昼から夕方に
かけてはフェイト、夜ははやて。訓練がない時間帯にはそれぞれが詰めているのだ。
大学生活との両立を考えた結果であるが、突然の事件にも24時間対応できるので案外賛同は得
られた。後から知ったことだが、救急などの現場ではさほど珍しくもないらしい。
とはいえ、今はまだ出動が求められる事態は起こりそうもない。ないから、書類仕事を済ませた
らぐだぐだと管を巻く。
はやての他にも様子を見に来るヴォルケンリッターやリイン姉妹、暇を持て余した猫姉妹や仕事
を片付けたグレアムまでもが、夜間も時折足を運びんでいる。その時はたまたまシャマルが、昼間
行った広域探知魔法の結果を報告していた。
「もうこうなったらいろんな次元世界で、片っ端から魔力ブーストしたレミラーマ使うしか」
彼の残した不思議なアイテムは、役に立つものもあれば全く役に立たないものもある。
最近の作品である「帰ってきたいのりの指輪 Mk-2」は前者だ。以前改造したいのりの指輪に加
え、台座に希少な素材を導入することにより、使用者の意図したとおりの魔力ブーストを可能にす
るという逸品だ。
詳しい原理は作った本人にもわからないので、量産がきかないのが欠点である。
「宝扱いですか……反応しなさそうですけど」
「たしかに宝箱に入ってても、インパス唱えると青く光らなさそうやな」
「敵なら赤ですけど、何色に光るんでしょうか」
「どどめ色」
何色だ。
「あーもお! モンスター図鑑に登録しとったら居場所が生息地扱いされて出るのに!」
「そんなまたスイクン探すゴールドさんみたいな……」
口を動かしながら手も動いているのは、この数年で身につけた技術だ。下らない話をしながら、
書類を片付け、ゲームボーイアドバンスを操作……はさすがにしない。勤務中なのでそこは我慢で
ある。
八神家も時代の流れには逆らえず、旧き良きゲーム機にも世代交代の波が押し寄せてきていた。
ゲームボーイはアドバンスへ。64はキューブに。プレステはついにプレステ2になった。驚くべ
き進化と言えよう。
「帰ったら今年の大河ドラマ『赤頭巾 茶々』を録画しとかんと。楽しみにしとったし」
「『NHKがついにふっ切れた!』って嬉しそうにしてたのに……」
「本当、どこに行ったんでしょう」
「大学の進学手続きは済んどったからええけどな。久々に同クラスになったと思ったら……ったく」
「ふふ。はやてちゃん、寂しいですか?」
「シャマル後で埋めたる」
「そんなぁ!」
たらたらと話しながらも、はやては考える。
彼の安否そのものについては、あまり心配していなかった。
いつもどこかをふらふらと冒険していたし、長い休みには何日も家を空けることもあった。「ア
トリエつくる!」と言いだして、夏休みに山にこもっていたのはまだ記憶に新しい。
完成した途端にキャロに「御苦労さまでした。今日からここはルシエのアトリエです」と乗っ取
りを宣言されていたのには笑ったけれども。
「……早く帰ってこんかなぁ」
「ですね」
そのうち帰ってくるとは思う。あれだけ大学生活を楽しみにしていたのだ。しかもなのはと続け
ている試験対決を考えると、少なくとも定期試験までには戻ってきているはずだ。
ただ事情が事情だけに、それではマズいのだ。
「見つけるまでに鍛えに鍛えたイーブイパーティーでべこんぼこんにしたるわ」
「最近負けが溜まってますしね」
「5回勝ち越したら『なのはとひのきの棒・おなべのフタ装備で模擬戦させる』ってゆーとったし」
あの男を見つけなければ。そして、あの予言の真意を確かめなければならない。オリーシュをヴ
ィヴィ太郎に会わせてはならないという、その予言の正体を。
「また魔改造されるってことでしょうけどね」
「可能性大やな。まさかの性転換とかになってたら笑えへんわ」
後のヴィヴィ男さんである。
(続く)
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赤なのか茶なのかはっきりしろNHK、とザフィーラは思った。