スバルは1番エリオは2番。3時のおやつは文明堂。速攻で潰されたふたりに対してティアナはたまたま反応が良く、混乱しながらも
5秒だけもった。
キャロは天高く投げ飛ばされながらも、召喚したガジェット・ドローンの残骸を足場にすることでリングアウトを防いだ。その後
武器や障害物を次々と召喚して直感を頼りに立ち回り、30秒目前まで耐えることに成功。大健闘である。
「今回は『鎖の鎧』を閃きました。こう、鉄の鎖をリング状にして、体の周囲にランダム旋回させてですね」
「あたしも鉄球で同じことやってるわけだが。っていうかどんどんタイマン向きになってくよなお前」
「攻撃時には近くの敵を半分の鎖で束縛し、残りの半分はひとつひとつに切れて鉄の弾丸になります」
「鬼か」
以上が機動六課における、第1回リイン道場の顛末だった。
「うぎぎ……」
気絶から覚めて、ティアナは悔しそうにうめき声を上げた。隣ではスバルがばたんきゅうと目を回している。
甘く見ていたと言えば、甘く見ていたのかもしれない。
短期間で戦力が向上するという、巷で話題のリイン道場。それ相応の高い難易度は想定も覚悟もしたはずだったが、はっきり言って
斜め上だ。笑えてくるほどのあの速度を目で追うのは、どう考えても悪い冗談にしか聞こえない。
ヴィータが前に「目を慣らしている」と言っていたのを思い出し、その意味がやっと実感を伴って感じられた。キャロがある程度
立ちまわれたのは、その影響が小さくはなさそうだ。でもそんなことは今はとりあえずどうでもいいくやしいくやしいくやしい。
「なのはさんたちは、これを数年間やり通したんですね……」
ようやく復活したエリオがぽつんとこぼす。
そうだ、と見回してみると、なのはの姿がない。代わりに近くにいたヴィータの目にとまる。
「なのはなら道場中だぞ。お前ら目を覚まさないから……5分は耐えてるな」
「……し、射撃魔法だけで何とかなるんですか……?」
「案外な。あいつ砲撃使いだったのに、いつのまにかシューターの使い方が鬼になってるから」
これからもなのはについていこう、とティアナは強く思った。
「やっぱり、無茶だったのかなぁ」
夕方になって、なのはは自室でそんなふうにはやてに言う。
大学の午後の授業も終わり、他に受け持っている仕事も、翠屋の手伝いも一段落。午前中の授業ノートも写し終わっていた。
夕食も済ませて、あとはゆっくり寝るだけだ。
はやては夜勤が待っているけれども、昼から夕方にかけてぐっすりやすんで今は元気いっぱいだ。夜は自分でもヴィータたちを
相手に自主訓練しつつ、出番を待ちながら「絶対に笑ってはいけない管理局部隊舎」の計画を練っているらしい。それもキーパーソンが
不在のおかげで、あまり進んでいないようだが。
「映像見たけど、初めてならあんなもんやろ……私らのリイン道場1回目って、どんな感じやったっけ?」
「普通に吹っ飛ばされて終わりだったんじゃないかな。そういえば私たちも、最初は3人がかりだったよね」
「ああ、そうそう。その後しばらくして、フェイトちゃんが一番苦戦しはじめたのは意外やったな」
「うん。リインさんとは、基本的に同じ系統だから……そう考えると、一番大変なのはスバルとエリオかも」
射撃の通じないティアナが苦戦するかと皆思うのだが、現実はそうではない。
なのは自身リインフォースと戦って戦術を身に付けたが、案外射撃はイケるのだ。魔法はほとんど効かないとはいえ、
物理衝撃があれば足は止まる。さらに弾丸に付随する光や熱、音などを駆使したりとやり方はいろいろあるのだ。攻めの手としては、
視認不可の超遠距離からシューターで続けざまに狙撃したり、リインフォースの速度でも回避困難な量のシューターで足止めしたり、
無数のシューターを展開しておいて近接されたら迎撃させたり。とか。
「……なんか、シューターばっかり鍛えられた気がする」
「砲撃を使う機会なんてほとんどあらへんしなぁ」
実際、運よく足が止まった時以外に、リインを相手にのんびり魔力をチャージしている暇などないのだ。
そのため、砲撃は砲撃で別に鍛えざるを得なかったが、誘導弾等の小技のレパートリーは10年前とは比べ物にならないほど
増やしたと自信を持って言える。サムスが溜め撃ちだけでフォックスを相手にするのは無理があるのだ。現実の戦闘以外から得た
教訓だ。
ただそういうことばっかりやってきたおかげで、接近戦は今も苦手意識がぬぐえないままだ。距離を詰められたら離れる癖が
ついてしまったような気がするのは、現在の一番の課題であろう。新人たちと一緒に、自分のそういった部分も成長できたらと
なのはは思っている。
いまだに腕力はあんまりつかないし、とある幼馴染にひょいと小脇に抱えられては「お前ちゃんと食ってるのか」と言われたりするのだ。
いつか逆に小脇に抱え返してやる。
「ま。おじさんもゆーとったけど、『リインと戦うと心が鍛えられる』らしいし」
「グレアムさんが?」
「ん。ぶっ飛ばされてもぶっ飛ばされてもへこたれない、っていうのが大切なんやて」
なのははレベルアップの機会程度に捉えていたが、なるほどそう言われるとそうかも知れない。へこたれない最たる例、
キャロを見ていればなんとなくわかる。
よく鉄球ごとサッカーボールのように蹴っ飛ばされ、時にはバスケットボールのようにドリブルされたこともあると聞く。
とあるギャラリーからの「排球拳いくわよー!」の声にリインが反応し、華麗に3連続でぶっ飛ばされたりもしたとか。
それなのに次の週には、何事もなかったようにまたリインに挑んでいったのだ。
なのはも根性には自信があったが、あそこまでけろりとしていられるかと言われると疑問である。なるほど特に前衛には、
ああいう図太さが必要かもしれなかった。
「やっぱり、勉強になるなー……ところで、はやてちゃん」
「んー?」
「私の携帯電話のメール音、また勝手に『日本ブレイク工業』にしたでしょ」
「うん」
「も、もう! 皆の前で立ってるときにすずかちゃんからメール来て、誤魔化すの大変だったんだから!」
「『おジャ魔女カーニバル!』の方がよかったか」
「そういう問題じゃないよ……あとなんか懐かしいんだけど」
「3人そろってマジカルステージ! とかやりたかったけど、今さらやしなぁ」
「私たちでやると単なるミナデインになるんじゃないかな……」
ふとしたきっかけから、魔法少女談義に花が咲く。
かと思うと不意に顔を見合せて、ふう。はあ。と息をはいた。
「……アレと同じレベルでボケ続けとるのは、やっぱし疲れる」
「やらなくていいのに」
時間が合わないフェイトは仕方ないにしても。やっぱり1人分足りないような気がする。あの人はどこに行ったのだろうか。
何処にいようと、案外楽しくやっているのだろうけれど。
今が楽しいなら昔のことは割と何でもいいのだと、素性と昔話を聞いたときに言っていたのを思い出す。
それは確かに、そうかも知れない。今までその言葉を体現してきたわけだし。どうも不思議なことに、厄介事に巻き込まれたり
しないような気は確かにしなくもなかった。
でも、思い出は欲しいのだ。
「まぁ、早く見つけんと。熱い塊が降り注いで、聖人が消えたり損なわれたりするらしいし」
「履修登録期間が狙いどきだよね」
一緒にキャンパスを歩く日を、こっそり楽しみにしていたりするのだ。
無事に連れ戻して、いっぱいいっぱい連れ回してあげよう。そして遅刻の釈明をさせ、たくさんお説教をするのだ。
その後ティアナに何故か一挙一動をまじまじと凝視されたり、キャロに新装備のテストを頼まれたり、スバルとエリオに
手合わせ願われたりしながら、大学と機動六課での時間は流れていく。
数日訓練を続け、頃合いを見てリイン道場。ぐっすり休んで、また訓練。おおよそそんな繰り返しだ。午後は午後で別の仕事に
大学にとなかなか忙しかった。
そうしているうちに。新人たちのデビューの時が、一歩一歩と近づいてくる。
(続く)
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オリーシュいないと安定しすぎて何なのこの気持ち…
あとなのはの視点が難しすぎて笑った