「つまみ食いこそ弁当の華」

 中学高校ではよく早弁したものである。昼休み前は妙に美味かったのは何故だろう。
 という訳でピクニックの場所はビニールシートを敷いて確保して、早々と弁当の試食会を開催。
持ってきたのははぐりんトリオ用の手作り菓子とかだが、今回はどういう訳かぬこ2匹が混ざって
いたりして。

「前回のこともあったし多目に持ってきたけど、奏功したかな。まずはおやつのプリン食いねぇ」

 容器に顔まで突っ込んで食い散らかす姉妹、はぐりんたち以上の食いっぷりである。顔をあげる
とプリンまみれになっていたが、表情はこの上なく幸せそうだ。
 ここ一週間ほどの姉妹の食生活からすれば無理もない。
 その日を動けるだけのエネルギーを摂取するのに精一杯だったのだ。二日前に補給できはしたが、
昨日は結局食にありつけなかった。
 我慢も限界である。加えて出てきたのは夢に見たお菓子、しかもどうやら自作らしく滅茶苦茶う
まい。もう頭など回らない。まともに回るわけがない。

「うまい?」
「うん、うんっ!」
「おいしっ、おいしいっ」
「おお、喋った。ホンヤクコンニャク……じゃないよなぁ」

 だから今度こそバレたりもする。

「とりあえず、昨日ヴィータに頼まれてトニオ料理真似したんだが。子羊背肉のリンゴソース」
「ひつじ……お、おにく!?」
「ん。腸は飛び出ないけど、ソースが巧くいったので。盛り付けるから、皆おすわり」

 はぐれメタル3匹とぬこ2匹が整列してる様はなかなかシュールでした。
 で、食べさせる暫し。

「お話しようよ☆」

 結構な量を食べさせてから、どういう訳か喋ってたぬこ2匹を問い詰める。
 知らんぷりしてるけどあからさまに挙動不審である。尻尾が不安そうにふらふら揺れてるし。
 ちなみにはぐりんたちはぬこたちに遅れて、まだ今最後の一皿を食べてるところだったりする。
 それだけのハイペースで食い散らかしていったぬこたちである。しかしその間、新しい料理を出
すごとにしゃべりやがるのでもうネタは上がっている。レコーダーに記録も取ったし。

「事情を話せとは言わないが、口くらいは利いてもらいたい。さもないと、小魚はおあずけ」
「そっ、そんなぁっ……」
「ほら喋った。今明らかに喋ったでしょ。こら鳴いて誤魔化すんじゃない。にゃーじゃない」

 暫くぬこたちと押し問答してました。





「こ、このことは……内密にお願いします……」
「おk。秘密にはしておく」

 奮闘の結果、ぬこたちの口を開かせることに成功。ご褒美の焼き鮭が効いたらしい。
 どういうわけか食べ物にありつけず、お腹がすいて散々な目にあっていたと聞いた。俺が餌やら
なかったら今頃大変なことになってたらしい。今までありがとう、だって。
 深い事情までは無理? えっとそれはそのえっと。ああ、話したくないならまぁいいや。お腹減
ったら遠慮なく食べに来なね。
 という感じで質問も終わり、この頃になるとこっちのお腹も減ってくる。
 そういや食べさせてばっかで何も食べてなかった。なのでこちらも試食もとい、ハイパーつまみ
食いタイム。肉うめぇ。

「うまうま。これはヴィータが喜びそうだ。来るまであと30分、まだかかるかね」
「あ……」
「ん? 食い足りないとな。結構作ってるから大丈夫だけど、もっと食べる?」
「あっ、えと、そういうことじゃ」

 今までの極限飢餓状態を解消するように食いまくり、さすがの姉妹ももうお腹いっぱいだったら
しい。確かにめっちゃおいしい肉だけど、ボリュームあるし食べるの大変かもしれない。

「ここへはどうやって? やっぱ魔法?」

 少々戸惑っている様子だったが、こうなった以上隠しても意味はないと悟ったのかも知れない。
複雑そうに顔を見合わせた後、二人そろってこくんと頷いた。

「そっかー……いいなー、魔法いいなー。やっぱ便利だよなー、俺やっぱコアないの?」

 こくこくと頷かれた。
 分かってはいたけどやっぱキツい、だって猫でも魔法使えるのに。猫と俺の間には越えられない
壁があるというのか。ていうか俺もしかして猫以下か。

「あ、そうだ。名前とかは?」
「あの、それも……」
「あー、そうかー、駄目かー。いいや、宴会まで時間あるし、はぐりんたちと模擬戦どう?」

 一度やってみたかったモンスターバトル! ハイパー魔法大戦でアニメなんて目じゃないっぜ!
 と楽しみにしたのだが、ぶんぶんぶんと首を横に振られた。魔法無効かつ大魔法持ちに挑むのは
さすがにイヤということらしい。やっぱ魔導師の天敵なのか。

「はぐメタを連れて管理局に潜入、圧倒的な攻撃力・防御力で制圧。まさに反逆のオリーシュ」
「本体叩けば終わりあぐあぐあぐ」

 両手でクッキー持ってる片方のぬこに突っ込まれてやるせなし。というか食いながらしゃべんな。

「じゃあ、ちょっと買い出し行ってくるけど。来る?」
「あ……はいっ」
「ん、ならシートはこのままで。まわりに聖水かけときゃモンスターも来ないし」

 そんな感じで近くの町へ買い出しに出るのでした。食い物屋でちょっと買いたかったけど、お店
今日は開いてたかなあ。







 どうしよう。
 姉妹は考える。
 先ほどまで腹ペコとご飯の興奮で頭が回っていなかったが、今になってようやくまともな思考が
できるようになってきた。結局正体ばれちゃったけど秘密にしてくれるらしいし結果オーライである。
 ついさっき、美味しい料理を食べながら聞いた話によると、もうすぐ騎士どもがこっちに来るら
しい。あと30分、と具体的に情報も得られた。
 繰り返すがあの騎士たちに平穏を許す気はないし、目的のために手段を選ぶ気もない。必要なら
八神はやてを人質にとり、闇の書の蒐集を強要するくらいのことはしてやってもいい。
 しかしそうなると、この少年にもなかなか会えなくなる。次にいつご飯をもらえるかも分からな
くなるし、こっちはこっちで蒐集を早めるべくいろいろ手を打たねばならない。。そうなったら餓
死一直線間違いなしである。それだけはどうしても嫌だ。
 ……それだけは困る。
 「騎士どもに蒐集をさせる」「ごはんを貰う」――両方やらなくっちゃいけないのである。どっ
ちが欠けても願いは果たせぬ。
 何かうまい手はないだろうか、両方成立させるうまい手が。
 そう考えて……やがて姉妹は、結論したのである。





 遅れてやってきた八神家の面々。
 ピクニックを楽しみに集合場所に行ってみると、残っていたのはいくつかの料理の箱と、そして
紙切れ一枚であった。周囲に人の気配はどこにもなく、食事用に広げられたシートが風にこすれる
ばかりである。
 少年は何処に消えた。今度はプリンでもぶちまけるつもりなのか。
 と、最初は楽観視していた守護騎士たちであるが、次第に様子がおかしいことに気付く。料理の
箱が全て空になっていたのだ。皆が楽しみにしていた肉や魚やデザートが、どういう訳かどれもこ
れも空になっていたのである。こんなはずはない、だってシートの周囲には聖水がふりまかれてい
てモンスターは近づけない。
 蒼白になったところでヴィータは初めて、残された紙を手に取った。表面には何の書き込みもな
く、裏にはわずか五文字が並んでいる紙であった。
 紙には、次のように書かれていた。







 犯人は なの







「いきなり襲われる覚えはないんだけどっ、どうしてこんなことするのっ!」
「あたしのプリン食ったのはお前かああああああああああああッ!」
「話してくれないと……え?」
「絶ッッッッッ対に許さねえ! 闇の書のエサにしてやるぅぅぅうっ!」
「ええええっ!? ななな何それっ!?」

 その晩、マジ泣きのヴィータが高町なのはへの突撃を敢行し、後のリリカルなのはA’sの幕が
切って落とされたのだった。



(続く)

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導入編・完。
流れは導入編開始時から決まってたんですがね。にしても疲れた。

A’s編もやるよー

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