「はぁ……おなか、すいたよぅ……」
「きゅる……」
険しい山道を連れだって歩く、一人の少女と一匹の竜。
名前はキャロとフリードリヒ。高すぎる能力ゆえに故郷から恐れられ、まだ子供の身で追い出さ
れてしまったのである。
というわけで非常にお腹が空いていた。手持ちの食料は尽きているし、路銀はあれど店がない。
「朝ごはん、少し取っておけば……ごめんね、フリード」
そのように考えるのだが、朝三暮四という言葉を知らない年頃である。
「きゃっ」
しまいには小石に蹴つまづいて、どてっと転んでしまう始末。
「……はぁ……」
うつ伏せになりながら、自分はこのまま死んじゃうのかなぁ、などと考えたのである。
その人に出会ったのはそんな、非常に辛い旅の途中であった。
「おお、恐竜だ。ちっこい恐竜がいる。トリケラトプスっぽい角もある! 将来が楽しみだなあ」
「きゅる?」
「ふえ?」
二人旅のはずが、唐突に声をかけられて驚く。がばっと顔をあげると、そこには若い男が立って
いた。しゅたっと手をあげて挨拶してくる。
「おーす! みらいのチャンピオン!」
「ちゃ、チャンピオン……?」
「ん? むしろ、モンスターマスターと言った方がいいかも。俺がモンスターじいさん役か」
一人納得する男であった。全然話が飲み込めない。
「とりあえず、こんにちは」
「……こっ、こんにちは」
「なんだか辛そうだ。疲れてるようにも見える。お約束くるかな? お腹の虫が鳴いたりとか」
「きゅるる」
「文字の上では同じだが、今のはこいつの鳴き声でした」
キャロの腹の虫ではなく、フリードリヒがいいタイミングで鳴いただけである。
「冗談はともかく。お腹すい……」
「え? い、いえ、そんなっ」
「たなぁ。ご飯でも食べよう。あれどうしたの。ぶんぶん手なんか振って」
ニヤニヤしながら男が言うので、からかわれたと悟るキャロ。真っ赤になってしょげる。
「まあ遊びはさておき。あんパンどうぞ」
「あ……! その、い……いいんですか?」
「中の餡だけ」
「健康に良くないですっ!」
「むかし餡だけ抜いて、お好みソース詰め込んだことあるなぁ。あの時のヴィータは怖かった」
と言いつつも男は、持っていたふくろからパンを出した。包みを開けてひとつをキャロへ、ひと
つをフリードへ。
地べたに座り込み、両手で持ってぱくつくキャロ。
ちょっとこみあげた。
旅が始まってからは人に会うのもはじめてだったし、渡されたパンも、空きっ腹には天国の食べ
物みたいな味だったから。
「いやー、よかったよかった。な!」
「はっ……はい! その、ありがとうございますっ!」
「きゅる!」
「いや、こっちも困ってた! さっきから変な恐竜に懐かれて追いかけられてさ。あの巨体でじゃ
れつかれたら軽く死ねるけど、こっちにも恐竜がいれば怖くないさな!」
「……え?」
さぁっ、とキャロの顔から血の気が引く。そして図ったかのようなタイミングで、その頭上に陽
光を遮る巨体が!
「おお、見つかったかね。しかも群れで来たか。20はいるなぁ」
「わっ、わわわっ! にっ、逃げ、逃げましょうっ!」
「あ! やせいのきょうりゅうが とびだしてきた! いけっ! フリード!」
「行っちゃダメ! ていうかどうして名前知ってるんですかっ!?」
「原作知識って便利だよね」
「意味不明ですっ!」
急ぎパンだけ引っ付かみ、走り出す。ティラノサウルスみたいなでっかい恐竜の群れが、嬉しそ
うに追いかけてじゃれつこうとしてきた。フリードリヒで対抗しようにも、圧倒的に多勢に無勢で
あった。
「きゃぁあああっ!!」
「きゅるるぅぅ!!」
「すげー、恐竜すげー! あれ仲間になるかなぁ。玉乗り仕込みたいね」
「そんな暇ないです!」
必死に逃げ回るヘンテコパーティーだった。