休日を使って新人たちに正式に顔合わせをした後、お茶でもしましょうとキャロが言うからホイホイついて行くことにした。
「お師さん。お師さん。ちょっとそこ動かないでください」
「不穏な呼び方しながら手刀構えんな」
「間違えました。オウガイさんです」
「同一人物だから。その人弟子に殺されちゃう人だから。俺まだ死にたいとか思ってないから! こっち来ないで! 胸を狙わないで!」
でもそのキャロが隙あらば俺を殺そうとするので困る。
「最近のキャロは本当に容赦がなくて困るわ……」
「長年の師弟関係を卒業させていただこうと思っただけです。何だったらるろうに剣心バージョンでもいいですよ。私が真剣を持ちますから、どうぞ木刀を」
「継承の儀にすらなってないじゃない。というか俺と師弟関係にあることについては認めるんだ」
「ハッ」
「鼻で笑いやがった。ていうかさっきから微妙に様子がおかしいのはどういうことなん。機嫌がいいようで、かといって悪いようで」
「……皆の前で『キャロがお世話になってます』だなんて、フェイトさんを差し置いて変なことを言うからです。まったく」
「半分複雑、半分照れていると。なるほどなるほど、授業参観で指名された小学生みたいですね!」
「……そ、そんな事は言っていません。圧倒的曲解、なんという屈辱」
「屈辱と申すか」
「屈辱です。耐えがたい恥辱です。こうなったら転送魔法の応用で、全ての元凶を1050年地下行きにするしかありません。みっちり働いて反省してください。日給は20ペリカ、もちろん不眠不休です。わずかな給金は全て賭博に使い果たし、大月班長もニッコリほほ笑んで」
「うるせえ」
無表情のまま淡々と不穏当な事を言うキャロのほっぺたを引っ張りつつ、左手で菓子をつまむ。
そのうち手を離したら、聞いているんですか。地下で強制労働ですよ。聞いているんですか。聞いているんですか。とぺちぺちぺちぺち叩いてきた。
しかししばらく放置していると、飽きたのか自分もむぐむぐと食べはじめる。飽きっぽいのは俺の影響かもしれないと思った。フェイトはあれで案外凝り性な面があるしなあ。魔法とか。バリアジャケットとか。
「なんかいきなり上がり込んじゃって悪いねエリオ」
「あ、いえ、どうも」
ルームメイトのエリオは何だかぽかんとした様子だ。むかしフェイトに写真見せてもらったしどこかで会ったような気もするのだが、この子はどうやら覚えてないみたい。
そういう俺も記憶はおぼろげだ。当時は確かインディ・ジョーンズ熱が高じてユーノの遺跡探検に付き合ったりしたし、それこそキャロに会ってちょっとした旅をしたのもその時期だったような。
というわけでエリオに会うのも結構楽しみにしてたのだが、まだあんまり打ち解けてない。それもそうかとは思うのだが、仲良くなりたいとも思う。
「結構広いよねこの部屋。案外10人くらい入ってもベッド使えば余裕で耐えるでしょ」
「駄目ですよ。この部屋に10人も入ったら、死者1名重態2名、重軽傷6名の大惨事です」
「残りの1人は?」
「行方不明に」
何が起こった。
「それはどうでもいいのです。というわけで、改めてどうも。学生もしくは普通の冒険家です」
「はあ……よ、よろしくお願いします」
「フェイトからは色々聞いてるよ。昔のこととか」
「えっ……もしかして、生まれとかも……」
「そうそう。というわけで、そんなエリオにお勧めの映画が有るんだ。DVDを探して借りてきた。その名も劇場版ポケットモンスター、ミュウツーの逆襲と言って」
「それもう観ちゃいましたよ。わたしとフェイトさんとエリオくんとで」
目の前がまっくらになった。
「私は2回目でした。フェイトさんが持って来て皆で観賞会したんですけど、もうだいぶ前ですよ?」
「もうなんかどうでもよくなった……息をするのもめんどくさい」
「呂布が伏兵踏んだような顔しないでください。見苦しいです」
「どういう例えだ」
「お、面白かったですよ。よく観るんですか?」
「よく観るどころの話ではない。ポケモン好きに悪い奴はいないって俺信じてるから。今でも普通に泣く。はやてもだけど」
「や、八神隊長も……ですか」
実のところヴォルケンの皆さまも一緒です。
一応言わないでおくことにする。そうしないと後でぶっとばされかねないので。ヴィータあたりに。
「でもまあ、その様子だとまあエリオも泣いたみたいだねえ」
「え? え、ええと、それは……」
「その辺どうでしたかキャロさん」
「もうボロ泣きでしたよ。ぽろぽろと」
「きゃ、キャロ! ……あ、あのっ、キャロも、鼻すすってました! 本当です!」
「……そ、そんなことはありません。ええ、ぜんぜん、全然ちっともないです。あまりデマを流すと、いくらエリオくんでも鉄球の下敷きにしますよ」
「そうですか」
「そうです。まままったく。し、心外極まりないです」
顔を赤くして言うエリオに、顔色はさておき口調でボロが出ているキャロ。結構仲はいいようだ。フェイトが心配していたようだが安心していいだろう。
その話題がきっかけで、いろいろと話が広がった。普段してる訓練のこととか、休日の過ごし方とか夕方や夜の話とか。
フェイトは暇を見つけてちょくちょく顔を見に来ているらしく、またザフィーラやヴィータあたりも結構遊びに来るとのこと。
休日は外に出かけたりもしているようだ。地球にも暇をみつけて遊びに行こう、という話になっているらしい。案外うまくやってるなあと思った。
「まあいいや。そういやフェイトも呼んだんでしょ? ならこのまま待とう。来たらゆっくり問い詰めてやる」
「フェイトさんをいじめないでください」
「ふ、フェイトさんをいじめな……えっ」
「いや当然の権利だから。二人してかぶせんなよ」
「けっこう経ちますし、エリオくんの言いそうなことも最近読めるようになってきたので先読みしました」
「先読みされてたのか……!」
がきんちょ達の横でフェイトの処遇を考えるお昼過ぎだった。
(続く)
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弟子にひどい目に逢わされる師匠って……あとはもう孫悟空と孫悟飯くらいしか……
次はスバルとティアナの話です。