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  「ね、ね、ティア。この部隊の、『最終兵器』の噂、知ってる?」

 本日午前分の訓練を終えて、腐れ縁の相方と一緒に昼食の注文を済ませて待っていると、この相
棒はキラキラしたいつもの目を向けてきて、出し抜けにそんなことを切り出してきた。

「あのねぇ……人を兵器呼ばわりは良くないわよ? ――部隊長だって、もし聞いたら……」

 言う言葉から、そこにあるべき固有名詞が抜けていることにティアナは気付く。しかしどういう
訳か、この時それを疑問に思うことは無かった。正面で話を聞いているスバルも、聞き返す様子は
何故かない。

「あ、違う。そうじゃなくて、その」

 ぶんぶんと手を振って、スバルはティアナの言葉に訂正を加えた。

「部隊長もそうなんだけど、更に奥の手がある……って聞いて」
「本当に? そんな人、聞いたことないけど」
「ホントだって。副隊長、言ってたもん。対戦しても勝率が3割割ってるって!」
「僕も……聞いたことあります。『あの人には絶対敵わない』って、ついこの間……さんが」

 皿を持って横から出てきて話の輪に加わるのは、赤毛の小さな男の子。ティアナの記憶にない少
年だった。やはりどういう訳かその言葉からも、人名にあたる部分だけがすっぱりと抜け落ちてい
る。
 愛用の槍型デバイスは、今は待機させているのだろう、外から窺うことはできない。その隣には
桃色の髪の少女も立っていた。その少年の言葉に対し、驚きの表情をつくっていた。

「えっ、――さんが? そんなことって」
「……単なる噂じゃないかもね」
「ね、すっごいでしょ! でねでね、午後は今日休憩だから、ちょっと探してみようと思って」
「やめときなさい。『秘密兵器』の秘密暴いてどうすんのよ」

 ぽこん、とスバルの頭を手の甲ではたく。スバルはあたっ、と声を上げてこちらを見た。どこと
なく恨めしそうな様子だ。ご飯を前に「おあずけ」を食らった犬っぽいようにも見えてくる。
 しかしまぁ、気持ちは分からなくない。
 部隊内でも存在そのものは秘密の扱いを受け、しかし隊長たちも隠し通そうとはしない人物。そ
んな魔導師がいただろうか。少なくともティアナの知る範囲で、そのような条件に該当する人間は
いない。この部隊に入ってからまだ日も浅いが、一応おおよその顔と名前は一致するようにはなっ
ている。

(……?)

 あれ? 私って今、訓練校にいるんじゃ……?
 という疑問が一瞬頭の中を過ったが、しかし直ぐに風に吹かれたようにかき消された。ひどく不
自然な消え方だった。意志の動きとは関係なしに、強制的に流し去られる思考。

(……ま、いいか)

 機会といえば、いい機会だ。後方支援に当たってくれる職員と交流しつつ、その存在を探してみ
るのもいいかもしれない、とティアナは思った。

「チャーハンできたよ!」

 と、そこに大きな声が。
 注文の品だ。自分とスバルが頼んだんだった。いつもスパゲッティばかりではアレだからという
自分からの提案だ。散々動き回ったし、大盛りにしたんだったっけ。
 そんなことを思っていたが、振り返った先にあったのは、ただ単なるチャーハンではなかった。
 到底厨房で使えないような、超絶巨大なフライパン。
 中で踊る、数々の具材。香ばしい良い香りを立てているが、いかんせん量がおかしい。人間の食
べれる量じゃない。
 というかちょっとしたベッドくらいは作れそう。

「重い重いぐらぐらぐら」
「ちょ、量! 量! ななな何やってんのよ!」
「……や、原作StSでは、大食らいが二人いるって聞いたので……」
「意味分かんないです!」

 超巨大なフライパン(というよりもう、フライパンというか単なる鉄板と呼んだ方がいい、とテ
ィアナは思った)をプルプル震える両手で支えながら、ぐらりぐらりと不安定極りない歩き方で接
近するこの男。言ってることの意味が分からない。

「とにかくそれ下ろして! って、こっち来ないでくださいっ! ああ危ないじゃないですか!!」
「た……だ、大丈夫だよ! すぐ盛り付けるよ!」
「何や、騒がしーなぁ。何やっとんの?」

 スバルとティアナは、声のした方を見た。
 我らが部隊のリーダーが、怪訝そうな顔で立っていた。救世主だ!

「ん? おー……お! な、な。ちょっと向こうむいてみ!」

 と思ったが、ワクワクうずうずした様子の関西弁の女性は、救いの手を差し伸べにきた訳ではな
いようだった。
 巨大なフライパンを持った男の背後にまわり、そして後ろから何事かを囁き始めたのだった。
 すると――








<ヌヌネネヌヌネノヌヌネネヌヌネノ

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 しー-J                                    しー-J







<ウ〜ンウ〜ンンンンンン〜ウ〜ンウ〜ンン・ン・ン

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 しー-J                                    しー-J







< テ〜ケテ〜ケテケテケテン〜テ〜ケテ〜ケテッテッテ

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 しー-J                                    しー-J







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  しー-J                                  しー-J













「って夢見たの! ねぇ、ねぇティア、怖かった! すごい量のチャーハンが宙からこっちに!」
「っさい! どうして私と同じ夢……あああもう! こ、こっちくんな! ひっつくな!」

 そんな未来の一コマだった。



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