一口に訓練といっても種類がいろいろあるらしく、毎日毎日メタル軍団と戦っている訳でもないらしい。
 今日のメニューは人質と証拠品を回収して脱出、みたいなそんな感じの内容だった。

「ええっ!? ど、どうしてここに……」
「どうもこんにちは、心の底から真面目で善良、正義の味方のオリ主です」

 ということでなのはを拝み倒し、人質役のエキストラとして出演させてもらえることになった。ただし何重にも念は押された。
 実際問題として一般人の役はちょうどよかったらしい。廃墟をモデルにした訓練用ステージで、こうして天井からエビフライみたいに縛って吊るしていただいた。たのしい。

「最近の悩みは、この状態を見たキャロが果たしてどう小馬鹿にしてくるかということです」
「ええと……縄、ほどきますね?」
「あぁ、それに引き換えスバルはいい子だなあ。一緒にエビフライしませんか? スバルならきっと似合うと思うんだ」
「エビフライが似合うってどういうことですか……?」
「間違えた。今度一緒にエビフライを食べませんか?」
「た、食べます! ……じゃなくて!」
「やっぱりエビフライが似合うなあ、シバル」
「スバルです!」

 スバルは確かリイン先生と並ぶ健啖家だったような気がするが、どうやら本当らしい。10年くらい前の記憶も馬鹿にならないものだ。
 それにしても新人さん4人のなかで、縛り吊るされてる姿が一番似合いそうなのは気のせいだろうか。

「うう……空港で会った時と、ホントに何一つ変わってない……」
「残念なことに今後も変わる予定はないんだ。世の中にはこういう変な人質もいるということでひとつ」
「どこの世界に救助隊をディナーに誘う人質が居るんですか……」
「地球では救助隊にコーヒーとケーキを要求する、モンスター人質の増加が社会問題なんだ」
「そんなの地球にもいるわけないですよぉ……」

 しょぼくれた子犬みたいな声を上げながら、しゅるしゅると縄をほどくスバル。
 そしてその様子をじぃぃぃぃ、と見ているのがティアナさん。

「この先に鍵が落ちているようなので、回収してから脱出します。オーケイ?」
「おーけいだが、ティアナはひょっとしてまだ俺に何か期待してたりしませんかね」
「……いえ、別に」
「本当にもうリンカーコアとか無いんですけどねえ」
「もう、ということは、昔はあったんですね?」
「いやあ、一時期あって、その前と最近はなくて、総じて言えばあったりなかったり」
「何ですかそれ……」

 すごい訝しそうなティアナさん。何一つ嘘はついていない。
 とかやってる間に縄がほどけ、鍵が落ちているとかいう場所へ。鍵の捜索をするまでもなく、部屋の真ん中に鍵があった。
 でけえ。何あれ超でけえ。人の顔面くらいの鍵とか初めて見た。……あれ、これって。

「なっ、なに、これ……」
「うおおおお! ついに! ついに! とうとう実装されたのか!!」

 壁には5枚ほど、不気味な笑顔をした仮面が飾ってあった。
 シャーリー大先生とコンタクトが取れたので、追尾してくる系の敵と戦う練習に、と強く推薦してみたのがついに功を奏したか!
 やってくれたなシャーリー!

「解説すると、あれはカメーンといって…………いって…………」
「テ……ティア! 動き始めたよ!?」
「落ち着きなさい。一個ずつ落として退路を確保するから、迷わず突っ切って!」

 ティアナが鍵を取ったと思ったら仮面がガタガタと震えはじめ、壁からはがれて飛んできた。こっち来る!
 あれ? これ……画面で見る以上に怖くね?

「…………うわああああああああ!! 来るんじゃねえええええええ!!!!!」
「えっ……あっ!」
「え? ええっ!? どこ行くんですか!?」
「嘘だと言ってよシャアアアアリイイイイイイイイイイ!!」
「ま、待ちなさいよっ! これじゃあ訓練にならな……な、なんであんなに足速いの!?」
「い、いやあああああ!!! おいてかないでよティア――っ!!!」








 後から聞いた話によると、シャーリーからはやはりと言うべきか、訓練前になのはに話が飛んでいたらしい。
 そのうえで「俺の予想できない行動に慣れる」という意味でGOサインを出したとか何とか。要するに俺の考えることは読まれていたらしい。ちくしょう。

「えっと、それで……けーとくん。言いにくいんだけど、キャロとエリオのぶんもあるからもう一回……」
「鬼! 悪魔! なのは!」
「えっ、な、何それ! ちょっとぉ!」

 自分でカメーンなんか勧めなけりゃこうならなかったのが分かっているだけに、俺にできるのは捨て台詞を吐いて縛られに行くことだけだった。言うまでも無いが、二度目もめっちゃ怖かった。あの恐怖は味わった者にしか分からねえ。
 そんなことがあったもんだから、疲れ果てたうえにお腹が減った。仮面かぶったリンクみたいに叫んだうえソニック・ヘッジホッグみたいに走り回ったんだ。当たり前だ。

「エビフライ作るよ!」

 と言う訳で、昼間の約束もあってティアナ・スバルルームにお邪魔することにしました。ティアナが帰って来る前に、お夕飯を御馳走するべくガスコンロを取り出す。

「しまった汁が跳ねっ……ぬわーーっっ!!」
「あわわわっ……あっ、ティア! 油が! 油がぁ!」
「消火――!!」

 調理中、飛び散る油の攻撃を受けて叫ぶ俺。逃げるスバルに、帰って来るなり叫ぶティアナ。
 そして始まるお説教タイム。

「何しに来た! 何をしていた!!」
「エビフライを作りに来たんです。本当にそれだけなんです」
「言うことはそれだけか!!」
「すみませんでした……しかしそれにしても世が世ならエビフライ、されど現世ではユビフライとは頓知が聞いてると思いませんか?」
「やかましい!」

 しこたま怒鳴られた。どうでもいいが普段の俺への丁寧語が抜けているあたり、相当怒っていると言えよう。

「スバル!」
「ひえっ! そそそその、つい、ごちそうしてくれるって言われて、言われてっ」
「スバルが『衣は二回付けないとギン姉が銀河万丈ボイスになって来週も地獄に付き合わされる』って言うから……」
「そ、そんなこと言ってません! ギンガバンジョーって誰ですか!」
「カンパネルラ!」
「それは鉄道です!」
「あれ、地球の童話とか読んでるの?」
「あ、はい。地球の本、はやてさんがけっこう貸してくれたりして……」
「家の本が減ってたのはその所為か」

 と話がそれたところで、ティアナにふたりしてガッ、と頬を片手ずつで掴まれた。

「換気しなさい。テーブルを拭きなさい。火は給湯室で使いなさい」
「わ、わかりまふぃた……」
「むい」

 超こええので従う。

「大変お騒がせしました。お詫びと言っては何ですが、夕食にエビフライはいかがですか? 揚げ直しますから」
「結構です。帰ってください」
「ええー……ティア、一緒に食べようよ。せっかくだし」
「アンタたちのせいで食欲なくしたって言ってんのよ! ……つーか、いつからそんなに親しくなってたのよ……」
「エビフライから始まる恋があってもいいじゃない」
「恋じゃないです……」
「でも地球では芋けんぴから始まる恋があるらしくて……あ、給湯室どっち?」
「あ、突き当って右に」
「だからっ……あっ、ちょっと!」

 結局なんだかんだでティアナも食べてくれました。



(続く)



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