何かシナリオに関係する大事な事件があったような気もするけど、そんなことは無かったぜ!
ということにはなったけど、闇の書に何らかの変化があったことは確からしい。ので、守護騎士
みんなで念入りにチェックすることになった。しかし一向に結果が出てこないようだ。
「いやー、それにしてもあれやな。全ページ真っ白だから、何もわかりようがあらへんっていう」
「ええ。蒐集すれば、以前との違いも分かるかも知ませんが……その気はありませんし」
「あ。外した」
「やった! 勝った! 6対6で初めて勝った!」
「ふぶきのミスが響きましたね……だったら、私もっ」
横でGBとかいじってるから、もう結構諦めムードなのは察してもらえると思う。
ちなみに初めてヴィータが俺に勝った(もちろんポケモン的な意味で)のを見て、ならばと挑み
かかってきたのはシャマル先生。
ケンタロスとフリーザーで美味しくいただきました。ラッキー使ってる人久しぶりに見たなあ。
「俺の懸念は何だったんだろ。なんかすごいシリアスな異常事態だった気がするんですが」
「この八神家に緊急事態とは、何とも想像しがたい光景だな」
湯呑みにお茶を注ぎながらシグナムが言うあたり、たぶん誰が見てもそう思う気がする。
「実際、どんなんだろ。その緊急事態って」
「なのはさんのリミットブレイクで海鳴滅亡とかどうやろ」
「八神家のピンチどころか街が消し飛んでしまう件」
「というより、本当に覚えていないのか? 事前に分かればいくらでも対策できるだろうに」
GBの画面を横目に見ながらザッフィーが言うも、どうにも思い出せないので首を横に振るしか
ない。ついでに言うと「こいつ使えねー」的な視線を向けられて不快。そういうのは万能オリ主の
役目だって。
「結局、何も分からんね」
「仕方ないか……主。悪いことではありませんし、このまま様子を見ましょう」
「せやな。確かに、シャマルの味覚改善は大きいしなー」
「というかどこにもデメリットないよね。今のところ」
「いや。シャマルルーレットが効くようになったのは、シャマル自身にとってマイナスだろう」
「……シャマル先生、どう? 八神家恒例行事に初参加してみない?」
「え、遠慮しておきます……」
残念です。
という感じになっていて、ぶっちゃけ調査とかいいんじゃね? 結果出ないし。という雰囲気。
まあ確かに、変化という変化はシャマル先生の味覚が直ったくらいで、それ以外には特に何もな
いのだ。別にこのまま無視して日常生活エンジョイすればよくね。てな感じ。
「あ、はやて。足の定期健診どうだった?」
「ん? ああ、そうそう! 何やわからんけど、上々やて。ええ具合らしいんよ」
「おお。完治が見えてきた」
「えっ! はやて、歩けるようになるのか!?」
「それは気が早すぎよ。でも、希望が見えてきたーっていう話にはなってきとるなぁ」
「じゃあ、じゃあ! 歩けるようになったら海行こう、海!」
「……聞いとらんし」
でも、はやてもまんざらではないらしい。楽しそうにニコニコしているのを見ると、足と一緒に
機嫌も上々のようであった。
と、そこに電子レンジから出来上がりの音。休日ということで、ミニクッキー作ってたんだ。プ
レーンとチョコチップのおいしいやつ。
「じゃあ、次のも焼いてくるからなー。シャマル、手伝って」
「はい。では、お先にどうぞ」
で、早速ヴィータが一口。それを横目に、話を続ける。
「何か話が上手い方へ上手い方へと行ってる気がする。こういう時は揺り返しが怖い」
「病気が治るなら、それに越したことはあるまい。気にし過ぎではないか?」
「歩けるようになるまで、大変なイベントの連続な気がするんだが。まぁいいけど。俺も食べよ」
「おお、そうだな。私もいただ……ヴィータ?」
話を切り上げ、顔を向ける。
そこにはクッキーの半かけを口にしたまま、硬直してしまったヴィータの姿が。
「ペロッ。これは……」
その食べかけを取って、少しなめてみると。
「クッキー……クッ……キー……?」
あれ。
これって。
はやて製のはずなんだけど。
で、夜。
「……こういう形で非常事態が発生するとは思わなかった……」
はやて抜き(もう寝た。一緒に寝てるヴィータはこっそり出てきた)の八神家緊急家族会議開催。
議題は勿論、はやて製クッキーのあのお味について。ちなみに夕飯は嫌な予感がムンムンしてた
ので、シャマル先生に
「私はもう! 誰にも不味いって言わせたくないから! だから……料理したいんです!」
ってお願いさせたので事なきを得た。
はやては「少し……お肉焼こうか……」って言って下がってくれたのでよかった。ちなみに今回
はアタリじゃなかったのでよかったよかった。
「……あー、塩入れてる」
「黒ゴマのつもりだと思うが……あれは黒コショウか。ヴィータが耐えられないわけだ」
「あの、キッチンの映像がどうしてここに……うぅ、はい、すみませんです……」
疑問を呈したシャマル先生だったが、「お前を監視するためだ」と言わんばかりの視線で射抜か
れて、小さくなって沈黙した。今回は別の形で役に立ってるけど。
「さて。ということで、はやての身に重大な問題が発生したわけですが」
「お前の懸念がこんなところで当たってしまうとは」
「……当たんない方がよかった」
「それだけは同感。これから三食どうすんだよ……」
はぁ、と憂鬱な溜め息を吐きつつ、議論する。どうしてこうなったのかな。シャマル病が伝染し
たのかなかな。
「あれ。でも映像見てると、味見してるよね」
「何?」
「ほら。これ」
中空に浮かぶウインドウの中には、クッキーの生地を少し取って舐めるはやての姿が。
うんうん頷いてるし。これならオッケーって感じだし。それで焼いたらそりゃこうなるわな。要
するにつまりこれって、
「以前のシャマルと同じだよな。味見はするが、味覚そのものがフリーダムなので逆効果」
「ああ……もしや、シャマル症候群が伝染したのか」
「シャマル症候群。原因、シャマル菌。味覚神経に影響する。すべての味覚のバランスを崩壊させる」
「うわ寄るな来んなシャマル菌がうつる」
「小学校行ってるとリアルにある。バリア張った。はいバリア張ったー」
シャマル先生がかなり凹んでしまったので、これ以上いじるのはやめておく。
「運動神経が小康状態になった代わりに、味覚が犠牲に……あり得るのか?」
「……シャマルの味覚が直ったと思ったら、今度は主はやてがこんなことになるとは」
「どうかね。闇の書の変化と今回の一件と。偶然の時期の一致かね」
「時期だけでは判断がつかんが、変化の対象が二人とも味覚だ。偶然とは思えない」
「闇の書のささやかな復讐だったりして。みんな美味しいもの食べやがって的な」
「そんなわけ……ない、のか?」
という話になった時、ふと頭の中をよぎるものがあった。
「ああ、それでか」
「何かわかったのか?」
「いや。ヴォルケンってアニメだと蒐集してたんだけど、きっかけ何だったかと思って。これかも」
「……蒐集すれば治るものなのか? 本当に闇の書の所為なのか……?」
「いや、何とも。でも蒐集してたのは確かなので、とりあえずのご報告」
「こんな理由で約束を破って蒐集するとは……」
ザフィーラの嘆きの声がひどく物悲しかった。しかし「こんな理由」って言うけれど、ヴォルケ
ンと俺にとっては死活問題である。
朝食はシリアル、昼食はオリーシュチャーハンでしのげるかもしれないが、夕食だけはどうにも
ならん。シャマル先生や俺が代役をやろうにも、はやての役割として固定されちまってるので焼け
石に水だ。食わなきゃいい話と思うかもしれないが、たぶんはやてが泣くので無理だし。
「するの? 蒐集」
「とりあえず、石田先生に相談だ。原因が不明なら――可能性はそれだけだ。やるしかない」
「そこに、希望があるなら……」
実際には希望ではなく、待っているのは美味い飯。ただそれだけだが、どんなにありがたいか。
「蒐集するなら、ミジンコとかから取ってくればよくね?」
「蒐集の対象はコアだから、そういう訳にはいかねーんだよ……努力値とか溜まりそうだけどな」
「やるなら、できれば人間は駄目。後で管理局怖いから! あれ。でも原作だと何とかなった気が」
「今回も何とかなるとは限らん。切羽詰まっているわけでもない。とりあえずは明日だな」
「じゃあシャマル菌を落とすため、風呂に入ろう。俺入ってないから、行ってくる」
「おー。ってか思ったけど、シャマルから注射器でワクチン取れたりしねーか?」
「それだ」
「それしかない」
「それがいい。シャマル先生、取っていい?」
「取れませんッ!」
涙目になるシャマル先生だった。