死ぬ前の世界がそろそろ正月だったとはやてに言ってみたところ、翌日の朝食でなんと丁寧なこ
とに、お餅を買って焼いてくれた。ゆっくり味わっていただくことにする。
「うまうま。よくあったね」
「たまたま置いてたんよ。あ、醤油もええけど。きな粉もあったから買ーてきたんやった」
「食わざるを得ない」
「そこの戸棚に入っとるよー」
まぶして食す。うめえ。お餅マジうめえ。
「……すっげー食いにくい」
「えっと……ヴィータちゃん、醤油をつけるなら海苔を巻くか、お箸で持たないと……」
でもってナイフとフォークで食べようとしてるヴィータは、凄いのか凄くないのかよくわからない。
「長生きなのにお餅が未体験だったとは意外な」
「食う暇もなく蒐集しとったみたいやし、仕方あらへんよ……」
「鼻の頭にきな粉つけてシリアスぶるのは止そうか」
「……し、シャマル、お茶淹れてこよか!」
「逃げんな」
顔を赤らめてはやてが逃げる。
それを横目に見ながらきな粉餅を一口。甘さがいい感じ。
「もふぁ、もま」
「なかなか飲み込めないのは分かるが、そのまま喋るのは如何なものかと思うぞ」
「……ふるへー」
ザッフィーに突っ込まれたヴィータ、ごくんと一呑み。この調子で喉に詰めたりしないといいん
だが。
「で、何?」
「あぁ。これ、ここの正月の食いもんだって聞いたけど。ほんとか?」
「ん。割と一般的だけど」
「だったら、お前の世界の正月と何の関係があんだ?」
「うちの故郷、こっちと結構似てんの。正月も学校も夏休みもあるし。日本もあったし」
魔法はないけど。
「そこまで似ている次元世界というのも珍しいな……帰りたくはないのか?」
「めんどい」
「めんどいってお前」
「や、ホントにめんどい。無理って言われたし……はっ!」
「どうした。何かあったか」
「しまった! ここで自分の不幸自慢しとけば、オリ主らしくフラグとか立ったのかも!」
「不幸自慢(笑)」
ヴィータごときに一笑に付されて、どうすれば立ち直れるのかわからない。
「ちょっと待て。ごときって何だごときって。オイ」
「ヴィータごとき。つまり、ヴィータのレベルの低さを暗示。根拠は昨日のポケモン対戦とか」
「あっ、あれはその……な、納得いかねぇ! 何で同レベであんなにステータス違うんだっ!」
「ポケモンには努力値っていう、隠れステータスがあってやな」
何ネタバレしてますかはやてさん。
「無数のコラッタとニドランの屍に合掌。ていうかなんで絶滅しないか不思議だ」
「ドラクエのはぐれメタルとかもなー。狩っても狩ってもまだ出てくるし」
「なっ、なあ! その、努力値って何だ!」
「し、調べてみますっ! ヴィータちゃん、パソコンつけといて!」
俄に慌ただしくなる八神家である。これで原因が魔導師の襲撃だったりすればバトルアニメっぽ
いのだけれども、実際は単なるゲームの攻略法っていうのはどうなのだろう。
「うん? そういえば、シグナムやザフィーラはあんまりゲームせんなー。何で?」
「え? あ、はい。コントローラの操作が、どうも慣れなくて」
「私は、体がこれなものですから」
確かに、携帯とかコントローラとか操作できる犬はCMの中だけでいいと思う。
「人化すればいいじゃない」
「それはそうだが……」
「なら、今からやろ! 今日は何処にも出ーへんし、丁度四人そろっとるし!」
「ソフト何にする?」
「簡単なの! 選んどいて!」
とか言って、半ば強引にシグナムとザッフィーを誘うはやてだった。でもまぁいいか、嫌がって
なさそうだし。ってか微妙に嬉しそうだし。
「ザッフィーは何故三連赤コウラばかり引くのか」
「盾の守護獣だからな」
「あ、主……スタートダッシュ直後に左にジャンプしたら、こんなところに出たのですが」
「シグナム、それミスちゃう。ショートカットや」
運が強すぎる。
予想GUYです。