正月三賀日も今日でおしまい。つまり1月3日。とりあえずともかくやることがないので、今日
も今日とてこたつに寝そべって本をめくる。一度死ぬ前に読めなかった小説とか。はやてが食べた
いと言っていた料理の本のレシピとか。
"What is it?"
すると、隣に寝そべっていたヴィータが何やら口に出しはじめた。
はやてが持ってた、超簡単な英語の教科書である。小学校で英語をやるとかやらないとかいう話
をテレビでやっていたので、自分でも本屋で買ってみたと言うのだ。後でヴィータに聞いてみたと
ころ、地球の英語ってどんなんだろうと思って開いてみたのだとか。
"Is it a pen?"
横を見てみると、ヴィータが消しゴムを持ってこちらを見ていた。ここはオリーシュの言語力が
問われている予感!
"No, it is not a pen."
"Oh. So, what is it?"
"It is Tom."
「そんな馬鹿な」
あまりのオリーシュの言語力に、日本語が恋しくなったヴィータは帰国を余儀なくされたらしい。
「……そ、それは、ト、トム……トム……!」
じわじわきたらしく、寝たまま顔を伏せ、ひとしきり肩を震わせるヴィータだった。
「教科書通りに答えてみたんですが」
「それよりあたしの質問に答えろよ……」
「普通にイレイサー言ってもつまんないでしょう」
「それはそうだけど……そうだけど……っ」
どくどくみたいに後から強くなるらしい。少し待つ。
「……おろ? ところで、ヴィータは学校行かないのか」
そんな折、ふと気がついたので聞いてみた。
確か原作だと、行ってなかったような気がしたのだ。管理局から命ぜられた社会奉仕とかで忙し
かった、というような理由なんじゃないかなと思うけど、今回はそいつがそこまでキツくない。
「ん? ……んー」
「ああ。まぁ、今さら苦痛かね。算数の演算とか」
「そーだな。確かに、頭の中で計算しちまうし」
「オリーシュ仮面とか」
「苦痛すぎるぞ」
ヴィータはまだ仮面をつけるのに抵抗があるようだ。ゼロの騎士団とかやってみたいのに。
「だいいち、戸籍がないからな。どうにもならねーって」
「残念。給食で牛乳口に含むから、毎日楽しいことになると思ってたのに」
「別にいいけど、お前やったら全部拭けよ」
「わかった。じゃあ全部拭くから全部噴け」
「誰がうまいこと」
それに200mlも噴けるかよ、と言われるともっともな感が否めなかった。
「牛乳拭いた後の雑巾ってどうしてあそこまで臭いんだろう」
「……そこまで臭いのか? よく話には聞くけど」
「発酵してるんじゃね。床の汚れに雑菌混ざってて」
「ヨーグルト?」
「いいえ、ケフィアです」
ぱらぱら本をめくりながらぐだぐだ話した。
でもってそのうち、近くにリインがやってきて、何か手頃な読むものをと俺に頼んでくる。
「地図帳」
「全然手頃じゃないだろ」
「そんなことない。眺めてるだけで時間が経つのを忘れること間違いなし」
頑張って主張してみたのだが、結局はやてが図書館で借りてきた推理小説に落ち着いた。地図帳
がダメならタウンページを主張しようと思ってたのにと言うと、ヴィータはあきれたようにため息
を吐いた。
「じゃあポケモン図鑑で」
「まず紙媒体じゃないだろ」
とか言っていると、いつの間にか隣にヴィータがいない。どこに行ったかと見上げると、こたつ
の向かいでリインの膝の間にすっぽり収まってた。二人して本読んでた。
「仲がよろしいようで」
「あ……う、うるさい。ただ座りやすかっただけだって」
ヴィータは照れ隠しにさっきの消しゴムを投げてきた。ぱしんとキャッチして、ペン立てに突っ
込む。リインはそこまであからさまに反応しなかったが、やや挙動が遅くなったような。照れてい
るのは照れているのか。
「照れんなよ」
「照れてねーよ!」
照れる照れないで押し問答する。
「あー。ヴィータが照れとるー!」
「てっ、照れてない!」
はやてがやってきてクスクス笑った。必死に否定するヴィータだった。
「ヴィータが照れていると聞いて」
「ヴィータちゃん、どうし……あ。こうして見ると、まるで親子みたいです」
「どれ……なるほど。本当だ」
聞きつけてやってきて、口々に言う騎士たちだった。照れ隠しに言い返す間も与えられず、ヴィ
ータはあうあう言ってうろたえるばかりだった。
「ぜんぶぜんぶぜんぶお前が悪い!」
「否定はしない」
ヴィータの気が済むまでプリンを作らされた。
(続く)
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「それはペンですか?」
「いいえ、それはトムです。」
「照れてる」って言われるとつい否定したくなるヴィータでした。
1回まるまるヴィータにあげてみましたが、できたら八神家の各人についてもやってみようと思います。